「 幸せ 」



何だろう……

「幸せって何だと思う?」

って問われた

「心が満たされるってことかな」

って呟いた僕に

男は

「だからお前は幸せになれないんだ」

って言った

僕の目を見て

さらに

「そうやって一生もがいて終わるんだよ」

って哀れそうに言った

初対面なのに……


絶望的な気分だった

男の目が

冷たかったからじゃない

僕があまりにも

馬鹿げた人間だって

知らしめられたようで

恥ずかしくて

一生懸命

笑顔を作って

誤魔化したけど

僕の笑顔は誰より

醜かっただろう


帰り道

死にたくなるのを必死で

堪えたけど

歩くのももう厭で

野良ネコが

濡れたアスファルトに

ねそべっていたから

僕も野良ネコとおんなじように

濡れたアスファルトにねそべって

目を瞑った

雨に打たれて

大地の音を聞いた

風を感じた

でも脳裏に焼き付いて

離れない男の

あの冷たい目と言葉

どうしようもなく

好きな人の声が

聞きたかった

ねそべったまんま

彼に電話をかけた

呼ぶベルが回数を刻むうちに

強い不安と恐怖に襲われる

そして無情な

留守電のアナウンスの声

彼には繋がらなかった

自分の弱さとか依存心とか

もっともっと厭になって

やっぱりどうしたって

このまま車にひかれて

しまいたい気分だった

通りがかりの女の人が

僕に「大丈夫ですか?」って

近寄ってきて

野良ネコが逃げた

「すいません」って言って

僕も逃げた

家の傍の

小さな公園の砂場まで

走って逃げた


大好きな子と

小さい頃よく一緒に創った

大きな砂山を創った

トンネルも創りたくて

お山の両方を

繋がるように掘った

雨がしみ込んだ砂は

とても重たくて

いくら掘っても掘っても

繋がらなくて

ひとりじゃとても

繋がらなくて

反対側から

繋がったよって手を

握ってくれる人も

いなくって

悲しくて

淋しくて

怖くて

泣いた……


僕の心が満たされること……

それは

砂山の反対側に

貴方がいて

繋がったよって

僕の手を握ってくれること

繋がったよって

僕の心に触れてくれること

其れが僕の「幸せ」なんだ


「だからお前は幸せになれないんだ」


叶わないのかな

もがいて

苦しんで

やがて

のたれ死んじまうのかな


「そうやって一生もがいて終わるんだよ」


男の職業は占師だった



マリア


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