結局、ツカンポ日記

3.馬の故障と死について

11.01
東京
11
第118回 天 皇 賞(秋) (GI)
3歳以上牡・牝
芝2000m
撥ね万直撃!  #03 2004.10.24

■秋の天皇賞は一番好きな古馬G1である。何と言っても魅力は府中の2000mという設定。スタート地点の問題は確かにあるが、馬の総合力を問うには最適な条件ではないか。歴代の勝ち馬を見ても、マイラーのニッポーテイオー、ヤマニンゼファーからステイヤータイプのタマモクロス、スーパークリークまで。さらには牝馬のエアグルーヴ、ダートでもG1を勝ったアグネスデジタル、ローカルの上り馬レッツゴーターキン、そして3歳馬の活躍とまさに何でもあり。どんな適性の馬でも能力を出し切れるのがこの2000mという舞台。そこで繰り広げられるのはまさにトップを決めるガチンコ勝負と言っていい。
■そこでこのオマケネタ。いつの間にか「思い出のG1」的になってしまったが、今回はどの年にするか迷った。2代目SB対決を外から掻っ攫っていった大崎昭一ターキンの92年、馬券的に会心の一撃だったネーハイ=セキテイの94年、そしてマックイーン悪夢の降着があった91年etc・・・。先に書いたとおりその年ごとにドラマがあり、ピックアップしたい年はたくさんあるのだが、ここでは天皇賞史上最大のドラマ(この場合トラジディと言うのが正確か)が起こった98年を“敢えて”取り上げてみたい。
■競馬を始め、競馬にのめり込む人間のきっかけは、ほとんどの場合“名馬”の存在いうことになろう。ハイセイコー、TTG、ルドルフ、オグリ、ブライアン、オペラオー。これらの下に“世代”を付けてみると大部分の競馬ファンは当てはまるのではないか。サイレンススズカもここに入る立派な名馬。重賞での大差レコード逃げ切りなどそうそうお目にかかれるものではない。“インパクト”でいけば上記名馬たちの中に入っても最上位だろう。「凄い馬がいる」という情報から競馬に興味を持たれた方も多いはずだ。衝撃の金鯱賞~初G1の宝塚、そしてスズカのベストパフォーマンスである毎日王冠を経て6連勝でこの秋の盾へ挑む。スズカ一色の天皇賞。他馬は恐れをなしたか出走頭数はグレード制導入以後最少の12頭。単勝1.2倍、単勝支持率61.9%。もはやファンの注目はスズカが勝つかではなく、それを通り越して勝ち時計はどのくらいになるかというところまで行っていた。翌日のスポーツ紙の見出しを既に考える者もいた。誰もがその“圧逃劇”を信じて疑わなかったのだが・・・。




馬  名

騎手

ひとこと
1
サイレンススズカ
牡5
武 豊
58
F1先行圧逃劇だ
2
メジロブライト
牡5
河 内
58
見えたぞ春秋連覇
 
3
テイエムオオアラシ
牡6
福 永
58
この相手では苦戦
4
ローゼンカバリー
牡6
横山典
58
脚あるも着一杯か
 
5
ゴーイングスズカ
牡6
南 井
58
渋れば少し望みも
6
オフサイドトラップ
牡8
柴田善
58
老いて今最高潮だ
 
7
サイレントハンター
牡6
吉 田
58
行った行ったなら
8
サンライズフラッグ
牡5
安田康
58
速い流れ向きそう
9
シルクジャスティス
牡5
藤 田
58
そろそろ一発気配
10
ステイゴールド
牡5
蛯 名
58
相手なりここでも
 
11
ランニングゲイル
牡5
四 位
58
かつての輝き無く
12
グルメフロンティア
牡7
岡 部
58
鉄砲も底力魅力で
天 皇 賞
結果
配当
着順
馬  名
タイム/着差
人気
1着
06 オフサイドトラップ
1.59.3
(6)
2着
10 ステイゴールド
1 1/4
(4)
3着
08 サンライズフラッグ
(5)
4着
07 サイレントハンター
アタマ
(8)
5着
02 メジロブライト
1/2
(2)
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
中止
01 サイレンススズカ
(1)
 
単勝
06
4240円
複勝
06
10
08
580円
300円
450円


発売なし
枠連
5=7
3680円
馬連
06=10
12210円
馬単
発売なし
3連複
発売なし
3連単
発売なし
レース回顧

■完璧なスタート。大観衆の期待を乗せてスズカは軽快にラップを刻む。1000m通過が57秒4のアナウンスに大きく沸くスタンド。速すぎる?いや、これがスズカのペース。涼しい顔で気持ち良さそうに逃げている。いつものように完全な一人旅を楽しんでいる。誰も追いつけやしない。3コーナー、スピードはトップギア。差は拡がる。場内のどよめきは大歓声へと変わっていく。さあ今日もぶっちぎりを見せてくれ!…その時!
■その“音”が聞こえた。武豊は確かにその音を聞いた。無意識に、目一杯に手綱を引く。一瞬の出来事。なに?何故?信じられない。信じがたい光景がそこにはあった。スズカが止まる。歓声が、悲鳴へと、変わった…。
■「死の逃走」。翌日のサンケイスポーツ1面の大見出しである。競馬の結果が1面に来ることなど滅多に無い。あろうことかこんな形で1面を“飾って”しまうことになるなんて…。それだけ与えたショックは大きかった。大きすぎた。スズカの走りをターフで見ることはもう叶わない。スズカの子供を見ることすらできない。しかし、その走りは色褪せることなく人々の胸に刻み込まれ、語り継がれるであろう。

■私は「敢えてこの年を取り上げる」と書いた。あのシーンは今思い出しても涙が出そうになる。しかし選んだ理由は他にある。それはキングカメハメハの故障を受けて思うところがあったからだ。残念ながらカメハメハは天皇賞を前にリタイアしてしまったが、このことに対し、「また松国が・・・」的な論調がネット上でかなり目に付いた。もちろん、考え方や捉え方は人それぞれなのだが、果たしてこういったことを“本心から”書く人間というのは競馬をどう見ているのだろうか。単なるギャンブル?ならそんなことをいちいち書く必要は全くない。馬に少しでも感情移入しているからこそ、そのような表現をするのだろう。私はそこに矛盾を感じてしまう。調教師が“明らかに”おかしなことをしているのならわかる。しかし馬に携わる人間として、彼らは愛馬を勝たせるために、名誉と賞金を手に入れるために必死になっているのだ。それはおかしなことではない。試行錯誤もあるだろう。騎手だって馬主だって同じだ。その過程で馬が故障を起こしてしまうのは、結果としての不運以外の何ものでもない。具体的な例をあげる。たとえば、ミホノブルボン。故障したのは戸山調教師が坂路でスパルタ調教を施しすぎたがためであろうか。たとえば、スズカ。無謀なペースで飛ばし続けたからと武豊を罵ることができようか。たとえば、ライスシャワー。過酷なローテーションだったと飯塚調教師を責められるであろうか。そして、サンエイサンキュー。この馬に関しては“おかしなこと”の線引きが難しいと言う人もいるかもしれない。しかし、これに関しても、田原も正しいし、馬主も正しいと私は思う。
■馬の故障や死は悲しいものだ。特に名馬と呼ばれるクラスの馬は“神格化”されがちであり、糾弾の矛先が人間に向かいやすい。だが、大事なのは競走馬として生きた軌跡を心に刻み、その成績を称え、余生の活躍を祈る、あるいは冥福を祈ることではないかと考える。競馬を、馬を愛するファンはそうであって欲しいと願う。




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