さて、「ハレルヤ」ですが、冒頭に「神を喜ばすためにデイビッドが弾いた秘密のコード(和音)があると聞いたことがある(I heard there was a secret chord that David played to please the lord)」とあり、コーヘンはユダヤ教徒ですので、「デイビッド」というのはダビデ王のことでしょう。「でもキミは音楽にはあんまり興味ないよね(But you don't really care for music, do you)」という挿入句の後、「その曲はこういう感じで、4度、5度(Well it goes like this, the fourth, the fifith)」と続きます、これは三和音の4度の和音、5度の和音という意味で、この時、曲自体の和音が4度、5度と進行しています。そして「躓いて立ち上がり(The minor fall and the major lift)」、minorは短調、majorは長調ですが、少しの、大きな、という意味を掛けた言葉の遊びで、人生には罪を犯して躓くこともあれば、神に救われることもある、ということをコード進行の喩とうまく絡ませて、更に曲自体のコード進行がそれに合わせて流れる、という巧妙な仕掛けです。この後「悩んだ王が作曲するハレルヤ(The baffled king composing Hallelujah)」と続く時に、Cのキーで言いますと、F、G、Am、F、G、E7、Amとコードは進行し、同時にメロディーが昇って行き、ハレルヤと歌う時に落ち着く、この部分がおそらく多くの人(特に西欧人の場合)に宗教的な精神性を感じさせるんだろう、と思います。もちろん、彼ら西欧人にとってはハレルヤという言葉が持つ「神を讃えよ」という意味が、意識あるいは無意識として感じられていることは間違いないでしょう。(クリスマス・バージョンというのも存在していて、これはもう完全にキリスト誕生譚に基づくものです。コーヘン本人が作詞したとは思えませんが・・・)