怠惰の箱庭

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第5章 草麻



「何か居るな。それもとんでもない奴が」

倉見が悪態をつく。

「どうやら剣とやらの情報は本当だったようだな」

卓は落ち着いているが、僅かに殺気が漏れ出ていた。

「行くぞ、ここに居てはじき見つかる。相手が気づかないうちに相手の懐に飛び込まないといけないからな」

と卓が言った。そのとたんなにかに抱えられて移動していた。俺を抱えていたのは倉見だった。

「お前・・・・」
俺が何か言葉を発しようとしたが、

「黙ってろ。舌噛むぞ」

常人ならざるスピードで走る倉見に遮られた。速い。とにかく速い。周りなどまるで見えない。しかも俺を抱えながら、である。俺を下ろしたらもっと速いのだろうか、と思っているうちに倉見が停まった。

「来るぞ―――!」

倉見が怒鳴る。とっさに転がっている枝を拾い、剣に変える。次の瞬間、周りには無数のゴーレムが現れた。容姿は小さめだが甲冑を着た騎士のようなズングリムックリした体形のものから、細く大きい物など様々だった。

「喰らえ!」

倉見がゴーレムに拳を叩き付けた。ゴーレムが粉砕される。倉見は手際よくゴーレムを蹴散らしていった。

「樹、危ない!]

余所見をしていた俺に空から卓の鋭い声が飛ぶ。振り向けばそこには腕を尖らせ槍のようにしていたゴーレムがそこまで来ていた。

「フッ――!」

とにかくどこが弱点かも分からないので石ころを沢山拾って刃に変えながら投げ、滅多刺しにする。とりあえずダメージを与えられたようで、ゴーレムは土に返った。

「ゴーレムの弱点は胸の辺りだ!そこを狙え!」

倉見からアドボイスをもらい順調にゴーレムを撃破していった。しかし、一体のゴーレムのみ別方向に向かっていく。そこには―――なぜか、剣がいた。

「まずい!あのままではあいつは殺されてしまう。助けに行かなければ!」

卓が叫ぶ。俺はその声もまともに聞かず走り出した。

「剣―――!」


少年―瀬多剣は混乱していた。なんで自分のクラスメイトや友人達が土人形と戦っているんだ?それ以前に何で土人形が動いてるんだ?それに翼がついてて空を飛んでるのは人間じゃないのか?なにがどうなっているんだ?

その疑問は次の瞬間どこかへ行ってしまった。あっちで戦っていた土人形がこっちに向きを変えて走ってきたのだ。周りから俺を呼ぶ怒鳴り声がする。友人である谷田樹が走り寄る。しかし間に合わなかった。

土人形の尖った腕がそれを避けようとした俺の左肩に突き刺さる。今まで感じた事の無い凄まじい激痛がする。樹の叫び声をぼんやりと聞きながら倒れていく自分の左肩を見ると、左腕が胴体にくっついているのがおかしいくらい大きな穴が穿たれていた。もう完全に左腕は動かない。樹が地面に倒れて動かない俺の身体を揺さぶり、何か叫んでいる。もう、何を言っているのかもおおまかにしか分からない。後ろから樹に土人形達が襲い掛かる。

「い・・樹・・・・危な・・い・・・」

なんとか声を出して樹に警告する。樹はおれの声を聞いたのかどうか分からないが後ろを振り向き、いつの間にか握っていたナイフを土人形の胸に突き立てた。しかし、土人形は崩れながら樹の右腕を斬りつけた。

「ぐっ・・・・!」

樹が痛みに顔を歪めつつも土人形を破壊し、

「剣、待ってろよ。絶対にお前を助けてやる」

そう言って戦いに戻った。ああ、俺はこのまま死んでしまうのか。左肩に空いた空虚な穴から血液、命が流れ出していく。

霞んだ視界が戦っている樹を捉える。頭の中で声がする。『俺は、また』樹は土人形と戦い続けている。『友の役に立てず』樹が傷ついた右腕を押さえている。『終わってしまうのか』樹は必死に俺を守ろうとしてくれている。『嫌だ、俺は戦うために戻ってきたのだ』その瞬間、何かよく分からない光景が沢山頭の中に浮かんで消えた。そうだ、俺は戦う為にここにいる。ここで死んでいてはいられないのだ。土人形が倒れている俺を囲む。目の前が真っ白になった。 /続




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