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怠惰の箱庭
第7章 不信
卓の家に移動してから、倉見が剣に質問する。
「俺の能力は動物以外の物体、物質を原子レベルに分解する事。ただし発現できるのは1日に1回、90分間だけ。それ以降は絶対に能力の発現は出来ない。目的は判らない」
剣が淡々と答える。
「強力な能力である分制限も多いのか・・・しかし目的が判らないと言うのはおかしいだろう。何がしかの目的がある筈だ。お前ほどの能力者が全く知られていないのも妙だしな」
卓が納得できないと言う顔で倉見の後に続く。
「目的は全く思い出せない。能力についての記憶以外は何も判らない。それに俺はそもそも知られている筈が無いんだ。何しろ能力者と殺りあったのはあれが初めての筈だからな」
「なら、お前はどこで能力の存在に気づき、訓練されてきた。あの動きや能力の使い方は素人とは全く違うだろう」
倉見は質問を変え、剣の正体を探ろうとしている。
「思い出せない。今の俺にあるのは自分の能力の知識、能力の使い方、戦い方と、“この時代に用意された記憶”だけだ」
「“この時代に用意された記憶”?どういうことだ?時間や時空間の転移能力を持つ奴がいるというのか?」
卓が剣の“この時代に用意された記憶”という言葉に過剰反応している。
「それも思い出せない。言っただろう、俺にはまともな記憶が無いんだ」
剣が同じように繰り返す。気になる。“この時代に用意された記憶”ってなんなんだ?そういえば俺は、この記憶に違和感を感じていなかったか?昔の記憶が曖昧だったりしなかったか?俺と剣は同じなのか?それとも俺や剣はただ単に頭がおかしいだけで、特にそれが剣の場合激しく現れているのではないか?どっちなんだ?疑問を解決する為に、とにかく剣と話をしてみようと思って、
「お前は、“まともな記憶”が無いのに、何故“この時代に用意された記憶”なんてのがわかるんだ?それに能力の事だって、何でそれだけ知っていてそのほかの記憶が無いんだ?」
と質問した。
「知らないね。大体お前だって、能力が発現したての頃に雑魚とはいえ能力を使い慣れてる奴を秒殺出来るはずが無いじゃないか」
剣がお前はどうなんだと言う風にこちらを見る。
「お前、何でそんなこと知ってるんだ・・・・あの場にお前はいなかったじゃないか」
おかしい。あいつはあの時いなかったんだ。俺のあの行為を知っている筈がない。
「さっき倉見から聞いた。お前の能力が発現した時の事を詳しく、な」
剣が倉見の方を顎でしゃくる。
「なんで、剣に俺のことを・・・・」
信じられない。何故倉見が剣に俺のことを喋ったのか全く理解が出来ない。そう思いながら倉見の方を振り向くと倉見が、
「俺はずっと気になっていた。お前の存在が発覚した夜のことが。今回はそのときとほとんど状況が同じだった。それでそこの奴にお前のことを話し、何か知っているかと問い詰めたんだ」
と言い、倉見が俺から卓に目を向け、
「ま、こいつは何も知らないと抜かしやがったが。それに卓がこんな正体の分からん奴を仲間にしていることもおかしいと思っている。どうなんだ?卓」
と言い放った。
「秋、これは本部の意向だ。樹が気を失っている間に本部に連絡を取ったら、その場に留めておけ、場合によっては戦闘の参加も許可すると言われたものだからこうしていただけの事なんだが」
卓はいつもの態度を崩さず答える。
「本部が?いったい何故なんだ?それにこれから先こいつはどうなる?」
倉見は動揺を隠せずにいた。
「あと少しで樹用のACMが届く。それの適合をした後、本部に樹を連れて行く。そしてそこで最終的な判断が下される」
俺は聞きなれない単語におや、と思い卓に質問してみる事にした。
「なぁ卓。ACMってなんだ?俺には何の事だかさっぱり分からない」
「“Ability Control Metal”<アビリティコントロールメタル>、能力制御
の装身具の事だ。必ず特殊な金属が使われている為、このような名前になった。ほら、俺のブレスレットや秋のグローブと同じだ」
俺の質問に答えて卓は行きがけに見せてくれたブレスレットをかざした。
「ああ、それの事か。でも適合ってなんだ?と言うかどうやってそのACMとやらは届くんだ?」
自分でも間抜けな質問だと思うが、分からないのだから仕方がない。
「ACMは本部直属の能力者が運んでくる。適合とは能力者がACMの形状を固定し、機能するように調整する事だ」
「なんで本部直属の能力者なんだ?わざわざ手間がかかるんだから郵送とかにすれば良いのに」
「駄目だ。ACMは大変貴重なもので、それ自体に強大な力が内包されている。だからヴェトリアスに強奪されたら大変なことになる。そういった厳戒態勢の中でもいくつかのACMは奪われ、兵器化されてゲイヴの脅威となっている」
俺はそこで納得したが、倉見はそうはいかなかったらしい。
「待て。こんな立場の不安定な奴にACMを持たせて、そのままヴェトリアスに逃げ込んだらどうするんだ?それこそ最大の脅威になるかも知れないんだぞ」
「安心しろ。今の樹にはそんな考えは無いようだし、俺達とACMを届けに来た能力者が全力で護衛する事になっている。それにその時にはそこの瀬多ってのも連れて行く」
卓は俺のことを信じてくれているようだ。
「だから危険なんだよ。谷田にその気が無くたって、瀬多が本気でかかってきたら俺達だけで何とかできるのか?こいつは相当強い。それにもし谷田までそうなったらはっきり言って勝ち目なんかかけらだって無いぞ」
倉見は最悪のケースを想定していると言うよりは、ただ単に俺達が信じられないようだ。
「大丈夫だ。そんな事をしようとしたら本部の能力者に殺されてしまうよ」
「ヴェトリアスの強襲があってもか?相手側につくかもしれないのにどうしてそこまで自信が持てるんだ?」
倉見は卓の回答にいちいち異論を挟んでくる。
「こいつらにはヴェトリアスに加わる理由が無い。二人とも世界の再構築だとか、ただの人間を全て消し去ってしまいたいというような願望が無いのだから」
そこまで言われて倉見は黙ってしまった。倉見が大人しくなったのを見計らって、
「樹、瀬多。二人とも今話していたやり方で行く。異議は無いか?」
俺と剣は無言でうなずいた。
「準備が出来次第連絡する。そういうことで今日は解散だ」
俺達はそれぞれ別々に帰路に着いた。 /続
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