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怠惰の箱庭
第8章 適合
卓達から本部の者が来たという連絡が入り、俺と剣は卓の家に行った。
「やっと来たか。早く上がれ、向こうで本部の能力者が待っている」
待ちくたびれた様子で卓が俺達を迎え入れた。
「なぁ卓。その能力者ってどんな奴だ?相当強いんだったよな」
移動しつつも卓に尋ねた。
「・・・・・会えば分かるさ」
妙な間を置いて卓はため息を吐きつつ言った。
「でもって、ACMの適合って具体的にどんな事をすればいいんだ?まさか鍛冶屋みたいなことをするんじゃないよな」
「まさか。まあ作業は簡単だけど、危険度はかなり上だな」
卓が危険な事をさらりと言ってのけた。
「危険・・・・なのか?失敗したら一体どういう風になるんだ?」
危険と言う言葉に反応して質問する。
「最低でも適合しようとした能力者の手足の一、二本、最悪だとこの町の三分の一が吹っ飛ぶ」
俺は卓の言葉に愕然とした。町の三分の一・・・・絶対に失敗出来ない。
「着いたぞ。中には例の能力者と秋が待っている」
「倉見もいるのか」
部屋に着くまで終始無言だった剣が口を開いた。
「ああ。今あの人の相手をしてもらっている」
卓がまたため息を吐いた。
俺達は部屋に入り、信じられない光景を目の当たりにした。部屋の中は酒瓶が散乱していて、部屋の隅のほうで倉見が倒れていた。その隣で誰かが酒をあおっている。
「倉見!?一体何があったんだ!?」
警戒する俺達とは裏腹に、卓は呆れ顔で、
「やっぱり・・・・・・おい秋、起きろ、樹達が来たぞ」
と倉見を揺さぶり起こした。
「ぐ・・・頭が・・・・は、吐き気が・・・・・」
「しっかりしろ、秋。とりあえず向こうに行こう。樹、瀬多と二人でその人の話を聞いててくれ。少ししたら戻ってくる」
卓は倉見に肩を貸して行ってしまった。
「こんにちは!待ってたよ。君たちが例の天才能力者ってやつ?」
荒れ放題の部屋にいたのは恐ろしく酒臭い、せいぜい二十二~五歳に見える女性だった。確実に酔っている。
「う・・酒臭い・・・・・」
「・・・・・」
俺達があまりの臭いに閉口していると、
「こっちが質問してるんだから答えなさいよねー。いい?もう一度訊くけど、あなた達が適合をしにきた能力者なの?」
少しご機嫌斜めの様子で訊き直されたので真剣に答える事にした。
「はい。俺は谷田樹っていいます。樹木の“じゅ”って書いて樹って読みます。こっちは瀬多剣です」
とりあえず名を名乗り、相手が口を開くのを待つ事にした。
「ふうん。平均的な感じの方が樹君で、大柄な方が剣君ね。私は梶尾沙理佳<かじおさりか>。呼び方は何でもいいわよ。能力は発火。ただし手で触れないとダメだけどね。君たちの能力は、確か樹君の方が物質を刃に変える事で、剣君の方は・・・・えっと、何だっけ?」
「動物以外の物質を原子レベルに分解する事です」
剣が顔をしかめつつ言った。
「そう、それそれ。確か一日九十分しか使えないんだよね。でもずいぶんややこしい能力だよねー。どこから派生したものなのかな?」
話の内容がずれ始めたので、
「あの、適合ってどういう風にやればいいんですか?」
話の軌道が直るように言ってみた。
「ちょっと待ってて。取ってくるから。説明はその後でするわ」
さっきまで酒を飲んでいたとは思えないしっかりした動きで酒瓶だらけの部屋の中からアタッシュケースを取り出した。
「キミ達にやってもらうのは、これに能力を込めて何か装身具の形をイメージするだけよ。でもちゃんと集中してやらないとそれが暴走して吹っ飛ぶわよ、あなた達。だから適合中には変な事考えちゃダメ」
と言いながらアタッシュケースを開けた。中に入っていたのは銀色のつるりとしていて丸い握りこぶし大の金属球だった。
「まずそれを手にとって。何か変化が起きる筈だから」
卓に言われたことを気にしてそっと球を手に取る。金属球の色が変化していく。
「うわ、なんだこれ・・・・色が、変わってく・・」
変化に慌てているうちに金属球は濃紺に変色していた。ここまできてやっと余裕が持てたので剣の方を見やると、剣の金属球は暗めの黄色に変わっていた。
「それぞれの色が決まったようね。そうしたら次はそれを強く握り締めてそれに対して能力を発現させてみて。その時には自分が身に着けたいアイテムの形を想像しないととんでもない目にあうから、気をつけてね」
梶尾がそう言ってタバコの先を指でつまむと、タバコには火がついていた。
「あ、火がついてる」
「そこ!集中しなさい。私の能力についてなら後で細かく説明してあげるから今はそっちに専念するのよ」
ちょっと独り言を言っただけで怒鳴られてしまった。この金属球に能力を発現させるって事はこれを剣に変えればいいのだろうか。でもアクセサリーの形をイメージしろって言ってたから、ただ単に剣に変えればいいって訳ではないらしい。とりあえず剣の形がだんだん指輪になるイメージをしてみる事にした。
球が光り始めた。キュウゥンという変な音を立て、つけていたペンダントまでが光ってきた。
「な、なんだこれ・・・熱っ!」
球が熱を持ち始め、急速に形を変えていく。それに反応するかのようにペンダントがさらに奇怪な音を立てる。そして球の形が完全に変わった時には、ペンダントも元に戻っていた。イメージが効いたのか、ちゃんと指輪の形になっている。
ぽん、と後頭部に手を置かれたので振り返りろうとした。
「うまくいったみた―――」
「動かないで」
感情のない冷たい声だった。 /続
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