怠惰の箱庭

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第9章 疑惑



と言う声に俺は固まった。

「あの、一体何を・・・・・しているんですか?」

声を出せばどんな風になるかうすうす勘付いてはいたが、それでも俺はそう質問せずにはいられなかった。

「黙りなさい。あなたはこれからただ私の質問に答えていればいいわ」

さっきと同じ、有無を言わせぬ厳しい口調だった。

「まず一つ目。あなたは一体何者?どこの組織の一員なの?」

「俺の名前は谷田樹。所属している組織はありません」

とりあえず質問に答えていれば何かされる事はなさそうだったので素直に答える。

「私はあなたのでまかせを信じてあげるほどお人好しじゃないわよ。正直に答えなさい。そんなに早死にしたいのかしら?」

「無いものは無いです。あなたにこんな事されるいわれも全く無いです」

梶尾は俺が少しも動揺しないどころか言い返すさまに動揺している。そしておもむろに俺の首にさがっているペンダントを奪おうとして手を伸ばす。その手がペンダントに触れたと思った瞬間、バチッという音がして、

「ぐうっ・・・・」

俺を押さえていた梶尾が吹っ飛んでいた。また捕まらないように素早く部屋の中の小物を幾つか拾っておく。部屋の中を見渡すと、いつの間にか剣の姿は消えていた。そうこうしている間に梶尾が立ち上がり、素早い動きでおれの頭を掴む。しかし頭を掴まれると同時に俺は梶尾の喉にナイフを突きつけていた。

「あなたがそのナイフを振るうより早く、私はあなたの頭を消し炭に出来るわよ」

「それは――どうだろうね!」

梶尾が自分の首に集中している時に、俺の頭を掴んでいる方の腕にもう一本の短剣を突き立てようとする。

「―――っ!」

梶尾は咄嗟に後ろに下がり、体制を立て直そうとする。その間を狙って短剣を数本投擲する。

「まだまだァ!」

梶尾は転がっている酒瓶を拾った。その途端ゴウッ!という音がして酒瓶が燃え上がる。そうして出来た燃える瓶で短剣をなぎ払っていく。そして瓶に次々火をつけこちら側に投げる。

「くそっ!なら、こっちだって!」

飛んで来る酒瓶に確実に短剣を投げる。

「甘いのよ!」

梶尾が酒瓶の弾幕の中から飛び出し、こちらの首を掴みにかかる。その手に対して短剣を突き出し、串刺しにしてやろうと短剣の最後の一本を構えたところで、

「そこまで。人の家で何をやっているんですか、まったく」

卓と倉見が部屋の中に入ってきて、俺は短剣を弾き飛ばされ、梶尾は火を消され腕を掴まれた。

「どういうつもり、萩乃君。こいつが何者だかわかってるの?」

梶尾が苛ついた声を出す。

「ここは室内です。あなたが暴れたら家が焼け落ちてしまいます。それに樹は本部まで生きたまま送り届ける筈ですが」

卓がきっぱりと言った。

「それは・・・・・でもこいつはまともじゃないわ。少なくともちょっと前まで一般人だった奴ではね」

梶尾の意味深な発言に、倉見が過剰に反応する。

「それはどういう事ですか!?こいつは一体何者なのか分かったんですか?」

「何者かは分からないけど、こいつACM・・・・いえ、それ以上の“何か”を持っているわ」

梶尾が俺の首に下がっているペンダントを指差して言う。

「谷田、そのペンダントはどういう代物だ?答えろ」

倉見が凄みを利かせて言う。

「知らない。こっちの方が教えて欲しいよ」

やれやれと首を振りつつ答える。

「いい加減にしろ。いつまでもそうやって隠しきれると思うなよ」

倉見が戦闘態勢に入り、こちらに向き直る。

「隠すも何も知らないんだから聞き出しようがないさ」

倉見の脅しにひるむことなく答える。

「こいつ―――」

我慢の限界と言うかのように倉見が右手を握り、振り上げたところで、

「こんな所で死にたくなかったらそこまでにしておけ」

いつの間にか倉見の後ろにいた剣に両腕を易々と押さえられ、動けなくなってしまった。

「貴様、何でこんな事をしている」

倉見は後ろにいた剣に気付かなかった事と簡単に押さえつけられている自分に歯噛みしながら、それでも精一杯凄んだ声を出す。

「ここでお前に死なれると部屋が大変な事になるし、死体を始末するのが面倒だからな」

凄まれた剣は涼しい顔で返す。

「内輪もめは終わりだ。これから本部まで移動する。万が一の敵襲に備えて最低限の準備はしておくように」

かなり険悪な空気の中、卓の一言で皆が動き出した。



全員が準備を終え、玄関前に集合した。

「それじゃあ行こうか」

これから別の場所に移動すると言うのに屋敷の奥に向かっていく卓達を疑問に思いつつもついて行くと、廊下の突き当たりまでやってきた。

「行き止まりだろ、ここ」

そう言ってはみたものの誰も相手にしてくれず、目の前の壁をぼんやりと見ていると卓が何かやり始めた。卓が壁に向かって手をかざすと壁が開いた。その先に下り階段がある。皆でそこを降りていくとそこは結構広い地下室になっていて、なにやら怪しげな筒がいくつか置いてあり、色々な装置と繋がっていた。

「一人づつ筒の中に入って」

卓がそう言っていくつもある筒を指差す。訳が分からないがとにかく皆従っている事だし入る事にした。筒の中は妙に明るい光で満たされていた。全員が中に入ったのを確認して卓がコントロールパネルらしき物を操作し始めた。操作を終えると卓も筒の中に入る。これから何が起こるのか分からなかったが、周りが皆目を閉じているので俺もそれに合わせる事にした。

その途端、浮遊感と目を閉じていてもはっきりと分かる強い光がして、まるで無理やりスイッチを切られたように意識が途絶えた。 /続


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