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怠惰の箱庭
第10章 待ち伏せ
誰かに揺さぶられている。前にもこんな展開があったような気がする。確か目を覚ますと知らない場所に来ていたっけ。今度はどうなのかな――
「さっさと起きろ。置いてくぞ」
軽く頭をはたかれて目を開けると、あたりはもう暗く、どう見ても山奥な風景が目の前に広がっていた。そこで俺はどうやら木にもたれかかっていたようだ。
「ここはどこだ?何でこんな所に来ているんだ?」
確か俺達は卓の家の地下にいた筈だ。どう考えても今の状況はおかしい。テレポートしたとでもいうのか。しかしテレポートなどその類の能力者でないと出来なさそうなものだ。何故テレポートが出来たのだろう。もしくはあの時気を失った後に、ここに別の手段で運ばれたのか。とりあえず卓あたりに聞いてみることにした。
「なあ卓、これからどうすりゃいいんだ?」
肩をたたいて話し掛けても反応がない。さっきから誰も一言も話さず周りを警戒し続けている。そこまできてやっと気付いた。周りの闇に無数の“何か”が潜んでいる事に。
「――――――!!」
そのあまりの数に愕然として立ち止まると、剣がやっと気付いたのかという視線を送ってくる。俺は長い枝を手に取り、構える。皆もそれぞれに戦闘体勢に入る。そのままの状態で一分程した後、闇の中から人影らしきモノが出てきた。
「今晩は、ゲイヴの能力者諸君」
暗闇の中から出て来たのは背広を着た三十~四十歳に見える男だった。
「立ち去れ。さもなくば殺す」
今にも駆け寄って相手の首を落としかねない程の殺気を放ち、倉見が言う。しかし背広の男は動じず、
「今回は戦いに来たのではない。交渉をしに来たのだ。なに、用件はいたって簡単だ。そこに居る坊や二人をこちらに引渡しさえすればいい」
そう述べて俺と剣を指差した。
「我々は彼らに非常に興味があってね。出来る限り生かして連れ帰らねばならないんだ」
「断ったら?」
「力ずくで連れ帰る。ああ、どうしても駄目だったら殺しても構わないとの事だから、抵抗すれば容赦はしない」
「なら断る」
倉見が答えると、背広の男はやれやれと肩をすくめた。
「なら仕方がないな。君たちには死んでもらうことにしよう。元喜<もとき>、来なさい」
背広の男が手招きすると、もう一つ人影が現れた。
「お呼びですか」
出て来たのはまるでプロレスラーのような体型の、がっしりした青年だった。
「君は、一番前に立っている手袋をした坊やの相手をしてあげなさい。遊んでも良いが、最後にはちゃんと仕留めるように」
「承知致しました」
元喜と呼ばれた青年は、頷くと倉見の方に向き直った。
「お前、確かあの倉見清雅<くらみせいが>の息子の秋とかいう奴だったな」
「それがどうした」
倉見が答えると、青年は気持ち悪い微笑を浮かべ、
「俺は楼耶元喜<ろうやもとき>って名前なんだ」
それだけ言うと倉見に襲い掛かった。
「楼耶だと!?」
倉見は明らかに動揺していた。その顔に容赦のないパンチが繰り出される。倉見は軽く3mくらい吹っ飛び、うめき声一つあげず地面に転がる。
「秋!」
倉見に駆け寄ろうとする卓の前に、周りを囲んでいた奴らの一部が立ちふさがる。
「かなりヤバいわね」
梶尾の方も囲まれていた。
「君、余所見をしている場合じゃないよ」
周りを見渡していると後ろに背広の男が立っていた。
「君は我々の組織に入るのだからね、先に自己紹介でもしておこう。私の名前は鏡原玲治<かがみばられいじ>だ。覚えていた方がいい。向こうに着いたとき真っ先に頼る事になるから」
「お前らの組織に入るつもりは毛頭ないね!」
先ほど拾った長い枝を長刀に変え、目の前に居る能力者を斬りつける。しかし相手は容易くかわす。
「やれやれ。君は分かっていないようだ。今の状態なら私が殺るまでもない。お前たち、出てきなさい」
鏡原の一言で周りから五人現れ、俺を囲む。
「獣化を全面的に許可する。殺す気でかかれ」
能力でどうにかされる前に敵を一人一人殲滅しなければならない、と思い正面に立っている奴に走り寄ろうとした時ふと、――俺はこんなに残虐な事を考えるような奴だったか、という思いが頭をよぎる。左肩に鋭い痛みが走った。とっさに飛び退き、痛みの原因と状況を確認する。
どうやら俺は考え事に熱中してその場に立ち尽くしていたようだ。幸い左肩の傷はそう深くはなかった。傷口が切り傷のようだったので相手も何かしら刃物を使うのかと思いもう一度周りを見渡すと、周りを囲んでいた“人間”はどこにもいなかった。代わりに立っているのは鋭い牙と爪を持つ、類人猿のような獣達だった。
「さあ、私が選んだ素材達と存分に戯れるがいい。全てを蹴散らす事が出来たなら、私の元まで来れるかもしれない」
鏡原は高笑いして後ろに下がっていった。それが合図とばかりに獣達が襲い掛かってきた。一体目を肩から袈裟斬りにして、その後ろに居た二体目の首を落とす。背後に回ってきた三体目の胸を振り向きざまに貫き、そのまま上に長刀を上げ胸から頭まで一気に切り裂く。
まるで自分の体ではないのかと思えるほど鮮やかな動きで、無感動に敵を殺していく。そこでまた最初に敵を襲おうとした時の考えが戻ってきた。
俺はこんなに残虐だったか?何故俺はここまで生き物を殺すのに無感動で手馴れているんだ?と。
すぐ後ろで獣の咆哮が聞こえて我に帰った。俺はまた立ち止まっていたらしい。今がチャンスだと思ったのか、それとも少し考えたのか獣達は二体同時に襲い掛かってきた。落ちている石を短剣に変え、二体の内の片方の奴の目に向かって投げつける。目を潰されて暴れている奴に背を向け、もう片方を仕留めにかかる。四体目を真っ二つにした時、ドン、と背中に衝撃が走る。
「あ―――」
腹の辺りから何かが出ている。
無意識の内に後ろに佇んでいるであろう最後の一体の頭を後ろ向きのまま長刀で貫いていた。ズル、と腹から突き出ていた爪が抜け、その場に倒れ伏した。 /続
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