怠惰の箱庭

怠惰の箱庭

第10-B章 楼耶元喜(倉見パート)



「この野郎ォ!」

倉見は全力で相手に当たっていく。ただひたすらに目の前の敵を排除する事を考え、相手に最も致命的なダメージを与えられる場所を確実に狙う。

「くっ――!」
倉見の猛攻に反応しきれず楼耶の体に一撃が決まる。

「やった!」

これで相手は立つことさえ出来なくなる程の重傷を負った筈だと、思った。

「グオオオオオオオオオオオオオ!」

だが目の前に佇んでいるのは、致命傷を負った楼耶ではなく、まして人間ですらなかった。そこに佇んでいたのは体長が二メートル余りある一体の巨大な獣。

荒れ狂い咆哮するその姿に、倉見は愕然とした。さっき間違いなく相手に一撃を食らわせた筈だ。自分の拳で相手の骨を粉砕する感触もあった。それでいて何故、アイツは無傷なのか。

「ガアアアアアアアアアア!」

呆然と立ち尽くす倉見に長く鋭い爪が襲い掛かる。倉見はそれを辛うじて避けて、腕を砕いてやろうと拳を振るう。しかし獣と化した楼耶はハエを叩き落すかのように無造作に振り払う。そのまま楼耶は二撃目を放とうと両腕を高く振り上げる。

「ゴオオオオオオオオオオオオ!」

倉見は二撃目をかわし、目の前にいる獣を倒す方法を模索していた。

獣は火に弱いはずだ。でもここに火はない。なら相手の死角に入ればいい。いや、それも駄目だ。死角に回り込んだところで相手にダメージを与えられない。弱点を突かなければ相手は倒れないだろう。しかし弱点など何処に在る?巨体を支える足を狙おうともそのまま蹴り飛ばされるのがオチだろう。そうだ、目を狙えばいい。目だけはどんな生物でも強くは出来ない。奴の目を潰し、その傷を中心に最大出力のパンチを叩き込めばいい。巧くいけば脳の破壊も可能だろう。でもどうやって目に攻撃すればいい?弱点がわかってもそこを攻めれないんじゃ意味がない。

何か策はないのか―――といった長々とした思考で動きが止まっているのを楼耶が黙って見ている訳もなく、倉見を片腕で弾き飛ばす。――ことが、出来なかった。岩とて砕ける強力な腕の一振りは、ついさっきまで雑魚だと思っていた少年の左腕一本で防がれていた。

「そうだ、最初からこうしていれば良かったんだ」

そう呟くと、倉見は楼耶の方に向き直った。

「来いよ、猿野郎」

軽く手招きする。楼耶は挑発に乗って倉見へ一直線に突進する。そして右腕を全力で振り下ろす。

しかしそれは驚異的なスピードで容易くかわされ、右側に回られた。

「まずは右腕だ」

倉見がそう言って楼耶の右腕に蹴りを入れる。グシャァ、と嫌な音がして右腕が砕ける。

「ギアアアアアアアアアアアアア!」

楼耶が絶叫する。倉見は相手の傷が回復不能な程度に深いことを確かめ、

「次は、足だ」

腕を砕かれた楼耶は我を失っていて、状況判断がほとんど出来なかった。そのため、倒された時はいつの間にかひたすら暴れまわっていたところを、足払いで転ばされたのだと思った。そして立ち上がろうとした所で

「あ・・・・・」

いつの間にか人の姿に戻り、足が二度と歩けないような状態にされていることに気付いた。もはや痛みも感じない。損傷が激しすぎて、神経が焼き切れてしまっている。頭の中にあるのは、恐怖だけ。取るに足らないガキであった筈の敵が、今では悲鳴を上げたくなるほどに恐ろしい。砕かれた右腕や足からの血液の流失も激しい。止めを刺されずとも放っておけば三十分程度で息絶えるだろう。だが助けを呼べば何とかなるかもしれない。最低限延命は可能なはずだ。しかし倉見が“獲物”を置きっぱなしにする筈もなかった。

「死が見えてきたか?自分の未来が」

倉見がそう言いつつ近づいてきた。楼耶はこのままでは確実に殺されると理解していても命乞いすら出来なかった。

「吹き飛べ」

倉見が本当の全力で拳を楼耶の頭に叩きつけた。頭は跡形もなく消し飛び、首からの出血は断面が焦げていたので無かった。

「親父の仇がこんなに弱いなんて。この様子じゃあ親父も大したこと無かったんだな」

倉見は楼耶の死体に背を向け、戦いを続けているであろう仲間達の方へと歩き出した。 /続



© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: