怠惰の箱庭

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第10-C章 翼と炎(卓&梶尾パート)



「キリがないわね、全く!」

「同感です」

梶尾と萩乃はそれぞれ自分の能力を最大限に生かして戦っていた。梶尾は発火能力を使い怪我ひとつ負わずに群がる獣を蹴散らしていく。卓は自らの翼を駆使し、羽ばたきで起こした風をカマイタチにしてぶつけている。

二人の戦いは順調そのもので、周りを取り巻いていた獣の数もそのほとんどが始末されていた。

「やっと片付いてきたわね」

言いながら近づいてくる獣を燃やす梶尾。その動きは一切の無駄が無く、獣に軽く手を添えただけで簡単に片付けていく。手を添えられた獣達は、一瞬発光したかと思うと次の瞬間には炭となって転がっている。火花すら散らない。敵が悶える前に、抵抗する前に、自らが死した事も気付かない内に、決して火が他に燃え移らないように瞬間的に燃やし尽くしてしまう。彼女にとっては目の前にいる獣も、乾いた紙の山も同じような物だった。

“触れるだけでありとあらゆるモノを燃やし尽くす”それが彼女の能力の本質だった。

「片付く、と言うより散らかす、って感じじゃないですか」

滅多に使わない敬語を使い梶尾の言葉に微妙な訂正を加えようとする卓。こちらの動きにも無駄が無い。カマイタチを次々と起こし、敵を仕留めていく。一見ただぶつけているだけに見えて、その実完璧とすら言える計算の上に成り立った攻撃なのである。動き回る獣達の次の行動を読み、木々の位置とその影響による風の屈折を計算する。その二つによって成り立つ攻撃は、一つたりとも外れることなく獣達を無力化していった。

彼は能力こそ“背中に翼があること”だが、緻密な計算と翼の巻き起こす風で繰り出す攻撃は、その能力の本質とは全く別の、しかし強力な力だった。

二人が戦っている最中、ズシン、と大きな地響きがあった。まるで巨人が足踏みしたかのような揺れ方に梶尾は若干焦りつつ言う。

「まさか、巨大化の野郎が来てるんじゃないでしょうね」

「違います。この揺れは恐らく秋のものでしょう。アイツ、本気になると力加減出来ないですから」

「ああ、そうなの。って・・・それ本当!?」

軽く聞き流していた梶尾が驚愕のあまり青くなる。それを見た卓は平気な顔で

「大丈夫です。多分暴走はしませんから。心配なのはクレーターの規模が大きいか小さいか位です」

と答えた。

「クレーターって・・・・・」

梶尾は何故さっきまでいた町の地区監視者が少年二人だけなのか解った気がした。

「さて、どうやらもう話をしている場合じゃなくなってきましたよ」

卓は後ろに仁王立ちしている人間らしきモノの三人組を見つけて言った。

「こいつらを始末しないと先に進めないみたいね」

三人組の真ん中に立ってた奴がニヤリと笑う。

「始末する?誰が、誰をォ?寝言は寝て言え、アホ共がァ!」

そして出てきたあまりにもお決まりで、馬鹿丸出しな台詞に梶尾と卓の二人は呆れて何も言えなかった。

「ハッ!怖くて言い返すことも出来ないのかよ、ホント弱えな~?」

真ん中の奴の言葉に両脇の二人が同調して笑い出す。

そんな光景を見ていた二人は、深くため息を吐き、三人組を無視して歩き出した。

ひとしきり笑い転げた後、梶尾達が歩き去ろうとしているのに気付いた真ん中の奴が、梶尾の肩を“掴んだ”。

「―――え?」

梶尾は最初自分の肩と掴んでいるのが何なのか理解できなかった。肩を掴んでいたのは、

「逃げんなよ、アァ?」

馬鹿丸出しのタンカをきった奴の腕だった。

「そんな」

梶尾とそいつとの間は十メートル程離れている。それなのに、腕が肩を掴んでいる。振り払って先に行ってしまおうかとも考えたが、肩を押さえる力が強く、一歩も前に進めない。腕から順に燃やしてやろうかと思った時、

「下がって!」

卓の一言で必要最小限の火で腕をどけ、後ろに下がる。卓は梶尾が下がったのを視認し、カマイタチを放つ。

「へぇ、風か」

カマイタチが迫ってきているというのに敵は顔色一つ変えない。

「でもさぁ、これ」

いつの間にか両脇の二人が獣に姿を変え、手近な木を折り振り上げる。

「弱すぎ!」

両脇の二人が木を投げる。木はカマイタチと衝突し、バラバラになる。カマイタチも木を巻き込んだ事によって勢いをなくし、消える。

「くそっ」

卓がすぐに次のカマイタチを放とうとするが、

「待って」

梶尾に止められた。口には出さないものの、何か策略があるらしい。

「次、来ねぇの?」

相手が挑発してくるが、梶尾たちは反応しない。

「じゃ、こっちから行くぜぇ!」

真ん中の奴も獣に姿を変え、腕を伸ばして攻撃を仕掛けてくる。それを卓が風を当てて弾く。

「隣がお留守よ」

いつの間にやら移動していた梶尾に、仲間の片方を燃やされる。

「こっちもね」

卓がカマイタチを発生させて、残った片方に向けて放つ。しかし当然ながら木で阻まれる。

「はずれだ」

カマイタチを二度防いで卓の技を見切ったつもりでいた相手は、さっきのがダミーで、もう一つのカマイタチが自分を狙っていたのに気付く間もなくカマイタチに切り刻まれた。

「な、な、なんで」

仲間を瞬殺されて最後の一人となってしまった敵は恐怖のあまり、立ちすくんでしまっていた。

「あら、もう終わり?弱いのね、あなた達」

その後ろに梶尾が近づく。そして相手の頭に手を置き、

「やっ、やめっ」

眼前に迫る死に恐怖し、命乞いをしようとする相手の声を一切無視して、

「大見得張るわりに全然大したこと無いじゃない」

燃やした。今回の炎だけ少し温度が低かったのか、敵は絶叫しながら炭になった。

「さて、大方終わったし、他の子の所行きましょうか」

「そうですね」

そんな会話をしながら、二人は歩き去っていった。 /続



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