怠惰の箱庭2nd

怠惰の箱庭2nd

闇の向こう側 プロローグ



 青年は走っていた。
月光が差し込まない深い夜の森の中を、何かに憑かれるかのように走り続けていた。
「畜生、あと少しで全て終わったのに」

と息を切らしつつもぼやく。そんなことをしている間に‘敵’はすぐそこまで来ていた。アレに捕まる訳にはいかない。さっきから限界だと訴えている足に鞭打って走る。
何かに躓いたのか身体が宙に浮く。倒れた拍子に足をひどく打ちつけてしまった。これでは走るどころか立つことさえままならない。

「はは。これでもう終わりか。あっけなかったな、最後は」

などと強がりを言い、ゆっくりと目を閉じようとした時、

「何を言っている?お前はここで終わることなど許されていないだろうに」

とフザケたことを言ってくれるに奴に叩き起され、

「その通りです。君にはまだやることが残っている。ここで死なせるわけにはいかない」

と意味深なことを言う男に抱きかかえられた。

「お前ら、何で此処に来た!こんなところに居ては早死にするだけだ!早く此
処から立ち去れ!」

努鳴ってはみたものの、全く耳に入ってない様子で男は言う。

「言われなくともそうしますよ。やるべき事を終わらせたらね」

「やるべき事?」

「説明は後で!剣!あいつをできるだけ長く足止めしてくれ!」

剣と呼ばれた青年は、

「わかった。努力はするが時間が無い。急いでくれ」

と言い、彼らに背を向けて走り出した。

「説明してくれ。これはいったいどういうことだ?」

と、抱えられつつ聞く。

「君には過去に戻ってもらいます。この戦いが始まる前へね」

「何?何故だ?大体どうやってやると言うんだ?」

さっきとあまり変わらない事を繰り返す。

「守人君に‘トンネル’を開いてもらいます。そして君に今まで出た犠牲を救ってもらう」

「つまり、時間を移動して未来――いや、現在を変えろと?」

「ええ。君にはその力がある。―――着きました。急ぎましょう。あと5分しかない」

そういって隠れた茂みの中に青年を下ろし、そこにいたもう一人の青年に、

「運び込んだ。急いでくれ、守人。剣はもう保たない」
と言った。

「わかりました。では」

守人と呼ばれた青年はそれだけ言い、右手を先ほどの青年の上にかざし、左手を地面に置いた。空気が張り詰めていく。両手が放電を始めている。青年の背中を支えている地面が丸く黒く変わっていく。

「さようなら。またどこかで会いましょう、樹」

そう男は言って微笑んだ。
地面が青年を呑み込んでいく。薄れ行く意識の中、青年――樹は一言、

「ああ。絶対にお前らを救ってやる。何があったとしても、絶対に――――」

そして樹は完全に呑み込まれ、意識が途絶えた。 /続



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