DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第十三話



 なにげに人化する際には靴も出せるようになったパフッフール。

 つま先で硬い石の感触を確かめて。

 おおっ!

 感嘆の声をあげる。

 石畳の道だあ。

 森を抜けると街道にも細かい砂利を敷き詰めてあったけれど、街の中は完全に舗装されていた。

 この街を作った人達の労力に思いをはせると、賞賛を贈らずにはいられない。

 すごい!

 本当に、城塞都市の中にいる!

 街に入ってすぐは、人々で騒然としてはいたけれど、整然と並んだ町並みという印象をうけた。でも、しばらくすると往来にもはり出すようにして出店を構えているのが見受けられるようになり、次第に雰囲気が、どこか変わりはじめたのを感じる。

 ほおお。

 聖地巡礼の旅をする人の気持ちは、こんなかなあ、くぅー。

 道を歩くだけでもう、高揚を禁じえない。

 この感動を誰かに伝えたい衝動に駆られて。

 ああっ。

 同行者がいたことを思い出す。

 慌てて、右に左にとせわしなく、ブンブンと髪を振り乱して辺りを見回しても、どこにも門番は見当たらない。

 ぽつん。

 いつの間にか、パフッフールは一人きりだった。

 あれ?

 漂う食べ物のにおいに誘われて、街角の屋台に、ふらふらと吸い寄せられていったせい、というのが真相なのだが。

 忽然と姿が消えた。

 とか思って、あせるパフッフール。

 気もそぞろに、通りの賑わいや珍しい街の景観に胸踊らせていた気持ちがしぼんで、代わりに、湧き上がる不安にかられて、心細くなってしまった迷子のドラゴン、という童謡にでもしたくなるような愉快な響きの存在となったパフッフールは、とりあえず来た道を引き返そうと考えて途方に暮れた。

 どっち、どっち?

 まあ、さもありなん。

 仕方なく、当てずっぽうで歩きだした姿は、とぼとぼと肩を落としていて、思わず最強の生物の肩書が気の毒になるが、それを気にする者は、本人も含めていなかった。

 本来、ドラゴンの能力をもってすれば、普通の人間では取り得ない手段で、門番を探すことも可能ではあるのだけれど、いかんせんパフッフールは、まだ力を使いこなせない。

 視覚、聴覚、嗅覚は、より遠く、多く、かすかな事象を捉えることができるが、楽団の中からコルネットの音だけを拾うようなことは、パフッフールには出来なかった。

 感度は自由自在に調節もできるが、むしろ、今は、煩わしくない程度まで精度を落としている。大体、人間よりちょっと鋭いというくらい。

 情けなくも、結局の所、よほど目立つ不協和音でもないかぎり判別がつかないからには、見覚えのある風景を求めて、当てどなくさまよい、確かめるしかない。

 だから、パフッフールは、気が付くことはなかった。

 それが、女性の悲鳴でなかったならば。


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