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『焼肉ドラゴン』は、2008年に舞台作品として上演されたのが最初だ。日本の新国立劇場10周年と、韓国の芸術の殿堂(ソウル・アート・センター)20周年を記念して、両劇場が共同制作する舞台として企画された。そこで作・演出を務めたのが鄭義信である。
この舞台は大変な激賞を受け、チケットが入手困難なほどの人気作品となった。結果的に、2011年と2016年に再演している。興行的な成功のみならず、批評的にも高い評価を得た作品で、『焼肉ドラゴン』自体には、第16回読売演劇大賞の大賞と最優秀作品賞、第8回朝日舞台芸術賞のグランプリが与えられ、鄭義信個人も第43回紀伊国屋演劇賞や第12回鶴屋南北戯曲賞を受賞することとなった。
『焼肉ドラゴン』は、鄭義信自身の人生から材をとった私小説的な作品。鄭義信は1957年に姫路城の外堀にあるバラック小屋の集落で生まれ育っている。その場所は国有地であったが、戦後の流れのなかで貧しい人たちや行き場をなくした人々が小屋を立てて集落をつくった場所。『焼肉ドラゴン』の舞台となった伊丹空港近くの集落と同じような境遇にある土地である。『焼肉ドラゴン』の劇中で、土地から追い出そうとする役所の担当者に向かって父が言う「(この土地は)醤油屋の佐藤さんから買うた」という台詞は、実際に鄭義信の父が言っていた言葉をそのままもってきている。
前述の通り、『焼肉ドラゴン』の舞台は興行的にも批評的にも大成功をおさめるわけだが、鄭義信自身は『焼肉ドラゴン』の登場人物たちがそこまで観客に愛されるようになったことが意外だったという。彼は「文藝春秋」(文藝春秋)2009年4月号で〈僕が一番驚いたのは、日本人の観客たちが「焼肉ドラゴン」を自分たちの家族の物語であるかのように愛してくれたことだった〉と語っている。それは、高度経済成長の時代に暮らした在日の家族というのが、一般的な観客にとって距離のある存在であり、特殊な状況だと感じていたからだ。
しかし、『焼肉ドラゴン』の登場人物たちは、出自の違う多くの観客から愛された。その理由を鄭義信は<「焼肉ドラゴン」の最後、家族はそれぞればらばらとなる。最小の共同体である家族の絆が失われていく姿に、日本人の観客たちも自分たちの家族の姿を、写し絵のように見ていたのだろう>(前掲「文藝春秋」)、<移民や震災で故郷を失った人たちにも通じる、普遍的な物語として受け止められたんです>(2018年7月4日付ニュースサイト版毎日新聞)と分析しているが、それが正解であることを、映画『焼肉ドラゴン』出演者の言葉が証明している。
映画『焼肉ドラゴン』で、井上真央演じる梨花の夫・哲男を演じた大泉洋も、鄭義信と同様に<これは国境を超えて、誰しもの胸に刺さる“家族の物語”だと思いますね>(公式パンフレットより)と発言しているのだ。

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