勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

第3場 宝くじ~



 リビングは暗い
 アトリエの方から光が漏れている

 アトリエから背伸びをしながら和成がリビングへやってくる
 和成 電気をつけソファに腰をかける

 玄関が開き、恵美が帰ってくる


恵美     ただいま~。
和成     ああ、おかえり。


 恵美 リビングに入ってきて、アトリエの明かりがついているのを見て


恵美     今まで描いてたの?
和成     ああ・・・。
恵美     いつだっけ?


 恵美 着替えるために寝室へと入っていく


和成     ん?何が?
恵美     持ってくんでしょ?ギャラリーに。
和成     ああ、来週。
恵美     間に合いそう?
和成     どうかな・・・。
恵美     大丈夫なの?
和成     何が?
恵美     間に合わないかもしれないんでしょ?
和成     ああ・・・他にもあるし・・・。
恵美     じゃあ、別にそんなに急ピッチで描かなくてもいいんじゃないの?
和成     そうなんだけど・・・。


 恵美 着替えてリビングにやってくる


恵美     何?
和成     ほら、引っ越してから初めてだからさ、ココに来てからの絵も持って行きたいなあ・・・って。
恵美     ああ・・・


 恵美 壁に掛かっている絵を見て驚く


恵美     おぉ・・・びっくりした!もう!いつまで経っても慣れないんだけど、この絵!
和成     やっぱり?
恵美     あなたも?
和成     下手に犬とか飼うより、効果が高いね。コレは。
恵美     どういうコト?
和成     番犬代わり?
恵美     でも、絵だって分かった瞬間に終わりじゃん。
和成     まあ、そうだけど、犬だって繋がれてたりしたら一緒じゃん?綱が届かなければ平気だってさ。
恵美     犬は吼えるけど、絵は吼えないでしょ?
和成     まあね。絵が吼えたら・・・怖いな。
恵美     吼えたら返してきてよ!
和成     そりゃ、吼えたら・・・返すよ。
恵美     なんで、今、ちょっと考えたの?
和成     考えてないよ。
恵美     考えてたじゃない!?「吼えたら・・・返すよ」何?「吼えたら・・・」ってこの間は!
和成     いや、だからそれは、「吼えたら」って言いながらさ、「肥えたら」って言ってるように感じちゃって、「肥えたら?」いや・・・肥えても怖いなって改めて感じてる間だよ。
恵美     何、この一瞬でそんなこと考えてたの?
和成     ああ。
恵美     馬鹿じゃないの?
和成     馬鹿って言うな!
恵美     馬鹿じゃない?
和成     馬鹿って言うな!
恵美     馬鹿でしょ?
和成     馬鹿って言うな!
恵美     で、今日のご飯は?
和成     あ・・・ああ、それかあ・・・。
恵美     何が?
和成     いや、晩御飯の買い物をしようと家は出たんだよ。
恵美     で?
和成     公園で子供が遊んでるのを見てたら、「あ~和むなぁ~」って思って・・・
恵美     で?
和成     あ、子供をテーマに1枚描いてみようかなって思って・・・
恵美     で?
和成     駅前まで行ったら、インスタントくじ売ってたから、それを買って・・・
恵美     で?
和成     帰ってきた。
恵美     じゃあ、晩御飯は?
和成     ね?それで出かけたんだよねえ・・・。
恵美     何もないの?
和成     ない。
恵美     ご飯も炊いてないの?
和成     ない!
恵美     馬鹿じゃないの?
和成     馬鹿って言うな!
恵美     馬鹿じゃない?
和成     馬鹿って言うな!
恵美     馬鹿でしょ?
和成     馬鹿って言うな!
恵美     ・・・どうする?
和成     どうしましょうかね・・・。
恵美     なんかとる?
和成     とっちゃいますか?
恵美     とっちゃいます?何とっちゃいます?
和成     何がお好みですか?
恵美     逆に何をとれます?
和成     ちょっと待って、チラシがあったから。
恵美     ちゃんと捨てずに取って置いたんだ。
和成     当たり前じゃないですか。


 和成 そういうと立ち上がり、ちらしを持ってくる


和成     えっと・・・まずはピザ!
恵美     うん、ピザね。
和成     で、寿司!
恵美     寿司はなあ・・・時間かかりそうだしなあ・・・。
和成     で、中華!
恵美     中華?
和成     うん。中華デリバリーだってさ。チンジャオロース、ホイコーロー、酢豚・・・
恵美     酢豚!酢豚いいなあ・・・。
和成     あとは・・・普通に弁当。
恵美     却下!
和成     そば、ラーメン。
恵美     普通・・・。
和成     普通じゃない方がいいの?
恵美     そういうわけじゃないけど・・・。
和成     うなぎ!
恵美     寿司より時間かかる。
和成     あとは・・・丼。
恵美     ピザでいいや。今食べたい、すぐ食べたいから。
和成     分かった。いつものでいい?
恵美     うん。
和成     じゃあ頼むか・・・


 和成 そう言いながら携帯を操作して


和成     OK!
恵美     今って携帯から注文できるの?
和成     知らなかったの?
恵美     知らなかった・・・。
和成     結構、前からだよ。
恵美     そうだったんだ・・・。
和成     さて・・・宝くじでもやりますか?
恵美     まだ削ってないの?
和成     削ったら怒るじゃんよ。
恵美     そうだけど、よく我慢できたね。
和成     そのくらい、我慢できるよ。
恵美     そうなの?私には無理。
和成     何?じゃあ、結構1人で削ってるの?
恵美     違うわよ、帰り道以外では買わないの。
和成     別に1人で削ればいいじゃん。
恵美     1人で削って、当たっちゃたらどうすんのよ!
和成     どうすんのって何?
恵美     会社で、みんなが仕事してる中、1人でもくもくと削ってて、もし当たったとしたらどうよ?
和成     さあ?
恵美     喜べないでしょ!?
和成     まあ、そうだな・・・。
恵美     でしょ?だから買わないの。
和成     でも、別に1人で喜べばいいじゃん。
恵美     1人で喜んでたら変な人でしょ?
和成     確かに変だけど・・・
恵美     とにかく、私は意志が弱くて買ったら削っちゃうので、インスタントくじは買わないの。
和成     十分、意志が強いと思うけど・・・
恵美     ま、だから帰り道でちゃんと買ってきたんだけどね。
和成     え?買ったの?じゃあ、俺は買わなくて良かったんじゃん・・・。
恵美     何で?
和成     何で?・・・だって買ったんでしょ?
恵美     買ったから何よ。多いほうがいいでしょ?当たる確率上がるんだから。
和成     上がるったって大したことないだろ。それに、これは夢を買うもので、実際に当たる訳がない。
恵美     そんなの分からないでしょ!?
和成     そりゃ可能性はあるけど・・・
恵美     そんなに言うなら、当たっても遣っちゃ駄目だからね!
和成     それとこれとは・・・それに少ない確率でも当たるからこそ、夢が買えるんだから。
恵美     だったら、多かろうが少なかろうが、いいじゃない!
和成     分かった、悪かった!じゃあ一緒に削ろう!


 2人 それぞれインスタントくじを持ち合う


恵美     一等賞金は?
和成     100万!
恵美     それじゃあ、いつもどおり・・・っていつもどおりのくじ?これ。たまに、変なルールの奴あるじゃない?


 和成 宝くじを確認して


和成     んと・・・これはいつものパターン。3つ同じ絵柄が出たら当たり。
恵美     じゃあ、いつもどおり2つ同じ絵柄が出た時点で、そのくじはそこで保留で決勝戦行きね。
和成     ああ、保留して決勝戦な。
恵美     じゃあ、とりあえずお互い自分のを削りましょ?
和成     よし。


 2人 宝くじを削り始める

 恵美 さっさと削って、和成を見ている


恵美     どう?
和成     もう削ったの?
恵美     うん。
和成     もっと楽しみながら削れよ。
恵美     楽しいのはココからでしょ?パチンコだってリーチがかかってからが面白いしドキドキするじゃない?それ以外なんて、面白くも何ともない!
和成     そりゃそうだけど・・・パチンコなんてやったっけ?
恵美     ちょっとだけね。気晴らし程度に。
和成     いつ?
恵美     営業先で上手く行かなかった時とか、直帰するって行ってさ・・・。
和成     なんか、意外・・・。
恵美     そう?
和成     うん・・・。
恵美     ひいてる・・・?
和成     いや、そんなコトないけど・・・。
恵美     本当?
和成     ああ・・・。


 和成 手を止める


和成     よし!終わった!!そっちは何枚?
恵美     6枚!そっちは?
和成     8枚!
恵美     8枚!?じゃあ、時間かけるのも分かる。
和成     そう?
恵美     うん。
和成     じゃあ、5等のリーチから削ろうか。
恵美     私は2枚。
和成     俺は3枚。


 2人 同時に削り始める
 和成 削り終わったかすを息で吹く


恵美     ちょっと吹かないでよ。巻き散るでしょ?
和成     すんません。
恵美     こっちは1枚当たり。そっちは?
和成     2枚当たり。
恵美     えっとじゃあ、ここまでで600円獲得ね。
和成     4000円かけてるけどね。
恵美     じゃあ行きますか?
和成     よし!こっちは残り全部1等のリーチだからな。
恵美     えー私、1枚しか1等ないのに・・・交換して!
和成     ええ!
恵美     交換。
和成     分かったよ・・・。


 和成 渋々残りのくじを交換する


和成     じゃあ削るか。
恵美     私の方が枚数多いから、私から削るね。


 恵美 削る


恵美     1等!とりゃ!!・・・駄目。
和成     じゃあ俺な。2等!とりゃ!・・・こっちも駄目。
恵美     こんどこそ、1等!とりゃ!・・・ああ!!駄目、こっちもとりゃ!!
和成     何、一気に2枚削ってるんだよ!
恵美     いいじゃん!もう!!


 恵美 残りのくじも削ってしまう


和成     もう、ルールは守ろうよ・・・。


 和成 削り始める


恵美     全部駄目!全滅!!


 和成 最後の1枚に手をかけ削りながら


和成     まあ、そんなもんだって。だから言ったろ?宝くじは夢を買うもんだって・・・ん?


恵美 立ち上がりキッチンへ向かう


恵美     もういい!飲んでやる!カズも飲む?
和成     ・・・
恵美     おつまみ・・・は・・・あ、そっかピザが届くんだった。ねえ!飲まないの?
和成     ・・・


 恵美 キッチンから顔を出す


恵美     ねえ!?聞いてる?
和成     当たってる・・・。
恵美     え?
和成     当たった・・・。
恵美     本当!?何等が当たったの?2等?3等?それとも・・・4等?
和成     ・・・1等。
恵美     嘘・・・。
和成     本当・・・。
恵美     また、ふざけて騙そうとしてるんじゃないの?


 恵美 和成に近寄り宝くじを手に取る


恵美     本当だ・・・。
和成     ああ・・・。
恵美     いとう?
和成     伊藤って誰だよ、1等!
恵美     1等?
和成     ああ、1等。
恵美     1等って・・・
和成     100万!
恵美     100まーん!!


 和成 あまりの恵美の大声にあわてる 


和成     静かに!隣に聞こえるだろ!
恵美     別にいいじゃん!!100まーん!!
和成     だって、よく言うじゃないか!当たったら親戚が増えるとか、友達が増えるとかさあ・・・。
恵美     それは1億とかの話でしょ?100万程度に群がってたってしょうがないでしょ?
和成     ん?まあ、それもそうか・・・。
恵美     そうよ。よーし、今夜は飲むぞ!!
和成     よっしゃ!飲むぞー!!


 恵美 キッチンへ走りビールを取ってきて、和成に渡す


恵美     それじゃあ・・・
2人     かんぱーい!!!


 恵美 再び宝くじを見てにやける


恵美     なんか、にやけちゃうね!
和成     それは、お前だけだろ?


 和成 にやけてる


恵美     カズもにやけてる。
和成     嘘?


 和成 そう言って顔を治そうとするが、にやけ顔は止まらない
 2人 顔を見合わせてにやける


恵美     遅-い!おつまみ!!
和成     じゃあ、買いに行くか?
恵美     でも、ピザ来ちゃうよ?
和成     待たせとけばいいんだよ!なんてったって・・・


 2人 再び顔を見合わせてにやける


恵美     そうよねぇ。なんてったって・・・ねぇ。
和成     そうそう。
恵美     じゃあ、ついでにワインも買ってこよう!
和成     いいねえ!ついでに明日会社休んじゃえば?
恵美     でも、忙しいんだよなあ・・・
和成     だけどさあ・・・なんてったって・・・


 2人 顔を見合わせてにやける


恵美     そうよねえ。休んじゃうか!!
和成     休んじゃえ休んじゃえ!俺が倒れたとか言えばいいさ!!
恵美     それ、いいねえ。よーし、じゃあ買い物だあー!!
和成     おお!!


 チャイムの音


恵美     え?
和成     やばい、騒ぎすぎた?
恵美     カズ、行って。
和成     俺?
恵美     男でしょ?
和成     エミ行けよ。女だろ?
恵美     ・・・じゃあ、ふたりで行こうか?
和成     ・・・


 2人 顔を見合わせて


2人     そうしよう


 チャイムの音


恵美     はーい。


 2人 恐る恐る玄関へ向かう


 2人 しばらくしてピザを持って戻ってくる


恵美     頼みすぎじゃない?
和成     ああ・・・この前がさ、引越しした日に、あの業者の人たちと頼んだオーダーをそのまま頼んじゃったから・・・
恵美     ええ!?ってことは・・・?
和成     4人分。っていうか、1人は異常に食べたから6人分?
恵美     あれは凄かったね・・・行こうか?
和成     おう!そうしよう!!


 2人 ピザをテーブルに置いて、出て行く


第4場 料理


 和成 エプロンを付けキッチンへと向かう恵美を心配そうに見ている


和成      大丈夫?
恵美      大丈夫よ。
和成      本当に?
恵美      大丈夫だって。
和成      でも・・・
恵美      テレビでも見て待っててよ。
和成      ん~・・・分かった。
恵美      そうそう。任せなさい。
和成      ああ。


 和成 気になりながらも恵美を見送る

 和成 キッチンへと声をかける


和成      俺、陶芸に転向しようかなあ。
恵美      何で?
和成      そうすれば、恵美がいくらキッチンに立っても構わないだろ?
恵美      え?
和成      ほら、割っても割っても、また作ればいいんだから。
恵美      そんなに割りません。
和成      そう?
恵美      そうでしょ?
和成      ここに越して来てから、恵美が料理を作ったのは3回だけど、確率100%だよ。
恵美      そうだっけ?
和成      そうだろ?ま、安い皿だったってのと、セットで買ったから枚数に余裕があったのが、救いだけど。
恵美      たまたまよ。ほら、まだこのキッチンに慣れてないからさ。
和成      でも、俺は、倍以上作ってるけど、まだ1回も割ってないよ。
恵美      それは、熟練度の違いよ。
和成      そうかなあ・・・。
恵美      そうよ。
和成      気をつけろよ。
恵美      分かってるって。


 和成 テレビをつけるが、落ち着かない


恵美      あのさ。
和成      何?何かあった?
恵美      何もないわよ。オリーブ油って何処?
和成      オリーブ油?冷蔵庫の中だけど・・・。
恵美      冷蔵庫?油を?
和成      そうだよ。
恵美      へー、変なの。
和成      変じゃないだろうよ。
恵美      変よ、だって油だよ?


 恵美 キッチンから顔を出す


和成      じゃあ何処に置いておくんだよ。
恵美      別に何処だっていいけど、冷やすことないんじゃないの?
和成      でも冷やしたっていいんじゃないの?
恵美      冷やしたら、料理する時に温まるまで時間がかかるでしょ?
和成      そんなのちょっとじゃん。
恵美      ちょっとでも、光熱費がそれだけかかるじゃない?普段、節約節約言ってるくせに・・・。
和成      そうだけどさあ・・・。


 恵美 キッチンへ戻っていく


和成      ・・・オリーブ油?何作るつもりなの?
恵美      何を作るか、じゃなくて何が出来るかが、大事なの。


 和成 ぼそっとつぶやく


和成      はあ・・・どういう意味だろ?


 何かが割れる音がする


恵美      わあ!
和成      やったよ・・・。今日は何?
恵美      ・・・フライパンの蓋・・・。
和成      蓋?どうやったら割れるんだよ・・・蓋は流石に買ってこないとか・・・。
恵美      ねえねえ!
和成      何?
恵美      耐熱ガラスってこんな風に割れるんだ・・・。
和成      どんなところに感動してるんだよ・・・。
恵美      だって、割れたところ見たことある?
和成      普通、割らないし・・・。
恵美      じゃあ、凄いね。割れたモン。・・・あ、痛っ!
和成      どうした?
恵美      ちょっと指切った。


 和成 立ち上がり、キッチンへ向かう


和成      大丈夫かよ。


 恵美 和成に引っ張られてリビングへ来る


和成      何やってるんだよ・・・。
恵美      ごめん・・・。
和成      大丈夫?
恵美      うん、ちょっと切っただけだから・・・。
和成      もう、そこに座っとけ。俺が作るから。
恵美      大丈夫だよ。今日は私が作る日だし・・・。
和成      座ってろ!


 和成 恵美をソファに座らせて、キッチンへ向かう


恵美      すまないねぇ・・・。
和成      誰だよ!
恵美      お婆は手元がおぼつかなくて・・・。
和成      だから、誰だよ!


 恵美 ティッシュで指をおさえる


和成      あのさあ!
恵美      何?
和成      やっぱり、何を作ろうとしていたのかが分からないんだけど・・・。
恵美      なんでよ!
和成      だってさあ・・・じゃがいも、人参、鳥ももにく・・・カレーっぽいんだけど?
恵美      あー惜しい!
和成      惜しい?
恵美      そう。あと生クリームがあって・・・
和成      クリームシチュー?
恵美      当たり!
和成      オリーブ油は?
恵美      いや、単純に入れたら美味しいかなあ・・・って。
和成      クリームシチューに?
恵美      そう。
和成      オリーブ油!?
恵美      そうだって!
和成      発想の根拠が分からない。
恵美      何でよ!
和成      大体、油を使わないだろ?
恵美      だって最初に炒めるでしょ?
和成      あーそっか・・・でもそこはバターだろ、普通。
恵美      バター!?
和成      ああ。
恵美      バターね・・・うん、合いそう。
和成      別に、俺が発見したとか、そういう訳じゃなくて、それが普通だから。


 恵美 ちょっと怒ったように


恵美      いいわよ、好きに作ったらいいじゃないの。


 和成 皿を持って出てくる


恵美      え!?
和成      できたぞ!
恵美      え?もう!?
和成      ああ。
恵美      早すぎるでしょ!
和成      そんなコト言ったらキューピー3分クッキングとか番組が成り立たないだろ!
恵美      あれは、前もって作ってあったのを出してるんだから・・・。
和成      大丈夫だ、これも前もってスタッフさんが用意しておいてくれたから。
恵美      スタッフさんって誰?
和成      スタッフさんはスタッフさんだろうがよ。大体、舞台裏でシチューなんて作れるわけないだろうがよ!
恵美      そこはそういう体っで・・・


恵美 小声で


恵美      台本読んだ?
和成      読んだよ。
恵美      書いてあったでしょ?
和成      なんて?
恵美      3分程、アドリブでつなぐって!
和成      そんなの無理だよ!
恵美      今更、そんなコト言わないでよ!
和成      だって、俺だよ?俺がアドリブなんて・・・無理無理無理無理。


 和成 大きく首を振る


恵美      もう、どうすんのよ・・・。


 和成 声のトーンを戻して


和成      ちゃんと下ごしらえの段階で、野菜や肉を電子レンジで調理しておけば、こんなもんだよ。
恵美      へ?・・・へーそうなんだ・・・。
和成      全く、おまえは何も知らないんだな。


 和成 恵美を見て笑う


恵美      なんか、すっごくむかつく・・・。
和成      まあまあ。指どう?
恵美      指?
和成      ああ、切ったトコ。
恵美      ああ、大丈夫よ。


 恵美 そういいながらティッシュを外して、傷口を見る


恵美      でも、まだ血が止まらない。
和成      結構、深く切ったんだな・・・もうちょっとおさえとけよ。
恵美      うん・・・。
和成      さあ、食べよう。


 恵美 皿の前に対峙して


恵美      ん?
和成      どうした?
恵美      何コレ?
和成      いや、シチューだろ?
恵美      それは、分かってる。何かにシチューがかかってる。
和成      ああ、それが?
恵美      何?コレ?
和成      え?ご飯だよ。
恵美      信じられない!なんで、ご飯にシチューをかけてるの!?
和成      何がだよ!
恵美      シチューの時はパンでしょ!
和成      え?でもパン買ってなかったよ?
恵美      あ・・・。
和成      いいじゃん、別に。シチューだってカレーみたいなモノじゃん?
恵美      もう、なんでもかんでも白いご飯と合わせようとするんだから・・・だから日本人は・・・。
和成      エミも日本人だろ?
恵美      そんな私が嫌い・・・。
和成      いいから食べてみろよ。
恵美      分かったわよ。


 恵美 手が痛くてスプーンが握りにくそうにしてる


和成      そんなに痛いの?
恵美      うん。でも痛いっていうか、痺れてる。
和成      大丈夫かよ。しょうがないなあ・・・食べさせてあげよう。
恵美      いいわよ!
和成      恥ずかしがるなよ。
恵美      恥ずかしいわよ。
和成      別に誰に見られてる訳でもないんだから。
恵美      見られてる、見られてる。
和成      誰に?
恵美      ほら。


 恵美 振り返って、壁に掛かっている「青いターバンの少女」を指差す


和成      絵じゃん。
恵美      でも、今、目が合ってるもん。
和成      それは、何処から見ても目が合うの。
恵美      嘘!?


 恵美 体を動かして色々なところから絵を見てみる


恵美      本当だ!気持ち悪い!!のろわれてる!
和成      ・・・そういうモンなの。
恵美      ・・・そうなの?
和成      そうなの。いいから食え!


 和成 強引にスプーンを恵美の口に押し込む
 恵美 渋々シチューを食べる


和成      どう?
恵美      ん?・・・んまい。
和成      だろ?
恵美      ご飯って凄いね。ご飯最高!!日本人最高!!
和成      ・・・ご飯が美味いのは米のおかげだけどね。
恵美      次!
和成      は?
恵美      つ・ぎ!!
和成      何が?
恵美      食べ終わったの!!
和成      あ、ああ・・・。


 和成 シチューを恵美に食べさせる


和成      血は止まったの?
恵美      ん?
和成      手!
恵美      んっと・・・


 恵美 手をみてみる


恵美      全然止まらない・・・
和成      え?


 和成 恵美の手を取り見てみる


和成      ちゃんとおさえてたのか?
恵美      おさえてたよ。
和成      ちょっくら病院に行ってみるか?
恵美      ええ!ただ指切っただけだよ?
和成      でも、血が止まらないじゃないかよ!
恵美      もう、夜だよ?
和成      別に、指切るのは昼間だって決まってないだろ?
恵美      そうだけど・・・。
和成      俺の流星号で行けばすぐだよ。
恵美      自転車に立派な名前つけないでよ。
和成      近くに、病院があるっていう利点は生かさないとな。さ、行くぞ!
恵美      うん・・・。


 恵美 渋々従い立ち上がる

 恵美、和成 上着を手に出て行く 


 しばらくたって2人戻ってくる


和成      気をつけないとな・・・。
恵美      うん・・・。


 和成 テーブルの上の食事を見て


和成      冷めちゃったな・・・。
恵美      ・・・。
和成      あっためてくるよ。


 和成 そう言うと食器を持ってキッチンへと向かう


和成      ああ、これからは俺が料理するから・・・
恵美      え?大丈夫だよ。
和成      いいから。
恵美      でも、本当に大丈夫だよ。ちゃんと気をつけるし・・・。
和成      気をつけてたって、怪我する時はするんだから・・・。
恵美      でも、そんなコト言ってたら何にもできなくなっちゃうよ・・・。
和成      そうだけど、避けられるコトは避けていった方がいいだろ?別にどうしても料理しなくちゃならないって訳じゃないんだから。
恵美      ・・・
和成      それに、先生も言ってたろ?多分一時的なものだろうって。大体、今までこんなことなかったんだろ?血小板が少ないなんてさ。
恵美      うん・・・。
和成      ま、明日、ちゃんと検査してもらって、何でもないって分かれば料理でもなんでもすればいいよ。でも、それまでは俺がやる。
恵美      うん・・・。
和成      きっと、平気だよ。


 和成 そう言ってキッチンへと入っていく


恵美      ごめんね。
和成      あのさ、ごめんってのは悪いことをした時に言うもんだろ?
恵美      でも・・・
和成      何も、悪いことしてないのに謝る必要なんてないよ。
恵美      ・・・うん。



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