D-Project

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オカエリ


オカエリ(1)

最愛の妻を亡くしてから二年
あれからの月日はあまり良いものではなかった
娘がいる俺には一人で育てていく自信もなく
一時は誰かを雇うとか親戚の家に行こうとも思った
だけど、考えるだけで実行には移さず
毎日二人きりの生活が続いた
いや。二人きりの生活だと思ったのは俺だけだろう
娘は小学6年生
学校から帰っても誰か迎えてくれるわけでもなく
そのまま机に向かって勉強をしてるらしい
つまり家にいるときの大半は
俺がいない独りきりだ
俺が何してるかといえば
職業としてはプログラマーで、毎日が残業
余裕を持って帰れる日なんてなかった

「ただいま」
夜の11時
コンビニの惣菜を片手に帰ってきた
娘は無言で俺の向かい側の席に着く
「いただきます」
娘はいただきますだけはなぜか口にする
だけどそれ以外はあまり口を開こうとしない
「なぁ?もうすぐ受験じゃないのか?」
娘は少し箸を止めて
ゆっくりと首を縦に振った
「3者面談とかないのか?」
娘は反応しなかった
あったとしても、自分が出れるかわからなかった
それにそうだ。俺は授業参観に一度もでたことがない
先生の顔も知らない
最低な親だ。
「志望校とかあるのか?」
娘は反応しなかった
私立には行かせられない家計。
塾にも行かせてあげれない家計。
俺が聞く資格もないような気がした。
「塾、行かせられなくて悪いな。」
娘は反応しなかった
いや。反応できなかったんだと思う
こんな家計だと娘もわかってるから
反応の困ってるんだ

ごちそうさま
そう言って娘は部屋に戻った
俺はどうすれば良いのかわからなかった
そのとき俺のケータイの着信がなった
娘からだった
直接でも良いじゃないかと思うが
俺にはそんなことを言う資格がないような気がした
娘でも彼女をただ育ててる他人だからだ
家族でも娘にとっては他人だ
娘からの内容は俺には読めない今流行の文字だった
暗号でないことくらい知ってる
俺は一言
「読めない。悪いな。」
と送ってしまった
それから娘からの返信はなかった

次の日
「ただいま」
いつものように俺は帰ってきた11時
しかしテーブルの上にオムライスが乗っていた
その上には紙がありそこには

今日は調理実習があったから作ってみた
明日は早く起きないといけないからもう寝るね

と書いてあった。
俺はうれしさ半分寂しさもあった
向かいの席に娘がいない
けれども「ありがとう」とメールを送った
すると今日は返信が帰ってきた
 才エゝヱリ」





オカエリ(2)

最愛の妻がなくなってから2年の月日が経ったけど
娘が口を利かなくなったのはいつだろうと考えたとき
妻がなくなる前だったのかもしれない
それだけ俺は嫌われていたのか
反抗期が続いているのか
俺にはわからなかった
だけど、俺のことを好んでいないことはわかっていた
娘は小学6年生だ
まだ小学6年生
そう・・・まだ小学6年生
子ども扱いしているのは俺のほうで
彼女は親のことを考えられるくらい
大人になっているのかもしれない
いまさらかもしれないが
俺は娘と会話をする方法を模索していた
俺のわがままだって事はわかる
俺が今までしてこなかったことを都合のいい時にだけやろうとしてる
それがどんなに子供を傷付けるか
一番わかっていなきゃいけないのが
子供を乗り切った今の大人たちなはずなのに
俺は最低な大人になることは覚悟だった
だけどそうしなければ、
俺は最悪な大人になりそうな気がするから
それだけは避けたいと思ってしまった。

会話を取り戻すことを考えて1ヶ月
娘は夏休みに入っていた
けれども俺は休暇が取れるわけでもなく
一日中彼女が何をしているかなんて
知ることができなかった
聞こうにも聞けず
聞いたとしても答えてくれないことがさびしかった
と、ふと気付いたことがあった。
娘の誕生日は8月1日
俺はすぐさまプレゼントのことを聞こうと思った
しかし黙ってた方がいいのか
わからなかった。
会社の女の子に何が良いか聞くも
相談には答えてくれるものの

あなたが決めたほうが良い
娘さんが一番ほしいと願っているもの
それでいいじゃないですか

とみんな声をそろえて言う。
そういえば去年あげたものと言えば
熊のぬいぐるみだったかもしれない
それさえ覚えのない自分が惨めだ

「ただいま」
夜11時
いつものように帰宅してしまった俺
7月も後半なっても娘にあげるものを決めていなかった
「なぁ?今何がほしい?」
ふと聞いてしまった一言
けれども彼女は首を横に振って
それ以上は何も語らなかった
何かほしいじゃないのか?
って聞こうとも思ったが
それ以上聞いても
どうしようもない気がした

しかし8月1日と言うものは
どんなにあがいても訪れるもので
俺はどうしようもなかった
しかし今日だけは早く帰って来て
「なぁ、ドライブ行こうか」
と誘った。
最終手段がこれだ
どこか高級なレストランを予約してるわけでもなく
どこか貸切にしているわけでもなく
ただ・・・花火大会を見に行くためだった
かかっているラジオはFMで今流行の音楽とか流れていた
自分にわからなかったけど
娘はすごくノリが良かった
車を運転すること2時間
普段は来ない町の中心街より少しはずれにいた。
すると、小さく花火の音がする場所を見つけた
俺と娘は車から降りて空を見上げた。
「ごめんな。誕生日プレゼント用意できなかった。」
「ごめんな。こういう場所やっぱり彼氏と来たかったか?」
「ごめんな。俺何もしてあげられなくて。」
俺は謝る言葉しか出てこなかった。
けれども、空を見上げる娘の目には涙が流れていた
ありがとう
ささやくくらいで本当に言ってたかわからなかったけど
娘の声がした。
街外れの誰もいない公園は
見上げる花火は少し小さいけれど
俺と俺の妻が娘ができるまで毎年見てた
絶好の花火スポットだった

次の日から
俺は早く帰るように心がけた
そしたら聞こえてくるから
娘の
「おかえり」
と言う声が。





オカエリ(3)

最愛の妻がなくなってから2年もの月日が過ぎていて
今年もまたお盆の時期が訪れて
今年は妻の実家を訪れることにしていた

瓦屋根に
ただでかい庭
古風な妻の実家は
行く度にお嬢様じゃなかったのかな?
と疑問を持つほどだった
「いらっしゃい。」
奥から妻の母が来る
「こんにちわ。」
俺は軽く挨拶すると
部屋に案内されていった
俺らのほかに妻の妹の家族も来ていて
従姉妹も小学高学年くらいだったから
娘は別の部屋で遊んでいたと思う
俺は妹さんの夫と酒を酌み交わしていた
「一人で娘さんを育てるのは大変でしょう。」
「はぁ。まぁ。」
そう今まで、妻がなくなっていろいろな苦労をしてきた
けれどもそれ以上に娘が苦労してたと思う
「うちは娘が二人だから親がいなくても二人で何とかしてるし。」
「そうなんですか。」
なんか、そうじゃない気がした。
何とか子供に任せてばかりではいけない気がした。
「今の子供は大人が見てなくてもいいんですかね?」
「そうなんですかね?」
そうじゃない。
大人にはわからないことを、子供が一番知っている。
子供を知ることが、
大人を知ってもらうことにつながるような気がした。
「我慢もできるようになったし、わがままも言わないんですよ。」
「はぁ。」
そうじゃない。
大人のことを知ってるから、大人を見てるから
我慢もするし、わがままも言えないような気がした。
「おたくの娘さんはどんな感じなんですか?」
どんな感じとは何なのだろう?
聞かれるとは思わなかったし
俺は娘のことを知ってるようで知らなかった。
家では物静かで、黙ってても何でもやる子だけれども
学校でもあんな様子なのか知らないし
部屋で何をしているかなんて
覗いたことも、干渉したこともない
外にでれば何をしているかなんて全く知らない
俺は黙ってしまった。
「ちゃんと、娘さんのこと知ったほうがいいですよ。」
本当にそうだ。
彼が娘のことを知っているのか知らないけど
俺は俺で、娘の事を娘にもっと聞くべきだと
そう考えていた。
そう考えるうちに一言口にしてしまった。
「娘にとっての幸せとは何なのでしょうか?」
考えたことなかった。
考える時間などなかった。
彼も少し黙っていた。
親ができる、子供にとっての幸せ

妻に線香を上げると
またいつもの部屋に戻ってきた
だけど頭の中ではずっと子供の幸せについて考えていた。
物より思い出とは言っても
子供の価値観と大人の価値観は違うもの
娘にとっての幸せとはなんだろうと考えても
俺には答えが出せなかった
同じ時間を過ごしてたとしても
違う価値観が溝を広げるばかり。
「ただいま。」
「おかえり。今日は私が料理するよ。」
だけど娘はだんだんと妻に似てきて
だんだんと大人になっていってる
娘は小学6年生だ
まだ小学6年生
だからこそ、今の幸せを与えたいのかもしれない
娘が作った料理はオムライスで
ひさびさに会話をした夕食だった

「お前にとっての幸せって何だ?」
「お母さんに会うことかな。なんてね。
  冗談だよ。私は大丈夫。これから私、ご飯作るようにするよ。
  今は今で幸せだから。わがまま言ったって、
  お父さんに迷惑かけるだけだし
  ずっと悩んでたんだ。お母さんばっかり頼ってたから。
  頼りたくなかった。お父さんに
  だけどそうじゃいけないのかなって。
  どっちとも大人にならなきゃいけないと思うんだ。」
「本当に幸せなのか?」
「私にとっては幸せだよ。今があるってことが。」
大人なのは娘のほうで
子供なのは俺のほうで
何を悩んでいてたのかわからなかった
楽しいことばかりが思い出じゃなくて
つらいことも思い出なのかもしれない
それが幸せなのか俺にはわからないけど
たぶん、つらい中に楽しみがあることが
娘にとっての幸せなのかもしれない
「ありがとな。」
「なにが?」
俺の言葉に、とぼける娘は妻に似ていた。
それだけ娘は優しいのだと思う。

夜7時。
早く帰ってくる俺に
娘は答えてくれる
もちろん遅くなれば妻のように叱り
酒を飲んで帰ってきても妻のように叱る
「ただいま」
「おかえり」

☆★☆

いちようここで「オカエリ」終わります。
3つ読んでくれた方ありがとうございます。
はっきり言えば、不完全燃焼です。(笑。いつもだけど

背景としては「誰かへの幸せ」でしょうか?
娘といっても一人の人間
自分とは違う他人だから
恋をするようなつもりで
子供には接しなければいけないのかもしれません
相手が好きな人なら人は深く深く考えてしまいます
どうすれば彼女がよろこんでくれるのか?
どうすれば彼女の思い出に自分が入れるのか?
それは誰かに聞いてもわかりません
本人に聞かないことにはわからないものではないでしょうか?

子供を知らない親がいる
というCMを最近目にします。
知ってどうするのでしょう?
知ることは確かにいいことです。
けれども知りすぎるのも良くはない気がします。
それに、子供は親のことを知っていますか?
親を知らない子供も多い気がします。
時代の流れで家族のあり方は変わってるのかもしれません
けれども、家にいる時間が一番幸せだと言えるような
家族を造ってほしいと思います
それは知ることはではなくて
みなが幸せを願うことかもしれません。
誰か犠牲なるかもしれないけれど
犠牲の分は誰かが補い 助け合い
それが家族かもしれません

難しくても
不器用なりに答えを出せれば
それでいいのかもしれません。



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