NO-NAMEの隠れ家

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宇多田ヒカル

作品レビュー

1stアルバム
『First Love』
(1999.3.10)



1998年末、J-POP界に突如、新時代の歌姫が現れます。
自ら作詞作曲を手掛けたというR&Bを歌いこなす当時まだ15歳の少女。独特のハスキーボイス・印象的なプロモーションビデオによって、彼女の存在はまたたく間に多くの人々に印象付けられました。
やがて、彼女が演歌歌手・藤圭子の娘であること、米国居住時代に既にCDのリリース経験を持つ帰国子女であることなども明らかになってきます。
デビュー曲『Automatic』は、若者を中心に人気が広まり、翌1999年の年間チャート上位に食い込むミリオンセラーとなりました。
続く2ndシングル『Movin’on without you』も大ヒット。
そして1999年3月、1stアルバムがリリースされます。3作のシングル(そのうち『First Love』はアルバム発売後のリカット)を含むこのアルバム『First Love』は爆発的セールスを続け、当時日本最高売り上げであったB’zの『B’z The Best “Pleasure”』を軽々と抜き去り、ついには760万枚という前人未到の大記録を打ち立てます。そしてその記録は、未だ破られていません。

『Automatic』で見せる日本人離れしたフェイクを始め、彼女の歌唱全般は、それまでのJ-POP界ではいわば異端と分類されることすらあったブラックミュージック寄りのそれであり、逆輸入である日本人少女の歌う楽曲、そしてその爆発的ヒットは、音楽業界全体に響き渡る大事件だったわけです。
ただ、コテコテのR&Bというよりは、もっとポップスの要素が強い面もあって、とっつきやすさ、例えば彼女と同年代の女のコたちがカラオケで歌ってみたくなるような、そんな魅力を兼ね備えていたと思うんですよね。

760万枚という、天文学的な数字のヒット。これは確かに行き過ぎな面もあるでしょう。
もちろん彼女の凄さを認めた上で実際に聴いてみても、それだけの売り上げを誇る一枚であるというには、かなり地味。悪いって言ってるんじゃなくて、この内容で760万枚という数字と比べると、ちょっとウ~ンっていう部分もあるというか。
流行に乗ったとか、マスコミの煽りであったり、藤圭子の娘であるとうことで、中高年の層までアピールできたことなど、様々な要因が絡み合った結果でしょう。

ただそれにしても、J-POPのスタンダードさえも書き換えてしまうこととなった彼女の楽曲の存在、それが良かったとか悪かったとかではなく、16歳の彼女の功績は、認めるべきだと思いますね、うん。

1.Automatic -Album Edit- ★★★☆
2.Movin’on without you ★★★
3.In My Room ★★★☆
4.First Love ★★★★
5.甘いワナ ~Paint it, Black~ ★★
6.time will tell ★★★
7.Never Let Go ★★★☆
8.B&C ~Album Version~ ★★★
9.Another Chance ★★☆
10.Interlude
11.Give Me A Reason ★★☆

Bonus Track

12.Automatic -Johnny Vicious Remix- ★★☆

総合 ★★★

後半が特に地味な印象。個人的には暗い7曲目が好き。










2ndアルバム
『Distance』
(2001.3.28)



1.Wait & See ~リスク~ ★★★
2.Can You Keep A Secret? ★★★
3.DISTANCE ★★★☆
4.サングラス ★★★
5.ドラマ ★★★☆
6.Eternally ★★★
7.Addicted To You [UP-IN-HEAVEN MIX] ★★☆
8.For You ★★★☆
9.蹴っ飛ばせ! ★★★
10.Parody ★★★
11.タイム・リミット ★★★☆
12.言葉にならない気持ち ★★

Bonus Track

13.HAYATOCHI-REMIX ★★

総合 ★★★★

浜崎あゆみ『A BEST』との同日決戦も話題となった宇多田ヒカルの2ndアルバム。累計売上枚数は446.9万枚で歴代4位。両A面の『For You』・『タイムリミット』など、シングル5曲が収録されています。
R&B色の強かった1stから、今作ではより幅広い音楽性へ変化してきているのがわかります。挑戦と成長を感じさせる一枚。アルバムオリジナル曲の充実度が高く、爽やかな『DISTANCE』の他、GLAYのTAKUROとの共作によるハードロック路線の『ドラマ』、本格バラードの『Eternally』、スリリングなアレンジメントを施したポップロックの『蹴っ飛ばせ!』、ジャズやレゲエの要素を取り入れた『Parody』など、新境地の楽曲が多いです。正調R&Bの『サングラス』や『言葉にならない気持ち』など、以前からの路線も聴きやすさに磨きがかかってなお健在。シングル曲よりも、僕としてはこうしたアルバム曲のほうが好みのものが多いな。
それから、歌詞にも注目。僕は普段はサウンドにばかり耳が行って、歌詞をしっかりと聴くということはなかなかないのですが、彼女が描く歌詞世界は見逃すには惜しい出来。タイトルトラック『DISTANCE』のメッセージ性や、『For You』で描かれる孤独感、他にも各曲の個性的なリリックスからは、何故これほど多くの人々が彼女の楽曲に共感し、魅かれたのか、その一要因が少し見えてきます。
(記:2008.1.3)










3rdアルバム
『DEEP RIVER』
(2002.6.19)



1.SAKURAドロップス ★★★☆
2.traveling ★★★★
3.幸せになろう ★★★
4.Deep River ★★★☆
5.Letters ★★★
6.プレイ・ボール ★★☆
7.東京NIGHTS ★★★☆
8.A. S. A. P. ★★★☆
9.嘘みたいな I Love You ★★
10.FINAL DISTANCE ★★★☆
11.Bridge (Interlude) (評価なし)
12.光 ★★★

総合 ★★★☆

3作目。この作品の発売と前後して、卵巣腫瘍摘出手術による休養、紀里谷和明氏との結婚など、大きな出来事が重なりました。また、今作にも収められている8thシングル『FINAL DISTANCE』は、附属池田小事件の被害者の1人が彼女のファンであったことを知って作ったという1曲。この時期に集中した、彼女をめぐるいくつもの出来事が蘇ってくるアルバムです。2002年のオリコン年間アルバムチャート1位獲得作品。
アルバムの統一感はこれまでの3作の中で最高。全体として、同じ色に染まっています。前作『Distance』なんかは、もっとバラバラでカラフルな印象があったんだけど、今作は全体的に同じトーンで纏められていて、その中で1曲1曲が違った表情を見せているといった感じですね。で、ラストの『光』だけがちょっと違うトーン。そんな印象があります。
シングル楽曲『SAKURAドロップス』や『光』を聴いて思ったのは、多分こうしたメロディーって、他の作曲家も思いつくことはあると思うんだけど、それを作品として採用することってあんまりない音階なんじゃないかなぁって。勝手な想像だけど、頭に浮かんでも捨ててしまいがちなメロディーだと思うんですよね。それを彼女は見事に組み立てて、ちゃんと自分の歌として成立させてしまうっていう、それがすごいなぁっていうのはありますね。
軽快なR&Bの『幸せになろう』、大胆なアレンジの『東京NIGHTS』あたりが好きだなぁ。『traveling』のグルーヴ感もあらためて好印象。中盤6曲目~9曲目あたりを楽しめるかどうかが、今作の満足度に直結すると思います。僕はこのゾーンはわりと好きなんだけど、『嘘みたいな I Love You』のエグいギターにだけは、ちょっと拒絶反応が出ちゃうなぁ…(笑)。
(記:2008.3.15)










4thアルバム
『ULTRA BLUE』
(2006.6.14)



1.This is Love ★★★
2.Keep Tryin’ ★★★
3.BLUE ★★★
4.日曜日の朝 ★★★
5.Making Love ★★★☆
6.誰かの願いが叶うころ ★★★
7.COLORS ★★★★
8.One Night Magic feat. Yamada Masashi ★★★
9.海路 ★★★☆
10.WINGS ★★★
11.Be My Last ★★★☆
12.Eclipse (Interlude) (評価なし)
13.Passion ★★★

総合 ★★★☆

シングル・コレクションを挟んで4年ぶりの4thアルバム。これはまぁ、一度聴いて、ヒッキーご乱心の時代到来というか、そんな感想をもったわけですけど(笑)。でも、それだけの評価では片付けられない何かがありますね。
R&Bや打ち込み基調という彼女らしさも残してはいますが、楽曲のもつポップ性は大きく後退し、より彼女の芯の部分が楽曲に表れてきているような作風になっています。編曲も自身が担当するようになったということとも関係があるのかもしれません。この方向転換は革新的とすら言えます。最もそれまでの彼女らしい『COLORS』が、アルバム中では一番浮いているくらいですから。
難解なメロディーラインにリアルな歌詞が乗る作風が特徴的で、歌詞の全体の方向性は、私生活での離婚も影響してか、鬱の要素がところどころに覗えます。
『海路』などは、万人からの理解を放棄したアートの領域に足を踏み入れている感も。『Making Love』の悩ましさ・狂おしさも、彼女の渾身の1作といった感じで、良いです。また、こんな混沌とした作品だからこそ、中盤に置かれた『誰かの願いが叶うころ』は、その歌がよりストレートに、より魂をもって、こちらへと届いてきます。
(記:2009.2.6)










19thシングル
『Beautiful World/Kiss & Cry』
(2007.8.29)



1.Beautiful World ★★★☆
2.Kiss & Cry ★★★☆
3.Fly Me To The Moon (In Other Words) -2007 MIX- ★★★★

彼女のファルセットは非常にセクシーです。それを見事に活かしたのが『Beautiful World』ではないでしょうか。宙に浮くようなアレンジと、つかみどころのないメロディーラインもさることながら、やっぱりその声ですね。うん、魅力的。
『Kiss & Cry』は、序盤の無機質に進むトラックのカッコ良さや、彼女なりの韻の踏み方、「バスドラ」・「ハイハット」といった単語を持ってくるセンスの良さにもうならされました。しかし!そんなことよりも、唐突に出てくる「今日は日清CUP NOODLE~♪」というフレーズがスゴイ。これが全てをかっさらっていってしまいます(笑)。タイアップとはいえ、ここまでモロですかと。しかも3回も繰り返してるし(笑)。こんな芸当、宇多田さんしか出来ませんよ。
やっぱり宇多田ヒカルはスゴイ!!…ということで、今回は本当にもう、あらためてそんな印象。
あ、3曲目の『Fly Me To The Moon (In Other Words) -2007 MIX-』もひたすらカッコ良いです。
(記:2008.1.1)


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