NO-NAMEの隠れ家

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サザンオールスターズ (1)

作品レビュー

1stアルバム
『熱い胸さわぎ』
(1978.8.25)



シングル『勝手にシンドバッド』での痛烈なデビューから2ヶ月。アマチュア時代の曲で構成されたサザンの1stアルバムです。
とにかく特筆すべきは、曲調の多様さ。ラテン、ボサノヴァ、ジャズ、レゲエと、様々なサウンドに手を伸ばしています。この、なんでも貪欲に取り入れていくという姿勢は、現在に至るまで一貫しているサザンらしさですね。
とにかく、最初から最後まで、なんでも吸収して、好きな音楽を自由にやってみたという若きサザンオールスターズのアグレッシブなパワーが溢れ出ています。そして、どの楽曲も、一定の完成度に達しているからすごい。
アマチュア時代ゆえに商業的なものの色が薄い楽曲は、素のサザンにふれることができるかもしれませんね。
今聴いても、その楽曲の輝きは、決して色褪せていません。エネルギッシュな一枚。名盤です。

1.勝手にシンドバッド ★★★☆

1978年6月25日リリースのデビュー・シングル。今聴いても、この曲から溢れ出るパワーは、ちょっと普通じゃないなという気がしてしまいます。邦楽の歴史においても、大きな意味をもつ1曲であると思います。

2.別れ話は最後に ★★★☆

ボサノヴァ。歌詞も含めて、曲全体がお洒落な雰囲気に染まっています。
「listen to the melody 寝ても冷めてもMemory」という韻を踏んだ歌詞が印象的です。「雨が降ってるのに 空は晴れている まして今夜は雪が降る」という歌詞は、情景描写としても非常に綺麗ですね。

3.当って砕けろ ★★★☆

シングル『勝手にシンドバッド』のB面にも収録されていた楽曲です。メロディーの覚えやすさもお見事ですが、「本当の幸せ~」の部分のソウルフルな演奏が印象に残ります。アウトロのスキャット、ピンクレディーの『ウォンテッド』を真似たキメも、遊んでるなぁという感じで微笑ましいですね。

4.恋はお熱く ★★★☆

好きですね、この曲がまた。海の音から始まります。この時代から既にこうしたSEが使われていたんですね。
「ひーとりで なぎさーに たーって~♪」というメロディーが最高に気持ちいいです。「お熱いのが好き Baby~♪」というサビでのハモリも、学生バンドらしさが伝わってきていいですね。

5.茅ヶ崎に背を向けて ★★★

プロとしてデビューしたサザンの、故郷からの旅立ちを歌います。心地よいウエスト・コースト・サウンドで、桑田さんと原坊が1コーラスごとに交互にヴォーカルをとります。曲後半の、ギターソロが展開する部分は、茅ヶ崎を一気にウエスト・コーストに変えてしまう名演。『茅ヶ崎ライブ』でも演奏されました。

6.瞳の中にレインボウ ★★★

ジャズです。それも大人なジャズですね。バーにとてもよく似合いそうです。
「あたしゃピアニッシモ」という歌詞が斬新ですが、なんとなく意味が通じるのがすごいですね。

7.女呼んでブギ ★★★

のっけから「女呼んでもんで抱いていい気持ち」と始まるこの曲は、かなり脳天気に性欲を歌った曲ですが、しっかりと韻を踏んで、リズムにジャストフィットした言葉になっているあたり、日本語のサウンドへの適応性を研究している姿勢が覗えます。明るいブギ調のナンバーで、演奏も本当に気持ち良さそうで、現在でも人気が高い1曲ですね。原坊の、けだるそうな「もういっちょー」という合いの手も良いです(笑)。

8.レゲエに首ったけ ★★☆

珍しいフェイド・インで始まる本格的なレゲエ・ナンバーです。けだるい感じのする曲調ですが、歌詞は、レゲエへの熱い想いを歌っています。女よりもレゲエ、だそうです(笑)。

9.いとしのフィート ★★★

タイトルからもわかる通り、リトルフィートを意識したサザン・ロック。パーカッションやスライドギターなど、演奏はカッコイイし、簡単にスルーするにはもったいない曲ですね。歌詞は、大晦日から新年にかけての過ごし方を歌っています。すごいテーマですね(笑)。

10.今宵あなたに ★★★☆

ブルースロック。日本的な情緒と洋楽からの影響とが絶妙に絡み合っていますね。セッションが実に楽しそうで、途中には原坊や大森さんの紹介もあったりします。「あなた悲しや 天ぷら屋」というフレーズは、原坊の実家が天ぷら屋であることから。

総合 ★★★★

(一部加筆修正:2008.8.16)










2ndアルバム
『10ナンバーズ・からっと』
(1979.4.5)



2ndアルバム。桑田さん自身は「気合が入っていない」ということで「駄作」としているアルバムですが、いやいや、前作と同様に音楽への貪欲な姿勢の感じられる一枚に仕上がっていると思いますよ。
『勝手にシンドバッド』での大ブレイクによって、それまでのやりたい音楽をやるというだけではなく、音楽市場で求められる作品を提供しなければならなくなり、その狭間で悩み苦しんだ挙げ句の作品であり、自己の満足からは程遠かったゆえの辛い自己評価なのかもしれませんが、メジャーになったことはサザンにとって、当然マイナス面だけでなくプラス面ももたらしていて、音楽性、演奏技術の向上がここでは早くも見られるようになってきています。
ポップな『お願いD・J』や、3連バラードの『ラチエン通りのシスター』、ロックンロールの『Let It Boogie』なんかは前作にはなかったタイプお楽曲だし、濃いブルースロックを収録しつつも、『お願いD・J』や『いとしのエリー』といった楽曲があることによって初心者もとっつきやすい内容になっています。
楽曲の振れ幅が大きいのももちろんのこと、アルバム一枚としてのバランスも、前作のアマチュアっぽさが薄れ、良く考えられているなぁと思います。
「名盤」とは違うかもしれませんが、充実したラインナップを誇る一枚と言いたいところです。

1.お願いD・J ★★★

前作にはなかったタイプのいわゆる歌モノのポップナンバー。間奏は、ウルフマン・ジャックのモノマネ。とっつきやすいし、新たなタイプの楽曲ということで、アルバム1曲目には最適でしょうね。

2.奥歯を食いしばれ ★★★★

嗚呼、格好いい!! 濃いぃ~ブルースロックです。この演奏は、魂入ってますねぇ。エレピソロはカッコイイし、桑田さんの熱唱も渋くて良いです。
そして終盤にレゲエへと展開するところは、サザンの音楽性の幅広さをアピールしています。

3.ラチエン通りのシスター ★★★★

初期の名バラードとして人気の高いナンバーですね。3連バラードの最初の作品でもあります。この「ラチエン通り」は茅ヶ崎に実在し、この歌詞も実話をもとにしているとか。泣きメロが冴えわたり、渋い間奏もまた泣けるんですよね。桑田さん自身にとっても、大切な1曲なのでしょう。

4.思い過ごしも恋のうち ★★★★

アルバムリリースから3ヶ月半を経た1979年7月25日に、4thシングルとしてカットされました。当初は、この曲が3rdシングルとしてリリース予定だったのですが、桑田さんの判断で『いとしのエリー』を先に発売したというのは有名な話。
『勝手にシンドバッド』や『気分しだいで責めないで』と同じラテン歌謡で、テンポもよく、アレンジも賑やかで、これまた人気の高いナンバーですね。
「男は立てよ 行けよ女の元へ」桑田さんと原坊のハモリは微笑ましいし、「夜も昼もいつも恋は楽し」「どいつもこいつも話の中身がどうなれこうなれ気持ちも知らずに」など、アップテンポなメロディーに乗ったときに気持ち良さのツボをつくようなフレーズが出てきて良いですね。

5.アブダ・カ・ダブラ (TYPE.1) ★★★

本格的なジャズです。楽しそうですね。メロディーがちょっと吹っ切れないきらいもあるのですが、独特のふわふわした感じはいいですね。
最後は、飛行機が飛び立つ音で終わります。これは、レコードのA面終了に合わせたお遊び。微妙に聴こえてくるのは『青い空の心』(シングル『恋するマンスリー・デイ』c/w)ですね。

6.アブダ・カ・ダブラ (TYPE.2) ★★★

そして、B面に針をかけると、再び飛行機の音が…という狙い(笑)。CD1枚にまとめられていると、この感触がパーなんですけどね。そういう意味では、ここで同じ曲が連続しているのも、意図したものではないですね。あくまでレコードで楽しめるように作っていたものを、CD化した際の意図せざる結果ということで。
アレンジは(TYPE.1)と同様。こちらの歌詞は、(TYPE.1)と違って歌詞カードには記載されていません。

7.気分しだいで責めないで ★★★

2ndシングル。1978年11月25日リリース。デビュー作でのいきなりのブレイクで、世間からもレコード会社からも『勝手にシンドバッド』のイメージでの新曲を求められ、桑田さんが部屋にこもりっきりになって無理やり書き上げたという作品。それまでのびのびとやっていた音楽活動が急変、精神的にもかなり辛い思いをしたのでしょう、桑田さん自身にとってこの曲にはかなり嫌な思い出があったようですが、吹っ切れたのか、90年代中頃からはライブでもたまに披露されるようにもなりました。
「きぶんし~だい~で♪」というサビメロはイマイチな印象ですが、パンチの効いた「はっと見りゃかわいいね」のBメロや、熱い間奏は、いかにもラテン歌謡といった感じで好きです。
シングル・バージョンとは、キーや一部メロが違います。

8.Let It Boogie ★★★☆

愉快なロックンロールナンバーですね。テンポが早く、詰め込まれた歌詞も楽しいです。1997年末の年越しライブ『おっぱいなんてプー』で1曲目を飾ったのは意外でした。

9.ブルースへようこそ ★★★☆

これも渋いブルースロックですね。作曲が「サザンオールスターズ」名義になっていますが、誰がつくったのでしょうか。ムクちゃんかな?
スライドギターの音色に、桑田さんのかすれ声がマッチしていますね。歌詞は、字を伏せてありますが、同性愛を歌っています。ラストのフェードアウト時にからんでくるピアノの音色がなんとも格好いい!

10.いとしのエリー ★★★☆

3rdシングル。1979年3月25日リリース。ご存じ、邦楽を代表する名曲です。
『勝手にシンドバッド』によって世間から抱かれたコミックバンドとしてのイメージを拭い去った曲として、この曲の功績は大きいです。もしこの曲がなかったら、サザンはその後どうなっていたのでしょうね。

総合 ★★★★

(一部加筆修正:2008.8.16)










3rdアルバム
『タイニイ・バブルス』
(1980.3.21)



サザンのほぼ1年ぶりの3作目。
1979年10月に発売となった5thシングル『C調言葉に御用心』では、初めてシンセサイザーを導入し、桑田さんも「プロでやっていく自信がついた」と話しています。
しかし、『いとしのエリー』で音楽的評価を掴みながらも、度重なるテレビ出演などでのフラストレーションも影響してか、自身のアーティスト性に悩んだサザンオールスターズは、しばらくの間プロモーションなどの活動を休みスタジオ作業に没頭するという決断を下します。
そして、『FIVE ROCK SHOW』と題し、1980年2月から月イチで5作のシングルを発表していくことになります。
第1弾は『涙のアベニュー』、第2弾は『恋するマンスリー・デイ』と、いずれもそれまでのシングルとは違ったタイプの曲を発表し、音楽性の幅の広さをアピールしました。
そして、『FIVE ROCK SHOW』の途中、シングル『恋するマンスリー・デイ』と同時発売されたのが、この3rdアルバム『タイニイ・バブルス』です。
印象としては、前作にも増して、更に学生バンド的なノリは薄れ、全体的に見てポップな作品になってきています。
曲調から言えば、『タバコ・ロードにセクシーばあちゃん』でのソウル・R&B、『松田の子守唄』のビートリー、『ふたりだけのパーティー』や『TO YOU』でのサザンロック/ポップと、相変わらずその振れ幅と、なんでも吸収していく姿勢はお見事ですが、それでありながら、グッと磨かれた聴きやすいスタイルへと更に推し進められています。
そうそう、『Tiny Bubbles』・『働けロック・バンド (Workin’ for T.V.)』でのカントリーロックも新しい挑戦ですね。

1曲1曲が、しっかりと作りこまれていますし、アルバムを通しての曲調の多様さは痛快です。サザンの音楽的バイタリティを、今回も感じ取ることができます。そして、良くも悪くも、アマチュア臭は、この作品を最後に区切られるように思えますね。

1.ふたりだけのパーティー ~Tiny Bubbles (Type-A) ★★★

『ふたりだけのパーティー』は、スライドギターによるイントロがカッコいいサザンロック。2004年のライブ『流石だ真夏ツアー!』での演奏はお見事でしたね。
「会うときは二人で~♪」のハイトーンなヴォーカルがいいですねぇ。
続く『Tiny Bubbles (Type-A)』は、カントリー調。全編英詩です。バブル音が凝ってますね。

2.タバコ・ロードにセクシーばあちゃん ★★★

R&Bです。頭から派手なストリングスが入っています。ソウルと言えどもメロディーは歌謡曲っぽくて馴染みやすいかもしれません。
タイトルもそうですが、老夫婦の悲哀を歌った歌詞の自由奔放なスタイルに唖然。

3.Hey! Ryudo! (ヘイ! リュード!) ★★★

本格的なスウィングジャズです。
「Hey! Ryudo! 今さら云うのも変よね 唄いなさい」というフレーズが登場する頃合いが、歌詞の内容にリンクした中盤以降というのも巧いなぁと思います。
シングル『涙のアベニュー』のc/wバージョンのほうは、追加部分があります。

4.私はピアノ ★★★★☆

キーボーディスト原由子が、初めてフルでメインヴォーカルをとりました。まさに歌謡曲のツボをついた曲調に、原坊の歌声がたまらなく合うのです。
この歌心は、本当にいいですねぇ。
高田みづえさんのカバーによるヒットも有名です。
この曲が好きな女の子はかなり多いのではないでしょうか。

5.涙のアベニュー ★★★★

6thシングル。『FIVE ROCK SHOW』の第1弾として、1980年2月21日にリリースされました。
横浜を舞台にしたロッカバラッド。
哀愁が溢れた演奏が涙を誘います。
「かわいい女にならなくちゃ 二度と会える気がしない」というフレーズ、いいですねぇ。

6.TO YOU ★★★

南国ポップといった感じで、ハネてますね。
メロディーの数が多く、展開が面白いです。
お気に入りの歌詞は、冒頭の「俺がいなけりゃ沈みこむようなアンタがいいね」です。

7.恋するマンスリー・デイ ★★★

7thシングル。1980年3月21日リリース。『FIVE ROCK SHOW』の第2弾です。
曲調はレゲエで、これまでも何度か見られていたパターンなんですが、シングルで切るのはもちろん初めてですし、本格的なレゲエに作り込まれていますね。
で、シングルリリースするにあたって曲調以上に挑戦的なのが歌詞で、女性の生理を歌にしています、阿呆か。
こんなこと歌にするのは、桑田さん以外にいるのでしょうか。
型にはまらないサザンのエネルギッシュな姿勢を感じることができると思います。

8.松田の子守唄 ★★★☆

タイトルは往年の『竹田の子守唄』のパロディ。
ドラムのヒロシさんがヴォーカルを務めるビートリーで綺麗なバラードです。ヒロシさんの歌声も、高く澄んで美しいですし、とても惹かれるものがありますね。

9.C調言葉に御用心 ★★★★

5thシングル。1979年10月25日リリース。
前作の『お願いD・J』に続く8ビートのナンバーで、シンセ導入によって更なる幅の広がりを感じさせます。単なる8ビートに終始していないんですよね。
「胸をつかみうなじを味わいやせた腰をからめて♪」、こんなにお洒落でムーディーでいやらしい歌詞をかける人って他に居るのでしょうか。
今でもこの曲のファンはとても多いです。

10.Tiny Bubbles (Type-B) ★★★

こちらはロングバージョンになっています。タイトルナンバーの割にはあまり目立つことのない曲ですが、この曲のカントリー調のスタイルは、初めての試みだし、新たなるサザンのフィールドをまた一つ作ったという意味は大きいと思います。

11.働けロック・バンド (Workin’ for T.V.) ★★★

TV出演などによるフレストレーションを歌ったナンバーで、皮肉めいた歌詞の描写と言うのは、後々サザンの代表的なスタイルにもなるのですが、その最初の作品ではないでしょうか。
サウンド面は、ロッカバラッドで、メロディーも綺麗に作られています。
このサウンドにこの歌詞がきちゃうあたりも、皮肉っぽくていいですね。

総合 ★★★☆

アマチュアバンドとしてのノリは、この作品で区切られます。相変わらず曲調の多様さと、バイタリティ溢れる姿勢には脱帽。
(記:2006.2.13)










8thシングル
『いなせなロコモーション』
(1980.5.21)



『FIVE ROCK SHOW』の第3弾シングル。
アルバム未収録でしたが、A面曲『いなせなロコモーション』は、現在に至るまでライブの定番ナンバーとして親しまれることになりました。
B面には、大森さん作詞・作曲、ヴォーカルも務めるナンバーを収録。

1.いなせなロコモーション ★★★★

軽快なピアノでスタートする、爽快でアメリカンなロックンロールナンバー。
まぁ~、定番ですね、これは。
「移り気なバケイション 渚で絡み合い♪」では手拍子を忘れずに。続く間奏は本当に気持ちいいし、サビでの「パッパパラパ」のコーラスも楽しそう。
歌詞は、もうハチャメチャで楽しいです。「コニー・フランシス」だの、「ドリス・デイ」だの、海外のアーティスト名がオンパレード。
「浮気な女に後家サバイバー」「ぐっとくるよな女に カミさんKeeper」はわけがわからないけど(笑)。

2.LOVE SICK CHICKEN ★★★☆

ギターのター坊こと大森隆志作詞・作曲による、アメリカンロック。こうやって、桑田さん以外のメンバーの名義で作詞・作曲を発表するのは初めてですね。
ヴォーカルもター坊自身が務めます。
ピアノの音色、ギターサウンド、大好きなんでしょうねー、こういうの。
大森さんのヴォーカルも、曲調によく合っているじゃないですか、うん。
「All right!!」のシャウトからギターソロに向かう展開なんて、アメリカンロックそのものだし、「Don’t you worry Suger you got me by you side」というサビは、コーラスも相まってカッコイイですね。










9thシングル
『ジャズマン (JAZZ MAN)』
(1980.6.21)



『FIVE ROCK SHOW』の第4弾。アルバム未収録シングルです。
今回はジャズ。シングルでは初の試みですね。スタジオ活動に専念したこの時期の意義というのが、毎回のシングルの作風の幅広さから伝わってきます。

1.ジャズマン (JAZZ MAN) ★★★

『Hey! Ryudo!』に続く本格的なジャズナンバーです。
フッと落とすBメロはウマイし、今回も桑田さんの歌詞はアブラが乗ってますね。「思い思いの気分でやれたらジャズなどに等しい」とか、「他人でいるのも今宵で最後にしようね」などキレ具合が抜群。
「女のアンタに何言われたってOK」に、女性はムッときちゃうかもしれないけど、最後の「心で泣いてるのだって アナタのためだから」ですべてオーライ。ん~、憎いヤツめ、JAZZ MAN(笑)。
サビの歌詞にはフランス語を導入しています。

2.ひょうたんからこま ★★★

今回のカップリングは、作詞・作曲をムクちゃんこと、ベースの関口和之が担当したナンバー。リードボーカルもムクちゃん自身が務めています。
もやもやした気持ちを歌っています。雰囲気がよく出ていますね。こういったぼんやりした曲調は、ムクちゃんならでは。
「行ったきりなら帰れんわ よしとけ」のあとのウイスパー風コーラスが心をくすぐります。
「せめてCまでの関係」というフレーズは、なかなか他にはない感じで印象的ですね。










10thシングル
『わすれじのレイド・バック』
(1980.7.21)



『FIVE ROCK SHOW』最後のシングルです。

1.わすれじのレイド・バック ★★★★

カントリー調のミディアムナンバー。
一般的な知名度は低いですが、ファンの間では隠れた名曲として人気の高い1曲ですね。
ピアノがいいですね。原坊じゃないんだけど。
「まるで誰か知らぬ人と寝てるようにふるまえりゃ」のフレーズにかかってくるピアノが本当に染みます。
で、歌詞がまた相乗効果で泣かせます。のっけから「俺をとろかせる女でいてよ」。2コーラス目で「別れる時でもやさしいままでな」とくれば、もう、ね。
最後は『Hey Jude』ばりの合唱でフェードアウトしていくとともに、かかってくるシンセがまた、これでもかと言わんばかりの心憎い演出。
5枚のシングル連続リリースを、こういったスタンダードなカントリー調で閉めるのが、また上手いですねぇ。
2004年の『流石だ真夏ツアー!』内の25周年記念メドレーでは、感動のラストを飾りました。
そうそう、前述の通り、原坊が今回のレコーディングを欠席(入院中であったため)したのですが、ちゃんとメンバーのクレジットのところに、「原由子 Mind…」…泣かせるじゃないですか、うん。

2.FIVE ROCK SHOW ★★★

そして、カップリング。企画のタイトルである『FIVE ROCK SHOW』をそのまま曲題にした今作は、なんと6種の楽曲をつなげて1曲にしてしまったというアバンギャルドな作品。
曲調はどれも幅広く、もはやなんでもありです。
ヴォーカルもメンバーがかわるがわる務めているのですが、誰がどの部分を歌っているのかというと諸説あって、一体どれが正しいのかわかりませんが、個人的には…↓

「A lot of song~」→桑田
「ほれたはれたの~」→桑田
「すうだら男が~」→大森
「ゲイ・ダーリン…」→毛ガニ
「あんな女でよけりゃ~」→松田
「誘いの態度が~」(1回目)→大森
「ムクちゃん!!」→大森
「誘いの態度が~」(2回目)→関口
「A lot of song~」→桑田
「髪の毛が風になびいて~」→桑田

という説を推したい。「誘いの態度が~」の1回目が怪しいですが…。
毛ガニさんは「僕が歌っているのは『ゲイ・ダーリン…』の部分だけですよ。」なんてことを昔自分で言っていたらしいので。
色々資料を探してみても、誰がどこを歌っているのかははっきりせず。
わかった方、教えてくださーい。

それにしても、この曲での発想豊かな演出や、『FIVE ROCK SHOW』の期間でリリースされたシングル曲の幅広い作風を聴くと、サザンの好奇心旺盛な姿勢が非常によく伝わってきます。
スタジオ活動に専念した、この半年間というのは、後のサザンにとって間違いなくプラスになったことでしょう。










11thシングル
『シャ・ラ・ラ/ごめんねチャーリー』
(1980.11.21)



サザン初の両A面シングル。
1曲目『シャ・ラ・ラ』は、サザン初(そして現在もサザン唯一)の、桑田さんと原坊による本格デュエットナンバー。
2曲目『ごめんねチャーリー』は、お得意のラテン色の強いナンバーです。

1.シャ・ラ・ラ ★★★☆

ソウルフルなベースラインから始まる、穏やかな空気に包まれたデュエットナンバー。
デゥエットが初ならば、クリスマスソングもこれまたサザン初ですね。
とてもムーディーで、幸せそうな雰囲気が漂ってきます。
「エリ好み」という言葉は、おそらく桑田さんのお姉様のお名前からの拝借でしょう。
近年では、奥田民生とつじあやのがこの曲をカバーしました。

2.ごめんねチャーリー ★★★

ラテン風味のポップナンバーで、メロディーはとてもキャッチー。
「チャーリー」とは、レイ・チャールズのこと。歌詞中の「モンタさん」と「竜童さん」は言わずもがなのあの人。
最後の「涙なしでは語れ・な・い・よ~る~よぉ~~!!」のタメもキッチリとツボをついてきます。

(記:2006.2.26)










4thアルバム
『ステレオ太陽族』
(1981.7.21)



1年4ヶ月ぶりの4thアルバム。
『FIVE ROCK SHOW』を挟んだことも影響してか、これまでとは大きく異なった雰囲気を持った作品に仕上がりました。
アマチュア臭はほぼ完全に拭い去られ、全体としてしっとりとした空気でまとめられていて、なんとも洗練された大人な雰囲気漂う一枚です。
勢いで作られた土臭い楽曲というよりも、1つ1つの楽曲を丁寧に作りこんである印象が以前にも増して強いものとなってきています。
前半に比べて後半のムードが地味過ぎるというきらいもありますが、この作品独特の味わいは、ファンにも根強い人気を誇っています。
そんな中、先行シングルとして敢えて一般受けしそうにない濃ゆいブルースロック『Big Star Blues』をリリースしたのは、桑田さんの冒険心のあらわれでしょう。

1.Hello My Love ★★★☆

1曲目から軽やかでワクワクするようなナンバーです。ホーンの控えめでありながらも高揚感のある使い方はお見事。曲構成も、次から次へと良メロが展開していって驚いてしまいます。

2.My Foreplay Music ★★★★

ビリー・ジョエル全快のピアノに桑田節の歌謡メロが乗ったテンポ感溢れる傑作。
「オ、オ、オー♪」はジョエルそのもの。「Let It Be~♪」はビートルズからの引用でしょう。
とっつきやすく格好良いナンバーでファンからの人気も高く、ライブでもしばしば演奏されています。

3.素顔で踊らせて ★★★☆

柔らかな印象のバラード。しっとりとした雰囲気は、これまでに見ることができなかったもの。この曲も、桑田さんの歌唱ならではの素晴らしさと言えますね。
「2月26日にはささやかな二人の絆~♪」というフレーズ、この「2月26日」は、桑田さんの誕生日です。

4.夜風のオン・ザ・ビーチ ★★★☆

ムード溢れるR&B。そして桑田節。Cメロの存在も効果的です。
歌詞には、サザンで一躍有名となった「エボシ岩」が初登場。

5.恋の女のストーリー ★★★

これまた大人っぽいムードのジャズバラード。どんな曲調にも柔軟に対応する桑田さんのヴォーカル力に驚嘆せざるを得ません。
映画『モーニングムーンは粗雑に』では、劇中で主人公の高樹澪が歌いました。

6.我らパープー仲間 ★★★

ゴスペルチックなサウンドが冴えわたる、ちょっと普通ではないノリのナンバーです。
「我々も我も君達もパープー」…歌詞は、意味があるのかないのかわかりませんが、音に乗ったときの心地よさは素晴らしいですね。

7.ラッパとおじさん (Dear M.Y’s Boogie) ★★★

ブギです。管楽器のアレンジメントを担当していた八木正生さんに贈ったナンバー。
途中には語りが入り、とても明るく楽しそうな雰囲気ですね。

8.Let’s Take a Chance ★★★

これは…音楽ジャンルは何にあたるんでしょうか。妖しげで、絡みつくようなサウンドが異彩を放っています。

9.ステレオ太陽族 ★★☆

タイトル曲ながら、短い尺に収められています。フェイドインで始まりフェイドアウトで終わるのは、未完成なのか、狙ってされたものなのか。
しかし、短いながらもよく出来ているソウルフルなナンバーで、後の『スキップ・ビート』の原型のようにも思えます。

10.ムクが泣く ★★☆

関口さんによるビートリーなナンバー。
桑田さん以外のメンバーによる楽曲はどれも、その人の好みがあらわれていますね。

11.朝方ムーンライト ★★★

洗練されたジャズ色の強い楽曲が並んだこのアルバムでは逆に異色とも思える、歌謡曲チックなナンバー。それでも、どことなく雰囲気にはAORのような色合いが漂い、アルバムの流れの中でアクセントとなりつつも、違和感を感じさせるようにはなっていません。
歌詞も叙情的です。「吐息の合間に雨の音がする」って、文学的で素敵ですね。
映画『モーニングムーンは粗雑に』テーマ曲。

12.Big Star Blues (ビッグスターの悲劇) ★★★☆

12thシングル。1981年6月21日リリース。
濃いロックナンバー。コーラスはソウルフルで、自然と体が動きだしてしまうようなノリの良さが活きていますね。
ライブでは更に格好良く演奏され、そのライブバージョンは『フリフリ’65』のc/wで楽しむことができます。
歌詞も注目で、皮肉めいた描写は、後の桑田さんの王道パターンの一つとして確立することになります。

13.栞のテーマ ★★★☆

八分音符を刻み続けるピアノが印象的な美しいバラード。切なげで可愛らしい歌詞もいいですね。女性に人気の癒しナンバー。初期の名曲です。アルバムとシメとしてもとても良い存在となっていますね。
13thシングルとして1981年9月21日にシングルカット。

総合 ★★★☆

洗練された楽曲が並び、新たなフィールドでのサザンを聴くことができる一枚。
大人な雰囲気が漂っています。
(記:2006.3.6)










14thシングル
『チャコの海岸物語』
(1982.1.21)



この頃のサザンは、アルバムは売れるのに対してシングルが売れないという状態で、実際のところ、アルバム『タイニイ・バブルス』、『ステレオ太陽族』は連続1位をとりながらも、シングルは『FIVE ROCK SHOW』の頃からどれもオリコンでは20位~40位台、売り上げも数万程度のヒットにとどまっていました。
そこで、開き直ったサザンは、間違いなく世間に受けるであろうド歌謡曲をやってしまったのです。
歌い方はトシちゃんこと田原俊彦のモノマネ。
作戦は見事に功を奏し、最高位2位、50万を超える売り上げを記録。80年代サザンの最大のヒット曲になりました。
また、この曲で『いとしのエリー』以来2度目の紅白出場を果たしたのですが、三波春夫氏をパロったパフォーマンスが物議をかもしました。

1.チャコの海岸物語 ★★★★

聴こえてくる波の音、カモメの鳴き声…。そしてひびき渡る切ないイントロ。日本人のツボをついた歌謡メロディーに、切ないシチュエーションの歌詞がまた心をくすぐる。
「海岸で若い二人が恋をする物語~♪」「心から好きだよ チャコ~♪」と、随所に…というよりも全編にわたって印象的なフレーズが流れているイメージで、どこか胸を締め付けられるような感覚に浸れる、そんな1曲。
サザンの歴史から見ると、この曲はイロモノの印象を拭えない感もあるのですが、ここでのこの曲の重要性はファンには分かっていることでしょう。

2.翔~鼓動のプレゼント ★★★☆

桑田さんの作詞作曲で、松田さんがヴォーカルをとるナンバー。
ピアノを基盤にしながらバンドサウンドを絡めていくバラードで、サウンドの構築の仕方としては、『NUDE MAN』に入っていてもまったく違和感がなさそう。
メロディーラインの美しさはここでも絶品で、松田さんの透明感のあるヴォーカルが奇麗に歌い上げています。
タイトルの「翔」とは、この頃に生まれた松田さんの子供のお名前のことで、桑田さんがそれを祝してこの曲を作ったようです。
完全に楽屋ネタですが、こういうのがあってもいいでしょう。
AORチックなサウンドに変わるアウトロも洗練されていて素晴らしいです。隠れた名曲かもしれませんね。










5thアルバム
『NUDE MAN』
(1982.7.21)



5枚目のアルバムは、土臭くロックフレーバーが漂う楽曲の多い一枚となりました。
『ステレオ太陽族』での大人の音楽から、再び最初期のアルバムのような学生バンドらしい勢いを取り戻したかのような感じがあります。しかし、決して勢いだけの演奏で済ませた作品というわけではなく、しっかりと『ステレオ~』を経ての経験を活かした音楽になっています。
また、ロック色が強いとは言っても、楽曲の幅は多彩で、ソウルの『思い出のスター・ダスト』や『女流詩人の哀歌』、レゲエの『来いなジャナイカ』、昭和歌謡の『流れる雲を追いかけて』、ビートルズ風の仕上がりの『猫』など、様々なタイプの楽曲がバランスよく詰め込まれています。
ロックンロールのスタンダードに終始してしまった『PLASTIC SUPER STAR』を始め何曲かは、精神的な面も含めての稚拙さが恥ずかしいし情けないと桑田さんは語っていたり、13曲という曲数の多さのせいで後半にややダレが来るかなという点もありますが(実際『Just a Little Bit』はとても良い曲だが、13曲目というせいで損をしていると思う)、前半から続く良曲の連続など、聴き手を引き込む、勢いに満ちた傑作アルバムと言えるでしょう。


1. DJ・コービーの伝説 ★★★☆

ファンキーなロックンロール。1曲目からこういった元気の良い曲が来るというのが、アルバム全体の勢いを象徴しているようです。
日本語英語チャンポンの歌詞も軽快なサウンドにバッチリはまっていますね。小林克也さんへの想いを歌っています。

2. 思い出のスター・ダスト ★★★☆

横浜をテーマにしたソウルフルなバラード。サザンは横浜ソングが多いですが、この曲はまた染みますね。桑田さんの熱唱に、女性コーラスがまたムードたっぷり。
「Star dust」とは、横浜のバーの名前。

3. 夏をあきらめて ★★★★

情緒溢れる歌謡バラード。けだるい夏の雰囲気が見事に漂ってきます。
研ナオコに提供して大ヒットしたことでも有名な曲です。
「熱めのお茶」に「意味深なシャワー」など、ちりばめられたフレーズから漂ってくるやるせなさがなんとも言えず、良いです。

4. 流れる雲を追いかけて ★★★

原坊が歌う昭和歌謡風ナンバー。
「進軍ラッパが~♪」の部分で本当に聴こえてくるラッパの音色、「つばめのダンスにゃ~♪」で一瞬だけ張る原坊のヴォーカルも、いいアクセントになっています。
落ち着いた雰囲気が心地よい1曲です。

5. 匂艶THE NIGHT CLUB ★★★☆

15thシングル。1982年5月21日リリース。
エネルギッシュなホーンセクションが印象的なディスコロック。
艶かしさと熱さの入り混じるサウンドの高揚感は見事です。

6. 逢いたさ見たさ病めるMy Mind ★★★☆

電話のベルの音から始まる切ないナンバー。モヤモヤした気持ちが非常に上手く表現されています。
男には、誰でもこんな経験がありますよね。

7. PLASTIC SUPER STAR (LIVE IN BETTER DAYS) ★★★

桑田さんが青学時代に所属していた音楽サークル『ベターデイズ』を観客にライブレコーディングしたロックンロール。
歌詞は、前作での『Big Star Blues』と似たタイプで、さりげなく皮肉を織り交ぜ、面白おかしくロックスターを描いています。

8. Oh! クラウディア ★★★★

ライブのラストに演奏されたことも多い、サザンの名バラードの1つ。
メロディーの美しさは絶品。スタンダードなAメロから、冒険した印象のあるコード進行のB・Cメロを経て、再び戻る2番のAメロの美しさは更に煌きを増します。
冒頭に、前曲『PLASTIC SUPER STAR』のアウトロの歓声が重なっていますが、どうやらサザン側にもこの音源しか残っていないらしく、後に出るコンピレーション盤にもそのまま収録されています。

9. 女流詩人の哀歌 ★★★

ソウルナンバー。桑田さんのヴォーカルもかなり黒っぽくサマになっている印象で、アルバムの中では地味な印象ですが、よく作りこまれた1曲だと思います。

10.N NUDE MAN ★★★

今回もタイトルナンバーは短めです。これまたソウル/ファンク色が強い楽曲です。
歌詞は、歌詞カードに掲載されていないので、空耳アワーになりがち。敢えて日本語にも英語にも聴こえるようにつくられた部分もあって、桑田さんのセンスに驚嘆です。
内容としては「ロッキード事件」のことを歌っているとか。
社会派の歌詞の先駆け的存在かもしれません。

11. ★★★☆

大森さんの作詞作曲ヴォーカルによるナンバー。
ほのぼのとしたビートリィサウンドで、歌詞も可愛らしくて良いですね。ター坊の曲は数こそ少ないですが傑作揃いです。

12. 来いなジャマイカ ★★★

放送禁止用語を、歌詞カードから省いたとは言え、堂々と歌ってしまっている驚くべき1曲。
『私はピアノ』・『いなせなロコモーション』に続いて、海外のアーティスト名がちりばめられていて面白いです。少々暴走しすぎですが(笑)。
サウンドは、本格的なレゲエです。

13. Just a Little Bit ★★★☆

ラストを締めるのは、しっとりとしたバラード。
ビートルズ風で、英詩で歌われる終盤も良い味を出しています。
サザンのアルバムのラストを飾るバラードはどれも人気が高いですが、この曲はどうも陰に隠れがちな印象があるのは、アルバムの収録時間の長さのせいでしょうか。
いや、しかし、じっくり聴くと染みますね。平井堅の『片方ずつのイヤフォン』という曲の歌詞中に「サザンオールスターズ」の名前とともに、この『Jus a Little Bit』という曲名が登場します。

総合 ★★★☆

ロック色が強く、勢いに溢れた1枚。後半にややダレるのが、唯一の難点。
(改:2007.2.19)


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