NO-NAMEの隠れ家

NO-NAMEの隠れ家

サザンオールスターズ (4)

作品レビュー…の続き

35thシングル
『マンピーのG☆SPOT』
(1995.5.22)



1993年の『クリスマス・ラブ (涙のあとには白い雪が降る)』以来、活動休止を経て、約1年半ぶりの復活シングル。で、復活第1弾シングルのタイトルがコレです(笑)。
表題曲『マンピーのG☆SPOT』は、その強烈なタイトルに加え、サウンドのほうもスゴイ。サザン史上、類を見ない音圧で攻めるハードロックナンバー。こんな曲を復活第1弾に持ってくるとは。毎度驚かしてくれますね。でも、盛り上がること間違いなしといった感じですね。
c/wは、A面に比べて話題に上ることの少ないナンバー。ライトファンでも知っているA面、コアファンでも忘れがちなB面といったところでしょうか(笑)。
体調の問題で以前から活動を休止していたベーシストの関口和之さんも、この作品から復帰しています。

1.マンピーのG☆SPOT ★★★★

B'zか、Red Zeppelinかというような、激重のギターリフで幕を開けるハードロック。演奏のカッコ良さは鳥肌ものです。轟音で最後まで疾走するサウンドは痛快の一言。…ですが、だいたいこの曲に関して語られるときは歌詞についてのほうが多いですね。「マンピー」はいいとして(よくないけど)、その前の「メケメケの世界~♪」には誰もつっこまなかったのでしょうか。2番の歌詞には芥川龍之介まで登場してしまいます。ライブでは終盤の盛り上がりコーナーの定番曲。定番曲が多いですね(笑)。

2.メリージェーンと琢磨仁 ★★★

「メリー・ジェーン」は、つのだ☆ひろのヒット曲からの引用(そういえば、『マンピーのG☆SPOT』と「つのだ☆ひろ」は、星つながりだ!)。琢磨仁さんは、KUWATA BANDにも所属していたベーシストですね。楽曲はオシャレなファンクです。

(記:2008.8.5)










ベストアルバム (限定盤)
『HAPPY!』
(1995.6.24)

HAPPY!ONE WITH YOUR LOVER

1.マンピーのG☆SPOT
2.おいしいね ~傑作物語
3.シュラバ☆ラ☆バンバ SHULABA-LA-BAMBA
4.女神達への情歌 (報道されないY型の彼方へ)
5.希望の轍
6.栞のテーマ
7.亀が泳ぐ街
8.みんなのうた
9.我らパープー仲間
10.ナチカサヌ恋唄
11.勝手にシンドバッド
12.メリージェーンと琢磨仁
13.さよならベイビー
14.女呼んでブギ
15.遥かなる瞬間
16.いとしのエリー

HAPPY!TWO IN THE CAR

1.涙のキッス
2.匂艶 THE NIGHT CLUB
3.ゆけ!! 力道山
4.フリフリ’65
5.C調言葉に御用心
6.忘れられたBig Wave
7.ニッポンのヒール
8.ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)
9.鎌倉物語
10.Brown Cherry
11.チャコの海岸物語
12.YOU
13.最後の日射病
14.東京サリーちゃん
15.クリスマス・ラブ (涙のあとには白い雪が降る)
16.Ya Ya (あの時代を忘れない)

HAPPY!THREE IN YOUR ROOM

1.エロティカ・セブン EROTICA SEVEN
2.OH,GIRL (悲しい胸のスクリーン)
3.海
4.MY FOREPLAY MUSIC
5.愛は花のように (Ole!)
6.HAIR
7.素敵なバーディー (NO NO BIRDY)
8.悲しみはメリーゴーランド
9.夕方 Hold On Me
10.ポカンポカンと雨が降る (レイニー ナイト イン ブルー)
11.EMANON
12.愛する女性とのすれ違い
13.真夏の果実
14.LOVE SICK CHICKEN
15.開きっ放しのマシュルーム
16.慕情

1989年の4枚組作品『すいか』以来となる限定生産ベストアルバム。洗剤のパッケージを模した箱に、「WITH YOUR LOVER」・「IN THE CAR」・「IN YOUR ROOM」と題したCD3枚、ハッピ、ハッピーステージパスが封入されています。このハッピを着用してライブに参加するファンもいますね。
今回は『すいか』とは異なり、桑田佳祐自身が全楽曲の中から幅広く収録曲を選んでいます。これまで日の当たることのなかったマイナーな楽曲や、桑田さん自身のお気に入り具合とは裏腹にヒットすることのなかった楽曲なども収められています。いきなり1枚目の2曲目に『おいしいね ~傑作物語』が収録されていますし、『亀が泳ぐ街』も当然のように収録されるわけです(笑)。
また全楽曲にリマスタリングが施されていて、聴き心地の良い音になっています。
(記:2008.8.5)










11thアルバム
『Young Love』
(1996.7.20)



1995年5月に『マンピーのG☆SPOT』で復活し、6月には『HAPPY!』をリリースしたサザンオールスターズ。7月には早くも新曲『あなだだけを ~Summer Heartbreak~』がリリースされました。この曲はドラマ主題歌としてヒットし、サザン3作目のミリオン・セラーとなります。そして8月の5・6日には『サザンオールスターズ スーパー・ライブ・イン・横浜 ホタル・カリフォルニア』が開催され、大盛況を収めました。翌1996年5月にリリースされた約10ヶ月ぶりとなる新曲『愛の言霊 ~Spiritual Messeage~』は、こちらもドラマ主題歌として大ヒット。2作連続・通算4作目のミリオン・セラーとなりました。この『愛の言霊』がまだヒットを続ける中で6月には早くも新曲(アルバムからの先行シングル)『太陽は罪な奴』をリリース。そして7月20日、『世に万葉の花が咲くなり』以来、実に3年10ヶ月ぶりの11thアルバムである今作『Young Love』がリリースされました。
久々の単独プロデュースということも影響してか、音楽的にはサザンの出自である「学生バンド」っぽさが感じられるロック・サウンドに戻ってきたという印象。1曲目の『胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ』からいきなり感じられる土臭さが素晴らしいですね。『世に万葉の花が咲くなり』がゴテゴテとした装飾を施したサザンであったとするならば、今作は裸のサザン・サウンドが感じられる一枚といえるでしょう。もちろんアレンジ的に凝っている曲も多数ありますが、どれもとってつけたような落ち着かなさがなく、楽曲そのものの良さを生かすアレンジメントになっていると思います。『熱い胸さわぎ』を思い出させるような勢いがあり、バランスの良い一枚。
世はCDバブルの時代、直前のシングルの大ヒットも追い風となってか、サザンのオリジナル・アルバムとしては最高の249万枚の売上を記録。8月~10月にかけては、今作を引っ提げてのスタジアム・ツアー『ザ・ガールズ万座ビーチ』を成功させました。

1.胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ ★★★★

ブリティッシュ・ロックをイメージしたというオープニング・ナンバー。埃っぽいギターのストロークから、芯の通ったロック・サウンドが展開されていきます。何を言っているのか分からない出だしのフレーズ、裏声で通すサビなど、桑田さんのヴォーカル・パートも、聴く者の耳を掴んで放さない魅力に溢れています。最後までバンド感たっぷり。いきなりの名曲です。

2.ドラマで始まる恋なのに ★★★☆

ポップなアレンジメントを施したバラード・ナンバー。キーボードを出しすぎず、ロック色と丁度良いバランスで絡めて仕上げているのが、今作のカラーに合っていますね。サビで「(あの夏の)こ~い~がぁぁ~♪」と消えそうになる桑田さんの声が快感です。「可愛い睫毛の先まで恋焦がれてた」というフレーズも良いですね。一般受けしそうな曲だと思いますが、コンピレーション盤にも収録されておらず、ライブで演奏されたこともありません。

3.愛の言霊 ~Spitirual Messeage~ ★★★★

37thシングル。1996年5月20日リリース。日本テレビ系ドラマ『透明人間』主題歌として大ヒットしました。「生まれく台詞とは~♪」というフレーズが、多くの人の印象に残っているのではないでしょうか。サウンドはHIP-HOP+民族音楽+歌謡曲+祭囃子……、そして歌詞は古語+現代語+英語にインドネシア語ラップも入り……、サザンの怪物ぶりを見せ付けられた楽曲。歌いまわしもサザン独特の感じですね。
昔から、「これは世間に受けるぞ~」という曲と一般受けはあまりしそうにない実験的な曲の両方を上手に使い分けてシングルに切ってきたサザンですが、この曲は実験曲かつ大ヒットしたという希少な例ですね。

4.Young Love (青春の終わりに) ★★★☆

タイトル・ナンバーは、どこをどう切ってもThe Beatles。サウンド面は、彼らへのオマージュということで話がもう終わってしまうかな(笑)。歌詞は、青春時代を懐古するという、どことなく寂しいものに。このサウンドにこの歌詞をつけたのは、狙い通りなんでしょうかね。

5.Moon Light Lover ★★★

ゴージャスでソウルフルなアレンジに仕上げた穏やかなナンバー。イントロは『シャ・ラ・ラ』を思わせますね。歌詞も、「~くらい」・「スゴイ」・「辛い」で韻を踏んだり、『匂艶 THE NIGHT CLUB』のタイトルにも使われている造語「匂艶」を再登場させたり、色々やっていますが、とにかく全体としての完成度が高いです。ムーディーな言葉選びが見事。

6.汚れた台所 ★★★★

社会風刺ソングの最高峰ではないでしょうか。不祥事を隠蔽する企業体質を、教育の腐敗を、密室の政治を、援助交際を、とにかく切りまくっています。そして、「平和という神経ガス」という強烈な風刺は、我々リスナーをもサザン自身をも含めた全ての人々への皮肉と警鐘でしょう。サウンドも最高にカッコイイです。メンバー6人で一発録りしたというハードなロックンロール。今作の中でも強い印象を残す1曲です。

7.あなただけを ~Summer Heartbreak~ ★★★★

36thシングル。1995年7月17日リリース。フジテレビ系ドラマ『いつかまた逢える』主題歌として大ヒット、サザン3作目のミリオン・ヒットとなりました。これはもう世間に持たれているサザンのイメージを外すことない王道の1曲ですね。「泣かないで~♪」という冒頭のフレーズに、歌詞の呼びかけとは裏腹に涙を誘われます…。「誰かが落とした麦藁帽子が♪」の部分も、とても鮮やかで良いですね。2番のサビの「もう一度だけ俺を見つめて欲しい~♪」の部分は、何度かあるサビのうちで唯一この箇所だけ音階が下がっていくメロディーラインとなっており、曲をのんべんだらりとした印象になるのを防ぐための隠れたアクセントになっています。

8.恋の歌を唄いましょう ★★★☆

原坊ヴォーカルのナンバーが登場。とにかくアレンジメントが良いです。ポップで、清々しくて。サザンのアルバムでの原坊の楽曲は『ナチカサヌ恋歌』・『ポカンポカンと雨が降る』と独自の色を持った楽曲が続いていたので、こういったストレートな楽曲がたまに出てくるというのもマルですね。

9.マリワナ伯爵 ★★☆

シンプルなコード進行を凝ったアレンジで聴かせるファンク・ナンバー。土臭い感じですが、同時にポップな仕上がりになっています。ただ、アルバム中では最も印象の薄い曲かな~。

10.愛無き愛児 ~Before The Storm~ ★★★

崇高な響きすらするメロディーを桑田さんが歌うピアノ部から、シャッフルのリズムに変化し、再びピアノ部へ…、という凝った構成が光るナンバー。歌詞は重いテーマを扱っており、それだけに桑田さんの歌も余計に重く響いてきます。聴き込み甲斐のある1曲です。

11.恋のジャック・ナイフ ★★★☆

シングル『愛の言霊 ~Spiritual Messeage~』のc/wに収録されていたナンバー。ここではシングルのものとは若干異なるバージョンで収録。
ド派手なシンセが冒頭から鳴り響くアレンジでありながら、歌い出されるメロディーは典型的な歌謡曲という驚きの1曲。ギター・ソロも極めて和風です。前作の『ポカンポカンと雨が降る』も似たようなアイデアでしたが、今回はアレンジがもっと「流行の音」といった感じで、全体の印象も歌謡「ロック」に仕上がっています。スピード感がありますね。ただ、キレの良いAメロBメロに対してサビが幾分間延びした感じではあり、そこが個人的にはちょっと惜しいところ。ところで、これ、言われるまで気付かなかったんですが、サビの「いーーいーーじゃーーーないー♪」というフレーズに「ジャック・ナイフ」という言葉がかかっているんですね(笑)。歌詞のほうは、「抑圧」・「とこしえ」・「迂回路」など、何気なく出てくる言葉選びにセンスが光っています。

12.Soul Bomber (21世紀の精神爆破魔) ★★★

サウンドそのものは分かりやすいミディアム・ハード・ロックなんですが、精神異常者をテーマにした歌詞と様々なSEが、この曲をどこか複雑な印象にしています。サブタイトルは、King Crimsonの楽曲のパロディ。

13.太陽は罪な奴 ★★★★

38thシングル。1996年6月25日リリース。アルバム先行シングルでした。ここでは、冒頭に波音のSEが入っているトラックで収録されています。原坊の『恋は、ご多忙申し上げます』を彷彿とさせるリズミカルな1曲で、髪を長く伸ばした桑田さんがタンバリンを叩きながら歌っていたのが印象に残っています。PVには、アントニオ猪木も出演していましたね。夏にピッタリでとても盛り上がるナンバー。「高気圧はVenus達の交差点」というフレーズは、名文句でしょう。

14.心を込めて花束を ★★★☆

結婚式で両親へ贈る、という設定のストリングス・バラード。編曲を宮川泰氏に全面的に依頼し、いつものサザンとは異なる雰囲気の楽曲になっています。バンド・サウンドが全く入って来ないフル・ストリングス。近年のライブでは、『Ya Ya (あの時代を忘れない)』と並び、アンコールのラストに演奏されることが最も多い1曲です。

総合 ★★★★☆

(記:2008.8.23)










コンピレーションアルバム
『海のYeah!!』
(1998.6.25)



DISC-1 ~SEA SIDE~

1.勝手にシンドバッド
2.いとしのエリー
3.C調言葉に御用心
4.栞のテーマ
5.いなせなロコモーション
6.夏をあきらめて
7.チャコの海岸物語
8.匂艶 THE NIGHT CLUB
9.鎌倉物語
10.Bye Bye My Love (U are the one)
11.ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)
12.海
13.みんなのうた
14.希望の轍
15.忘れられたBig Wave

DISC-2 ~SUNNY SIDE~

1.真夏の果実
2.YOU
3.シュラバ☆ラ☆バンバ SHULABA-LA-BAMBA
4.涙のキッス
5.さよならベイビー
6.エロティカ・セブン EROTICA SEVEN
7.素敵なバーディー (NO NO BIRDY)
8.そんなヒロシに騙されて
9.マンピーのG☆SPOT
10.あなだだけを ~Summer Heartbreak~
11.Moon Light Lover
12.太陽は罪な奴
13.恋のジャック・ナイフ
14.愛の言霊 ~Spiritual Message~
15.平和の琉歌

アルバム『Young Love』リリースとその後のスタジアム・ツアーを終えたサザン。年末には横浜アリーナで年越しライブ『牛』を開催します。このセットリストがコアな楽曲が多くて凄かったものです。
1997年に入り、3月には映像作品『平和の琉歌 ~Stadium Tour 1996 ''ザ・ガールズ万座ビーチ'' in 沖縄~』をリリース。8月には約1年2ヶ月ぶりのシングル『01MESSENGER ~電子狂の詩~』をリリース、11月にも『BLUE HEAVEN』をリリースします。この年も年末に年越しライブ『おっぱいなんてプー』を開催しますが、これがまた前年を上回るほどのコアな演奏曲目。1曲目から『Let It Boogie』で、コア・ファンは歓喜、ライト・ファンは置いてけぼりに(笑)。
年が明けて1998年2月にリリースされた『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』はタイアップ効果もありロング・ヒットとなりました。(なお、『01MESSENGER』以降の一連のシングルに関しては、この後のアルバム『さくら』のレビューで触れています。)

そしてそして、デビュー20周年の記念日である1998年6月25日にリリースされたのが今作『海のYeah!!』です。デビュー曲『勝手にシンドバッド』から今作リリース当時の楽曲まで、全ての年代から幅広く選曲された30曲を収録したコンピレーション・アルバム。発売当時のコメントによると「夏をテーマに選んだ」ということで、厳密には「ベストアルバム」ではありません。
熱心なファンからすると「…『Ya Ya』がない、『ボディ・スペシャルII』がない、『クリスマス・ラブ』がない…」ということになったりするのですが、「夏」をテーマにした今作にはそぐわないから…と考えると自然と納得がいきます。
ですが、まぁ、内容の充実度、収録曲の年代とバランスから見ても、「ベストアルバム」と位置付けて全く問題ないでしょう。様々なところでベストアルバムとして扱われており、もはや「夏をテーマに選んだ」という事実すら公式にも忘れられかけているようです(笑)。

これまでの『すいか』・『HAPPY!』といったコンピレーション・アルバムは全て限定版で現在では入手困難ということもあり、手軽に入手することが出来て、なおかつサザンの歴史を一気に辿ることの出来るアルバムは今作のみ。もちろんサザンオールスターズとしては今作リリースの後にも現在まで約10年間に渡る活動があるわけですが、それでもやはり今作が入門編としては最適、まさしく決定盤でしょう。デビューからの20年間を2枚組にギュッと凝縮しています。現在まで累計約340万枚を売り上げており、今作が「最も売れたサザンのCD」ということになります。毎年夏になると必ずチャートに顔を出してくるお化けアルバムでもあります。

内容面に細かく触れていきましょう。収録されている全30曲の並び方は、「ほぼ」リリース順。曲調やアルバムの流れを考慮して、何箇所かで前後の入れ替えが行われています。そんな中、DISC-2の8曲目に収録されている『そんなヒロシに騙されて』は、一見明らかにおかしな位置に置かれています。ほほ全曲が1990年以降の楽曲のDISC-2にあって、原坊がボーカルを務めるこの曲は1983年のアルバム『綺麗』の収録曲。なんでこの曲だけこんな位置に??…ということなんですが、DISC-1とDISC-2に原坊ヴォーカルの楽曲をそれぞれ1曲ずつ収めるためにこうなったようです。DISC-1には『鎌倉物語』が収録されていますからね。出来れば1990年以降に発表された原坊ヴォーカルの曲を収録したかったのかもしれませんが、適当な楽曲がなかったのかもしれませんね(『ナチカサヌ恋歌』では『平和の琉歌』とテーマが重複する、『ポカンポカンと雨が降る』は今作に収録するにはやや弱い、『恋の歌を唄いましょう』ではアルバム『Young Love』からの選曲が多くなりすぎる、といったところでしょうか)。だから『そんなヒロシ~』をDISC-2に持ってくる…というのもいささか強引ではありますが(笑)。

今作の全30曲中、シングルA面の楽曲は20曲となっています。残りの10曲はアルバム収録曲9曲+映像作品に収録されていた『平和の琉歌』のCD音源化です。ちょっと細かいことを言うと、DISC-2の13曲目に収録されいてる『恋のジャック・ナイフ』は、初出がシングル『愛の言霊 ~Spiritual Messeage~』のc/w。その後アルバム『Young Love』にバージョン違いとして収録され、今作にはそのアルバム・バージョンの音源が収録されています(ジャケット等の表記上での断りはなし)。
シングルにそこまで拘らずに、アルバム曲からも人気の高い楽曲を素直に持ってきたのは正解ですね。もともとサザンの場合は、シングルで実験的な楽曲や一般受けしそうにない楽曲を多く発表していたりして、アルバム中にキラリと光る名曲が潜んでいることが多いですからね。ですから、今作を聴いて「どれがシングル曲」・「どれがアルバム曲」というのを当てるのはかなり難しいのではないでしょうか。

今作で初CD音源化された『平和の琉歌』は、1997年3月に発売された映像作品『平和の琉歌 ~Stadium Tour 1996 ''ザ・ガールズ万座ビーチ'' in 沖縄~』に収録されていた楽曲であり、『ナチカサヌ恋歌』(アルバム『Southern All Stars』収録)以来の沖縄民謡風の楽曲。戦争と平和について考えさせられます。

(記:2008.8.23)










12thアルバム
『さくら』
(1998.10.21)



「うわぁ~っ、濃いぃ」っていうのが最初の感想でした。全16曲、78分超のCDギリギリの収録時間。約3000時間を費やして完成した一枚。曲も詞も、相当に時間をかけて煮込んだのであろうことが分かります。ここでは形を変えて収録されいてる『01MESSENGER ~電子狂の詩~』のほか、『BLUE HEAVEN』・『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』・『PARADISE』といったシングルA面の4曲、そして『CRY 哀 CRY』・『私の世紀末カルテ』・『SEA SIDE WOMAN BLUES』といったカップリング3曲が既出で、新曲は9曲。と書くと、やや既出曲占有率の高さが気になるかもしれませんが、既出曲もどれもアルバムの中でしっかりとその曲ならではの意義を果たしており、既出であることは全くと言っていいほど気になりません。むしろ上記の楽曲の大部分は、このアルバムに収録されて更に輝きや説得力を増した、このアルバムに収録されるためにあった、とさえ言えるかもしれません。
前作『Young Love』が、「バンド」としての原点に立ち戻った作品であったとするならば、今作はサザンの「深さ」を見せ付けてくれる作品と言えるでしょう。純粋なラブ・ソングはほとんどなく、メッセージ性に富んだ楽曲や、実験的な新規開拓ナンバー、凝ったアレンジを施したナンバーで、アルバムの大部分が占められています。桑田さんも「好き放題やった」と語っている通り、一般受けをほとんど無視したようなアルバムになりました。もちろん、そんな中でも、「ポップ・センス」・「バンドらしさ」という要素もしっかり感じられるのだから、サザンの力量を実感しますね。特に『PARADISE』以降の後半の流れは神がかっていると思います。
セールスのほうですが、コンピレーション・アルバム『海のYeah!!』は大ヒットしたものの、その前後のシングルから売上の低落傾向が続いており(例外的に『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』はドラマ主題歌としてロング・ヒット)、今作はアルバムでは『Kamakura』以来のミリオン割れとなりました。

1.NO-NO-YEAH/GO-GO-YEAH ★★★

グランジ・ロックで幕を開けます。テンポを落とした演奏が渋くてカッコイイですね。じわじわきます。「RADIOHEADにハマってて」とは桑田さんの言。歌詞は、またしても日本語・英語のダブル・ミーニングを散りばめた桑田流。「Doraemon」という単語も初登場しています。

2.YARLEN SHUFFLE ~子羊達へのレイクイエム~ ★★★

R&B+サザン・ロック。メロディーはとてもキャッチーで重い1曲目の次に来る2曲目としての役割をしっかりと果たしています。地声と裏声を行き来する難しいサビをサラリと歌うヴォーカルもマル。歌詞は、日本社会の崩壊と、それに危機感を覚えないことの怖さを描いています。

3.マイ フェラ レディ ★★★

タイトルからしてスゴイですが、この曲はひとつの到達点ですね、ほんとに。『人気者で行こう』あたりから本格的に挑戦してきた「日本語をいかに英語っぽく(≒ロックに合う音として)表現するか」という課題、そして、放送禁止用語までも英語でごまかす(いわゆる「空耳」のようにして)ということによって、日本語を大切にしながらも日本語歌詞としての制約を振り払うといった難題、これは『Brown Cherry』(『kamakura』収録)でほぼ完成したわけなんですが、今回は更にその先に届いてしまったような感じですね。今回はズバリ「ラテン語」。日本語の響きとラテン語の響きを結ぶことに挑戦しています。今回の場合はラテン語のほうを先に作り、それに近い日本語の音を当てはめていく、という手法を取ったのでしょう。「うなされど」なんてフレーズは、そうした方向性で歌詞作りに当たったからこそ出てきたのかもしれないですね。で、出来上がった歌詞が、エロティックの極地といいますか…、まぁ、タイトルだけで皆までいうまいという感じではあるのですが、ちょっとそんじょそこらにあるような歌詞ではないので、まぁ、是非歌詞カードを見ながら聴いて欲しいですね。
サウンドのほうは、1960年代あたりの本格的なジャズといったところでしょうか。桑田さんの多重録音コーラスが使われています。

4.LOVE AFFAIR ~秘密のデート~ ★★★★

41stシングル。1998年2月11日リリース。TBS系ドラマ『Sweet Season』の主題歌として、最高位4位ながら長期間に渡ってチャート・イン。『真夏の果実』型のロング・ヒットを記録しました。フィル・スペクター・サウンドで、横浜を舞台にした不倫ソング。歌詞はなかなか良いですね。愛人と家庭の狭間の男心が見事に表現されています。イントロとアウトロに歓声が入っていますが、これはサザンのライブのものではなく、某ミュージシャンのライブ音源のサンプリング。桑田さん曰く「サザンのライブでは、あんなに黄色い歓声はない」…(笑)。

5.爆笑アイランド ★★☆

社会風刺曲です。今作は明快なラブ・ソングが少ないのに対して、こうした社会的内容を持った曲が多く収録されています。間奏では、内閣総理大臣の所信表明演説をパロった掛け合いが挿入されています。
サウンドのほうは、当時流行のデジタル・ロック。メロディーが単純すぎるような気も。もう少し凝ってくれれば、良い出来になったでしょうに。残念。

6.BLUE HEAVEN ★★★★☆

40thシングル。1997年11月6日リリース。シンプルな構成とスライド・ギターの心地良いアレンジが、ゆったりと波間を漂うような気分にさせてくれるミディアム・バラッド。コーラス・ワークも、歌詞の世界観も、ケチのつけどころがないです。サザン・ファンからの評価は高いですが、もっと売れなくてはいけない曲だったように思います。普遍性を持った名曲。

7.CRY 哀 CRY ★★★

シングル『PARADISE』のc/wとして収録されていたナンバー。歌詞は古語、「雅」テイストを感じさせ(この手の路線が『Young Love』あたりからサザンの中での流行だったのでしょうか)、そして何より…!プログレ風なんですよ、今回は。重い演奏、サビで炸裂するドラミング、うん。このアバンギャルドな感じ。既発表ということと、『NO-NO-YEAH/GO-GO-YEAH』という適役がいたためにこの位置になったのでしょうが、この曲が1曲目でも面白かったかもしれませんね。

8.唐人物語 ラシャメンのうた ★★★

江戸時代末期の実在の芸者をモデルにした歌詞世界が独特。サウンド全体の雰囲気も、「和」のテイストと、「春」の香り、そしてどことなく曇りがかったような感じが、黒船来航前後の動乱期を俯瞰で描いたこの曲に良く合っているではないですか。で、これを原坊が歌うのも正解。原坊は、季節で例えるならやっぱり「春」って感じがしますもんね(笑)。ちょっとこのアルバムをアタマから聴いてると、この曲は穏やかすぎて眠くなってしまうので(それもそれで良いんだけど)、1曲だけ取り出して聴いてみるのもオススメです。

9.湘南SEPTEMBER ★★★☆

タイトルはセルフ・パロディ、でしょうか。サザンといえば「湘南」・「夏」・「海」というイメージを持たれる中で、しかし「湘南」という単語がタイトルにつく曲はこれまでに1曲もなかったのですが、今回こうやって「敢えて」世間に抱かれているサザンの画一的なイメージを自身でめいっぱい表に出してしまった、ということでしょうかね。このタイトル、TUBEなら何も迷わず付けそうですが、サザンとしては「逆に」違和感があります。今アルバムにはストレートなラブ・ソングは収録したくなく、「それならば」とこんな人を食ったようなタイトルの楽曲を用意した、というのなら納得ですね。
曲そのものは、結構好きです。ロッカバラッド。こうした落ち着いた雰囲気がなんとも良いものです。たまに無性に聴きたくなります。

10.PARADISE ★★★☆

42ndシングル。1998年7月29日リリース。アレンジ・曲構成ともに凝ったファンク・ナンバーで、歌詞は核兵器廃絶へのメッセージ。シングルA面の曲で、こういうテーマを扱うような時代になってしまったんですねぇ…(この手の歌詞の先駆けとして『ネオ・ブラボー』もありましたが、あれはもっと抽象的かつ難解だった)。曲のほうは、ここでまた打ち込みということで、『愛の言霊』の二番煎じと世間から受け取られれしまうのは、しょうがなかったかもしれませんね。桑田さんはそのセンを狙って作ったわけではないだろうと思いますけど。間奏のシャウトはJames Brownからの引用。

11.私の世紀末カルテ ★★★

シングル『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』のc/wとして収録されていたナンバー。桑田さんのギターとハーモニカ、そして終盤で入る原坊のオルガンのみで構成されている、フォーク・ソング。桑田さんのソロ・アルバム『孤独の太陽』に入っていてもおかしくないような曲調ですが、この時期あたりから桑田さん自身は「ソロとサザンとの境界線」というものをあまり意識しなくなっており、サザン名義でこの曲を発表しました。ライブでは、社会情勢に合わせて歌詞を変えて歌うのが定番となっていましたが、新世紀を迎えた今では、この曲は「封印」となったようです。

12.SAUDADE ~真冬の蜃気楼~ ★★★★

タイトルは「サウダージ」と読みます(後のポルノグラフィティのヒット曲によって一気に有名な言葉になってしまいました)。ブラジル風に料理したアレンジが新鮮で、今作で初お目見えする曲の中でもかなり好印象の1曲。詞・曲ともに、異国情緒が漂いますね。確立された世界観がお見事。こうした異国風歌謡曲路線、今後もう少し増やしてみても良いのではないかと思いました。

13.GIMME SOME LOVIN’ ~生命果てるまで~ ★★★

GS路線。そして歌詞はSM。手を変え品を変え、って言葉になんか商業っぽいヤラシイ意味が含まれているので嫌ですが、とにかく今作、とりわけ後半の曲調・テーマの幅広さは凄いですね。メロディー自体は桑田さんのお得意の…といった感じで、さらっと書けてしまいそう。アレンジには、GSの枠を崩さない範囲で、努めて1990年代後半の流行の音を取り入れている印象もあり、聴きやすく仕上げています。パンチの聴いたロック・サウンドになっています。

14.SEA SIDE WOMAN BLUES ★★★☆
シングル『01MESSENGER ~電子狂の詩~』のc/wとして収録されていたナンバー。ハワイアン・アレンジのバラッドで、これまでの曲で言うなら、『愛して愛して愛しちゃったのよ』(『稲村ジェーン』)を思わせますね。まぁ、あの曲自体もカバーなわけで、つまるところ、和田弘&マヒナスターズの雰囲気。こうしたウクレレのアレンジですが、メロディーは極めて日本的な歌謡曲風なんですよね。染みます。「愛という字は真心で 恋という字は下心」というフレーズって、桑田さんのオリジナルなんでしょうか?

15.(The Return of)01MESSENGER ~電子狂の詩~ (Album Version) ★★★★

原曲は39thシングル。1997年8月21日リリース。タイトルからも分かるように、シングルとは別バージョンになっています。シングル収録曲をアルバムに別バージョンとして収録したことはこれまでも何度かあるのですが(『気分しだいで責めないで』・『恋のジャック・ナイフ』等)、それらは全て細かな変更にとどまり、ジャケットやブックレットでも「別バージョン」である旨の記述はありませんでした。「アルバム・バージョン」としての明確な表記をしたのは、長いサザンの歴史の中でも今回が初めて。今回敢えてそうしたのも、一聴すれば納得で、この『01MESSENGER』は、シングル収録時とは大きく姿を変えています。驚くことに、ドラムンベースにしてきましたよ。あくまで「シングル向き」なシングル・バージョンより、こちらのほうが断然格好良くなっていると思います。

16.素敵な夢を叶えましょう ★★★☆

美しく纏め上げたストリングス・バラード。個人的には『慕情』を思い出しましたね。歌詞中に出てくる「南十字」とは、「サザンオールスターズ」のことなのでしょう。サザン史上最高とも思える濃い流れのアルバム、静かなこの曲が優しくラストを飾ります。

総合 ★★★★

(記:2008.8.30)










43rdシングル
『イエローマン ~星の王子様~』
(1999.3.25)



アルバム『さくら』に続いてリリースされた、1999年最初のシングル。表題曲は『さくら』で見せた「裏・サザン」路線を引き継ぐテクノ・ナンバー。桑田さん自身とても自信を持って世に送り出した楽曲ですが、セールスの低下傾向に歯止めはかからず、オリコン最高位10位、累計売上も10万枚を切る結果に終わってしまいました(なお、2005年のマキシ化再発売時に10万枚を突破)。『女神達への情歌』以来の低セールスに終わり、いよいよ売上低迷が深刻になってきたわけですが、この次が『TSUNAMI』の国民的大ヒット。わからないものですね。
なお、表題曲『イエローマン ~星の王子様~』は、長い間オリジナルアルバムのリリースがなかったこともあって結局アルバム収録の機会を逃し、現在までアルバム完全未収録。ライブでは頻繁に演奏されるので知名度は高めですが、CD音源を持っていないという人も多そう。ファンなら迷わずマキシシングルを買いましょう(笑)。
c/w『夏の日のドラマ』は、桑田さんの作詞・作曲で、松田さんがヴォーカルを務めるナンバー。こちらは『バラッド3 ~the album of LOVE~』に収録されています。

1.イエローマン ~星の王子様~ ★★★☆

あっと驚くグラム・テクノ。アブラが乗り切ってます。『さくら』というアルバムを作っても、まだまだ止まらないサザンの快進撃! いいじゃないですか、40代になってもこういう曲を作っちゃうなんて。桑田さん自身も相当この曲を気に入っているようです。歌詞はあまり意味のない単語の羅列。「Androgyny」=両性具有者なんていう言葉も出てきます。「下司なPleasure」・「木偶のTreasure」というフレーズが、某アーティストのベスト・アルバムを皮肉ったものではないかとして一部で議論を呼びましたが、長渕騒動の時のような盛り上がりには全くなりませんでした。このフレーズは、皮肉や中傷の意図は全くなくて、単に韻を踏んだ結果のように僕は思うけどなぁ。

2.夏の日のドラマ ★★★☆

作詞・作曲が桑田佳祐、ヴォーカルが松田弘。このパターンは『松田の子守唄』・『翔(SHOW)~鼓動のプレゼント』以来、本当に久々の3曲目。松田さんのヴォーカルということだけで言うならば、他に『遥かなる瞬間』・『君に贈るLOVE SONG』がありますね。
この『夏の日のドラマ』は、『さくら』以前のサザンの王道であるミディアム・ラブ・ソング。そろそろこうした楽曲を聴きたかったファンも多かったのでは。しかし、c/wという位置にこの曲を置いて、かつ、普通に桑田さんが歌っても良さそうなところを敢えて松田さんヴォーカルにしているというのは、まだまだ原点回帰はしないぞという当時のサザンのメッセージだったのかもしれないですね。しかし、桑田さんにとって予想外の今シングルの売上不振で、次回作は『TSUNAMI』という王道ナンバーで再びサザンの路線の揺り戻しを図っていくことになります。
また話の内容が少しズレたのでこちらも軌道修正して楽曲そのものについて書きますが、松田さんのヴォーカルがなかなかこのキラキラしたサウンドに合っていて、そういう意味からもこの判断は正解ですね。サビ頭の高音域から一度「夏の日のドラマよ~♪」と低音域でバウンドする感じがどこかくすぐったく、この曲のチャーミングな点になっていると個人的に思います。また、メインヴォーカルを譲ってバックコーラスに務める桑田さんの声も良い調味料として作用していますね。ライブでは松田さんがドラムを叩きながらこの曲を披露してくれました。

(記:2008.8.15)


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: