Busters-EN BLOG

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「Michael」





「…………」
私は惚けたようにじっとその水溜りを眺めていた。
といってもただの水溜りではない。
というか、ただの水溜りなど眺めるわけが無い。
見ているのは、そこに写る一人の少年だ。
この水溜りは私たちの間で通称『鏡』と呼ばれるすこし特別なもの。
この世界とあの世界を自由に眺める事の出来るものだ。
それを使い、少年を見ているということだ。
そいつは白いシャツと灰色のズボンを履いていた。
そいつがいるのは、樹木の前。
木の名前は、イチョウということを聞いていた。
そいつはイチョウの木の前でぼうっと立っている。
その顔は明らかに笑顔。
確かに笑顔。
でも、泣き顔。
明るい笑顔に、一筋の雫。
無理矢理笑顔の上に涙を書いたような複雑な表情。
…………まったく、何て顔をしているんだ。
何度もそう思った。
それはそうだろう、笑みを浮かべながら涙を流すという意味のわからないことをしているのだから。
あの涙は、誰に向かってなのだろうな。正直、自分だと嬉しいんだが。
微かに心にある希望を否定したりはしない。
間違いない。
あの時は意地を張ったものの、この気持ちは否定のしようがなかった。
確実な、恋心。
…………まったく、何て顔をしているんだ。
もう一度、同じ事を思う。
しかし今度は
こんな美人が好きだと言ってやってるのだ、感謝しろ。
という意味も込めて。
自分でそう思った後、自然と笑みがこぼれる。
クスッと小さく笑う。
すると、後ろから声がした。
「よう。何、『鏡』見てニヤニヤしてるんだよ。気味悪いぞ」
明らかに私に対する言葉。
低めの声で、分類されるなら男、の声。
別に分類する必要性は無いのだが。
あいつと接してるうちにそういうことも考えるようになってしまった。
人間臭くなってしまったというか、なんというか。
とりあえず、さっきの言葉に返答しておく。
「何だ、お前か。……別に。ニヤニヤなどしていなかったと思うが?」
そういうと、うへえ、とでも言うように肩をすくめた。
そして、まあ、なんとなくわかるけどね、といってからこう続けた。
「おおかた、あの人間の事でも見てたんだろ。まったく飽きないねえ。姐さんは」
明らかに冷やかしの言葉だ。
悔しいが、私の気持ちは見透かされてしまっているらしい。
しかし、今は別のほうが気になった。
「ふん、そんなことどうでもいいだろう?それより、そのおかしな愛称で呼ぶのはやめろ」
姐さん。そう彼…という事にしておこう。は言った。
私の言葉に対し、彼は。
「あ、そう?ええと、たしか人間が使う言葉のうちの一つで、頼れる年上の女に対し男なんかが使う言葉。だったかな」
別にそんなことは聞いていない。というか大体なんなのだそれは。
そうではなく……
「だれが言葉の意味を説明しろと言った。変な呼び方をするなといっているんだ、わかっているのか?」
私はため息をつきつつ言う。
そして私の言葉にさらにこう返してくる。
「まあまあ、こんな言葉なんかじゃ表せないくらい、あんたは気高いんだから……」
そういってまた肩をすくめて言う。
一応、敬意は態度というか素振りで表してくれているものの、言葉に表れていない。
「知るか。いくら同じ階級とはいえ無礼だ。口を慎め」
また肩をすくめておどけてみせる。
しかし、今度はきちんと答えてくる。
「そうだな、失礼。で?姐さんは何を見ていたんだ?」
軽く誤りつつ、冷やかしの意は隠れていない。
私は諦めて、適当に答える。
「ああ、そうだ。お前の言うとおりのものを見ていたのだ。なにか問題でも?」
そう答えてやると、彼は面白くなさそうに
「ふーん、そうか。しかし……」
しばらくの間をおいて言う。
その言葉には、さっきまでとはちがう真剣さがあった。
「あなたは何故?」
突然の態度の変化と質問に戸惑いつつ、さらに間をおいてから答える。
何故、の後に続く言葉は、聞かずともわかってしまった。
「今更聞くのか?お前らしくないな。というか、気付いているのだろう?」
何度目かの質問返しをする。
実際、彼は勘が鋭い。説明しなくてもわかったいるはずだった。
「まあ、そうなんだけどさ……。でも、あんたがってのが気になるんだよ」
彼は半分は納得している。しかしもう半分は、というように言ってくる。
そういうことか。
確かに、私のしたことは納得できないだろう。
他のものとは比べられないほどの大きな存在である私が、あんなことをしたのなら。
「あいつは、『恋をすると人は変わる』とか言っていたが、関係あるのではないかな」
微笑みながらそういうと、それ以上は何も聞いてこなかった。
ま、色恋もほどほどにな。そういってその場を去っていった。
背中に普通とは違う、輝きのあるものを見せながら。
彼が完全に去ってから思う。
「確かに変わったかもしれないな、私は。あいつと、出会ったことで」



これも、神が定めた大いなる運命か。




*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・


「だいぶ、暖かくなってきたかな」
そうつぶやくと、隣にいる少女は柔らかな声で答えてくれる。
「そだね」
短い答えだったけど、気持ちは篭っていた。
今、ボクがいるのは桜の木の前。
ほんのりと桜色に色づき始めた枝を眺めながらひしひしと感じる春の到来。
まだツボミではあったけれど、それでも綺麗な春の色を振りまいていた。
校門まで続く桜並木を並んで歩く。
軽く髪を撫でるように流れる風を感じたり、
どことなく甘い香りのする空気を大きくすってみたり。
そんなことをしながら歩いていた。
ふと、隣の背の小さい女の子に声をかける。
小さい、というと怒るのだけれど。
「どう?茜は新しいクラスには慣れそう?」
そう聞くと、少女は明るく、でも拗ねたように答えてくれた。
「もうっ、子供じゃないんだから。大丈夫だよ」
時は3月。
先輩達は卒業し、再来週からは自分達が最高学年となる。そんな時期。
4月にはクラス替えがあり、今まで一緒じゃなかった仲間なんかとも話す機会が出来る。
しかし、周りが初めましてばかりだったり、親しかった友人が離れたりすると
少し寂しいものだ。
そんな心配をして、聞いてみたんだけど、必要なかったみたいだ。
そっか、という返事を返して歩き続ける。
卒業式はとっくに終わり、春休みは始まっているのだが
今日は茜の部活動の付き添いで学校まで来ている。
茜は美術部所属で主に風景画を描いている。
別に春休みに部活に来る必要はないらしいのだけど
花開く前の桜がどうしても描きたいということでここまで来た。
茜は春夏秋冬の桜を書いているそうで
満開だったり、散る姿だったり、緑の葉をつける頃だったり、枯れたように寂しい姿だったり
桜の全てを描ききりたいのだそうだ。
ボクは絵はおろか、すべての事に関して不器用だけど、見ているのなんかは好きだった。
特に茜の絵は暖かいというかなんと言うか。
兎に角、茜の絵が好きなのだ。
そんなことを考えているうちに学校へ到着。
別に授業があるわけではないので美術室へ直行。
茜はすぐに画材道具を引っ張り出してきて、慣れた手つきでパタパタと組み立てていく。
道具の名前なんかは知らないので、絵を立てかけるやつ、とかしか説明できない。
茜はパレットを開き、絵の具を取り出し、パレットに少量ずつ、たくさんの色を出していく。
下書きは既に終わり、桜の幹のところは既に少しだけ彩色がされていた。
パレットの中の色をいくつか混ぜ、茶色や桃色を作り、筆を変えながら色を付けていく。
どれもとても薄く、なんどもなんども重ねながら描いていた。
その薄さが、桜の淡さを惹きたててもいた。
ちなみに茜が描いている桜の景色の周りにはイチョウもあり、季節によって色付きが変わるため、
飽きる事の無い風景となっている。
もちろんまだ緑色のイチョウだが、それもオプションとして桜の周りに描かれていた。
桜の木、イチョウの木、小さな茂み、レンガの中庭通路。
それそれが実際とは少し違う、しかしバランスよくデフォルメされて
やわらかく描かれている。
というか、絵も綺麗なんだけどそんな絵を描いている少女、というのもずいぶんな画になっていた。
ボクに画力があったなら、その風景を描いていた事だろう。
こんな自分に好意を抱いてくれた、麗しい少女を。
「うんっ。ねぇ、出来たよ。見て、ユウくん」
指と頬を少し絵の具で汚しながら、微笑んでいる。

まさに、天使。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・




ボクは、ひとり夜道を歩く。
茜と別れ、自分の家に帰るための道を辿っているところ。
「ふぅ、まだ夜は冷えるかな……」
寒い、というほどでも無いが、少しだけ冷える。
吐く息も、微かに白くまだ冬の色を残していた。
暦の上でも、とっくのとうに春だというのに。
桜も今にも咲きそうな状態。
きっともうすぐ、満開の桜が見れるんだろう。
そのときは、誰かと花見でも行きたいな。
なんか、流れで茜と行きそうな気もするけど。
……それにしても、あの絵は綺麗だった。
描き始めるときは殆ど色もついていない状態だったのに、茜はものすごい速さで描き終えてしまった。
速くても、とても丁寧に描かれていたけれど。
桜メインの風景画。
イチョウなんかを背景にして、ツボミなのにドンと構える大きな桜。
満開のときのような派手さも、枯れたときの儚さも無いけれど
その中間、だからこその美しさが表れていた。
えっと、絵の事は良くわからないから個人意見だけど。
ボクは、何度も何度もあの絵の事を思い浮かべながら、家路を辿っていた。
そんなことを考えているせいか、歩幅が短くなり本来の帰宅までにかかる時間を大きく越えていた。
「おおっと、いけないいけない。さっさと帰らないと」
ボクは気を入れなおして歩く速度をグンとあげた。
2分で、元に戻った。
「はあ、ダメだな、ボク」
ため息をつきつつ、とりあえずできるだけ早く足を動かす。
やっぱり頭は絵の事ばかりだったけど、時間をかけて、家に帰った。
家の玄関を開けると、ちょうど妹が階段を上がるところだった。
「あ、兄。おかえり。じゃね」
それだけいって、そそくさと行ってしまった。
階段を上がる音が、すこし早かった気がする。
そんな妹のそっけなさに苦笑しつつ、喉が渇いていたのでリビングへ向かう。
廊下とリビングをしきるドアを開けるとソファーに座ってタバコを吸いながらテレビを見ている父さんがいた。
「ん?ああ、おかえり。悪いな、夕飯は先に食べたぞ」
そういってリモコンに手をのばし、ピッピッとチャンネルを変えだした。
妹と同じで、少しそっけない父親だ、と毎度毎度の事を思いながらキッチンへ。
キッチンには、夕飯の後片付けをする母さんがいた。
あっ、っと言ってエプロンで皿洗いでぬれた手を拭いてから
「おかえりなさい、ユウ。お水?待ってて、コップを……」
そういうと、伏せてあった洗ったばっかりのコップを渡してくれた。
母さんは父さんや妹と違い、やさしい。
別に父さんたちが優しくないわけではないんだけど。
このことから、周りの人たちには
妹が父親似、ボクが母親似と言われることが多い。
「ありがと。でも、これくらい自分でやるって」
ボクはそういいながら冷蔵庫の扉を空け、中にあるミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
よく使うので蓋はしていない。そのままドバドバとコップに水を注ぎ、
ペットボトルを持ったまま水を一気に飲む。
渇いていた喉に染み渡るうるおいが快感だった。
「ご飯残ってる?」
冷蔵庫にミネラルウォーターをしまい、コップを母さんに渡しながらそう聞くと、母さんはすぐに答えてくれる。
「ええ、ちゃんと残してあるわよ。冷蔵庫の中、上の方」
言われて改めて冷蔵庫を開く。
さっきはミネラルウォーターに気を取られ、気付かなかったけど
確かに茶碗に入った白米と、平らな皿に乗ったいくつかのおかずがあった。
「ん、ありがと。いただきます」
そのふたつを取り出して、ラップはかけてあるのでそのままレンジへ。
2分ほど温めてから食べた。
食べてから、二階の部屋に戻る。
すぐに学校から出ていた少な目の課題をやり始める。
少しだけ進めたところで終わりにして、
テレビを見て、風呂に入って、寝巻きに着替え、またテレビを見て。
しばらくそうしていると、瞼が重くなってきたのでテレビを消して、今の時間を確認して、
台所に下りていき、いっぱいの水を飲んで、ボクは就寝した。

…………

朝起きると、空は眩しいほどに晴れていた。
「ん~、はぁ。良い朝かも」
そんなことを言いつつ、布団から起き上がり、タンスの中の服に着替える。
特に予定はないけど、とりあえず出かけようの服を選ぶのがボクの癖。
着替えが終わると、タイミングよく、部屋のドアがコンコンと音を立てた。
「兄、いる?……よね。開けて良い?」
妹だ。
あまり朝早くにボクのところに来るのは珍しかったので、少し疑問に思いつつドアを開ける。
「どしたの?朝早くに」
そう言うと、妹は
「これ、前に借りて、そのままだったから」
言いながら一冊の本を突き出してきた。
それはいつか妹に貸した本で、海の写真集だった。
なにに興味を持ったのか貸してくれといってきたので貸したものだった。
「ん、ああ。ありがと、蘭」
貸したほうなのにお礼をいってしまうボク。
そんなボクの発言に妹、蘭は
「な、なんでそんなことでお礼されなきゃいけないの?」
顔をすこし赤くしてあわてたような様子で言い、駆け足で階段を下りていった。
「……はは」
ボクはそんな蘭の様子がおかしくてちょっとだけ笑う。
とりあえず、このまま部屋にいてもやることは特にない。
一度だけあくびをしてから、リビングへ降りることにする。
「今日は、どうしようかな」
そうつぶやいたところで、階段を降り終えた。
「あら、おはよう。ユウ、ご飯は食べるんでしょ?」
ボクの姿を見つけた母さんが言う。
もちろん食べるつもりだし、食べないで持つほど丈夫な体でもない。
「うん、食べる。できてるよね?」
質問に質問で返す。
これがいつものやり取りなのだ。
「ええ、今さっきね。ちょうど良いわ。みんなで食べましょう」
そういうと父さんに声をかけ、ボクは廊下にいた蘭に声をかける。
ちなみに朝食のメニューはいたってシンプル。
白いホッカホカのご飯。
湯気を立てる味噌汁。
良い具合に焦げ目のついた鮭。
父さんのところにだけ、鰹節の乗った豆腐。
妹のところにだけ器に割られた卵がひとつ分。
母さんのところにだけタレとからしが載せられてまだ混ぜてはいない納豆。
ボクのところにだけ切って砂糖が振り掛けられたトマト。
家族それぞれ特別なおかずがあるんだ。
ボクはそれを黙々と、でも時々母さんと話しながら箸を進めた。

食後にいっぱいの麦茶を飲んでから
自分の部屋に一回戻る。
もしこれから出かけるようなら何か買う予定のあるものでもないか確認するためと
出かけないようならそのまますこし休もうと思ったから。
部屋について、なんとなくで出かけるかどうかは決める。
……で、部屋について決めた。
特に予定もないし買うものもないけれど
フラフラっと外に出てみることにした。
予定も、買うものも、バイトもないけど
だからって家に閉じこもってるのはよくない。
財布やハンカチ、ティッシュなんかを小さめのバッグに入れる。
小学生みたいだけど、これが小さいころからの習慣だ。
必要になるかも、と思うものはとりあえず持っていくことにしている。
最後に、バイト代と小遣いをコツコツ溜めて買った、オーディオを持っていく。
専用のイヤホンを耳につけ、電源を入れて曲を選択して聞く。
そのまま母さんに出かけてくる、と言って靴を履き、家を出た。
さて、どこへ向かおうかと考えているときに
聞いていた曲が終わり次の曲に変わる。
その曲は最近人気が出てきた新人のグループの最初のシングルで
一応オリコンなんかでも上位にランクインしたもので
ボクも良い曲だと思ったので入れておいたんだ。
そして、先週そのグループが新しいアルバムを出したことに気づいた。
さっきあれだけ考えていたのに気づかないなんて。
帰るだけのお金は持ってきたのでそれを買うことにした。
何の予定もないままブラブラしてるよりは良い。
できた予定は早めに済ます。
そう決めて、駅前のなかなか品揃えの良いCDショップに向かうことにした。
近くにあったバス停からのり、駅前へ。
徒歩で数分で到着する。
店の中に入り、目当てのCDを探し、見つけ、買う。
せっかくここまできたのだから何か探していこう。
ということでボクはDVDコーナーや雑誌などのコーナーへと行ってみた。
……思い付きとはすごいもんだ。
DVDコーナーでは前に映画館で見て、結構気に入った映画のDVDが発売されていた。
そして運良く割引券を持ち合わせていて、すこし安く買うことができた。
雑誌のコーナーでは
毎月購読する音楽関係の雑誌が発売されているのに気づき
その他にもなかなか詳しく音楽情報が載っている雑誌も見つけた。
自分の行動そのものに驚きつつ
今度は古着専門店に入る。
ここは何度か利用していて、品揃えもなかなかで
古着とは思えないものもいくつか置いてあった。
今回もそうやって良いのがないか探していると
意外と見つかるもんだ。
白いシャツで背中にすこしおかしな、幾何学模様とでも言うのか
そんな感じの模様が描かれていた。
前の左胸の部分にも似たような小さ目の模様が描かれていた。
なんとなく取ったそれが変に気に入ったボクは買うことにした。
ついでに黒の長袖でポケットがいくつもあり、右足のサイドに紐がついているズボンも。
CD、DVD、雑誌が入っていて服すらもさすがに入らなくなってきたので手持ちの紙袋に入れてもらう。
これで随分欲しいと思っていたものは買えた。
単なる気まぐれだったけど、結果的に得をした。
それなりの満足感を感じながらボクは昼になりつつある空の下の街を歩いていた。
春の近づいてきている眩しい空を時々見上げながら
目的もなしにブラブラと歩く。
途中、喫茶店に入ってコーヒーを飲む。
そのまま喫茶店でのんびりしてからまた街を歩く。
また、青い空を時々眺めながら歩いていると。
ヒュッ。
ふと、目の前を何かが通り過ぎる。
白い、何かだった。
同時に甲高い音も聞こえた。
ボクの右下から左上へ。
特に気になったわけではないけれど
つられて目で追ってしまっただけ。
そして。
目をやった先には、太陽があった。
昼まっさかり、その燃える星のギラギラと輝く光を、ボクは直視してしまう。
「うっ」
反射的に腕が顔を覆い、
思わず立ちどまり、目を瞑る。
春の太陽の割りに意外な眩しさに驚きつつ、目をこする。
といってもそんなに大げさなことではないので
すぐに目は開く。
でも。
太陽の光で白くなっていた視界はまったく元に戻らなかった。
目の前に「別の」白い、何かが広がっていたから。
「あれ、なんだこれ……」
目の前にあるものの意味がわからず頭の中がハテナでいっぱいになる。
本当の本当に、目の前にあるものの意味がわからなかった。
ますます疑問が広がって行くなかで、小さな声が聞こえた。
「ふむ。状況判断能力はこんなものか。器は良いのだがな……」
女の子の声だった。
女の子らしくない台詞だったけど、声は高めで幼さを残していた。
そして、その声が終わると同時に
目の前の白いものが動いた。
そして、やっとのことで周りの状況が把握できた。
ボクの右斜め前に、一人の少女が立っていた。
白い髪に、丸い線以外白い眼、白い肌。
白いYシャツに、白いスカート、白い靴、白く塗られた爪。
白いビーズが連なってできた白いブレスレット。
何もかも白で埋め尽くされた少女。
そして、白いものは、まだ在った。
たぶん、さっきまで視界を埋めていたもの。
白、純白、白銀。どれであらわして良いのかわからないほどに、汚れのない白。
微かに輝くそれは、確かにそこにあった。
少女の後ろ。いや、裏側、という表現が良いかもしれない。それは、生えていた。
二枚一対からなる、紛れもない真っ白な翼。
鳥のものとは思えないそれは、間違いなく少女の背中から伸びていた。
全身が白で彩られる少女。
ひときわ目立つ翼を背に持つその少女は
もちろん、人間には見えなかった。いや、外見は人間だ。
しかし、背中から翼が伸びている、という異形から、人間だとは認識できない。
とりあえず、混乱する頭で導き出した、というより咄嗟に思いついたのだが
ボクは、目の前のものを見つめる。
間違いない。思いついたものとどうにもこうにも一致してしまう姿なのだから。



少女はまさしく、純白の天使だった。



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あとがき

どうも、エネルスです。

えー、今回の話は、前々回や前回と違い、非日常ストーリーです。

もう天使とか出てきます。

一話「Lucifer」の冒頭の天使の話が絡んできます。

この作品は全体で七話構成になる予定です。

一話、二話が「人間編」

今回の三話と次の四話が「天使編」

その次の五話と六話が「悪魔編」

最後に七話が「統合編」

となります。あくまで予定です。

まあ、なんか途中で折れてしまいそうな作品ですが

がんばって書き続けていきますので。

そのときはできれば読んで見てください。

ちなみに、大幅な調整中ですが

書き途中の別作品も存在していますので

そちらもよろしくお願いいたします。

エネルスでした。



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