Busters-EN BLOG

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遊☆戯☆王 『記憶は鎖のように』 閑話


「――――を召喚して、攻撃! 俺の勝ちだ!!」
 清が、一体のモンスターを召喚し、ダイレクトアタックを決める。
「負けたぁ」
 デュエル相手の少年がガックリと肩を落とす。
「すごい引きだったね」
 モンスターカードを、それも攻撃力1800以上のモンスターを引かなければ負けていたと言う状況で。
「みたか、俺の奇跡のドロー!」
 清は、見事に『ヂェミナイ・エルフ』を引き当てた。攻撃力1900。引くべきカードそのものだった。
「モンスターカードの多いデッキでしょう? 攻撃力はともかく、引けなくはないわよ」
 美咲があまり調子に乗らないように、と付け足す。清の今のデッキはモンスターカードの多いデッキ。特殊能力を使い、相手モンスターを破壊したり、魔法とのコンボで相手ライフを削ったり。汎用性の高い構成となっている。
「いいじゃねぇか。それもデュエリストの腕のうちだって」
 清はそういいつつ、デュエルを終了したあとのデッキをシャッフルする。入念にシャッフルした後、一番上のカードをめくる。
「うら、どうだ!」
 めくったカードをそのまま葵と美咲に向ける。そのカードはモンスターカードで、間違いなく清のデッキで最高の攻撃力を誇っていた。
「あら、すごいわね。積み込み?」
「わぁ、すごいねっ、仕込みでも?」
 笑顔でさらっと酷いことをいう。
「るせぇぇぇぇっ!」
 清は、随分とやっかいな性格の女に好意を持たれてしまったものだと、数十回目の後悔をするのだった。




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「また、同じ夢……」
 少年が、つぶやきながら目を覚ます。
 今まで同じような内容の夢を幾度見てきただろう。いつも、二人の少女と一緒にいる夢だった。そしていつも、何かで遊んでいたような気がする。
「んぁ」
 ゆっくりと体を起こす。ベッドの上だ。少年は自分のいる場所を確認する。
「……」
 自分の部屋だ、間違いない。そして夜だ、暗い。
 目が暗さに慣れていない。起きたばかりだから当然だが、部屋の奥までは見えなかった。
「楽しかったな」
 なんとなしに、夢のことを思い出す。楽しかった。何かを夢中でプレイする自分は、笑っていたように思う。
 少女の一人も、笑っていた。自分の手を引いて、自分は連れまわされていた。
 もう一人の少女は、微笑んでいた。上品で、爽やかだったと思う。
 二人とも可愛かった。活発で元気な少女と、気品のある静かな少女。
「……ああ」
 わざわざ起こした体を、再びベッドへと倒す。ついでに、腹の辺りにあった掛け布団も手繰り寄せる。
「ああ」
 右腕で目を覆う。頭が痛かった。今現在も薄れていく夢の記憶をつなぎとめようとしているからだろうか。
 それが随分と、馬鹿げたことのように感じられた。

 夢と呼ばれるものを、よく見ていた。
 起きてしまえば内容はほとんど忘れてしまった。
 でも、それがとてつもなく、
 これ以上ないほど楽しいものだということは覚えていた。

 いつも、二人の少女と一緒にいる夢だった。
 そしていつも、何かで遊んでいたよな気がする。

 大好きだった。
 二人の少女も、夢の楽しさも。
 遊んでいたはずの、何かも。

 二人の少女の名前と、何で遊んでいたのかは、まったく思い出せなかった。
「ああっ」
 両手で顔を覆う。叫びと同時に、再び体を起こす。
「うわぁぁっ」
 体を丸めて、喘いだ。手には、水分らしきものが感じられた。それを、止める術は知らなかった。
「あぐっ……ぅぅ」
 喉の奥から何かが這い出てくる。蛇か蜥蜴か。爬虫類の類であろうそれが、喉の奥から皮膚を食い破るように激しく暴れて這い出てこようとする。
「……ごっ」
 それを出してはいけない。吐いてはいけない。きっと、何かを失うから。
 でも、この激しい吐き気は、耐えられるようなレベルのものではない。
 常人なら、いや常人でなくとも。この嘔吐感が堪えられるわけがない。堪えられるというのなら、変わってほしい。
 もう、ダメだと諦める。
「がはっ!」
 そう心の隅にでも思った途端、出るところまで出掛かっていたすべてを吐き出してしまう。
「げほっ、ごほっ、ぐっ、ぉ」
 安心した。もう、苦しまなくていい。
 不安だった。また、ぶり返すんじゃないのか。
 解放された。気持ち悪さが晴れていく。
 縛られている。体に蛇が巻き付いているような感覚がした。
「あ、あは。あはは。く、くはっ」
 笑みが零れた。
 信じられないのは自分自身。
 気色が悪い。この状況で笑みなど零している。


























 唐突に視界が真っ白になる。


























「あれ、何やってんだろ」
 少年は、さっき見ていた夢のことも。
 自分が激しい嘔吐感に襲われていたことも。
 気味悪く微笑んでいたことも。
「どこだよここ」
 何もかも。
 自分のことでさえ、綺麗さっぱり忘れ去っていた。
 そして、声が聞こえた。
「おはよう、清くん。朝だよ、起きて」



 つまるところ、清という少年には記憶障害があったりする。



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