Busters-EN BLOG

Busters-EN BLOG

遊☆戯☆王 『記憶は鎖のように』 3




「遊戯ぃー!」
 背の低い少年が、声のした方へと視線を向ける。
 二人の少年が、こちらへと走ってきていた。
「城之内くん、本田くん」
 駆け寄ってきた二人を笑顔で迎える遊戯。
 城之内も本田も、よっ、と片手を挙げて挨拶をする。
「やっぱり城之内くんも参加するの? 例のデュエル大会」
 あってすぐ話題に出るのがデュエルモンスターズの話題である。もっとも彼らにとっては普通といって言いものであるが。
「ああ、ったりめぇよっ。今日のためにデッキを組みなおしてきたんだからな!」
 意気込んでかばんの中からご丁寧に決闘盤とデッキを取り出す城之内。
 本田がかばんの中身を盗み見るが、他には弁当箱以外入っていなかった。
「お前、相変わらずなのな……」
 本田が呆れた様子で言うと、城之内が怒ったように言い返す。
「んだとぉ。俺の命に文句あんのかよ」
 勇ましく決闘盤を腕にはめデッキをセットする。今はまったく意味のない行為だが、熱意はしっかりと伝わってきた。
「でも城之内くん、今日はトーナメントの組み合わせを抽選するだけで試合はないみたいだけど……」
 遊戯が控えめに言う。それを聞いた城之内は驚いた様子で、明らかに動揺する。
「え、そうなの?」
 その言葉に額を右手で押さえる本田。お前ってやつは、と小さくため息とともにつぶやいた。
「あ、でも。一応、たくさんの決闘者は集まるし、本番前の腕鳴らしって感じでデュエルできるかも」
 遊戯がそういうと、城之内は安心したように胸をなでおろす。
 城之内は自分の腕に嵌められた決闘盤を見る。
「この大会のために組んだデッキ。遊戯、お前にだって負けるつもりはないぜ!」
 自身に溢れたその言葉に反応するのは遊戯ではなく、彼の中にいるもう一人の人格だった。
 ほんの少しだけ遊戯の胸に下げられたペンダントが輝く。
 淡い光が収まると、遊戯の表情が凛々しいものへと変化する。
「ああ。オレも全力で勝負させてもらうぜ、城之内くん!」
 ベルトのホルダーから自身のデッキを取り出し勇ましく構える遊戯。
 武藤遊戯の中に、いや胸に下げられた『千年パズル』の中にいるもう一人の存在である遊戯。
「うっしゃ、とりあえず抽選が終わったらそこらのやつとデュエルだぜ!」
 会場へと向かう城之内。
『城之内くん、元気だね』
 遊戯の心の中で二人が会話する。
「ああ。相棒、今回の大会は、城之内くんだけじゃない、他のデュエリストにだって足元を掬われるかもな」
 今回の大会は海馬コーポレーションやインダストリアルイリュージョン社によるほどの規模の大きな大会でない。
『うん。数多くのデュエリストが集まる大会だもの。強い人たちが大勢いるはずだよ』
 だが、デュエルモンスターズを専門として扱うほどの企業主催による大会であり、規模は小さいとは言えないもの。
「さぁ、行こうぜ相棒」
『うん!』
 城之内を追っていった本田に続くように、二人の遊戯は手をつなぐような信頼と共に会場へ向かう。




    *



「今回の大会へご参加いただき、誠にありがとうございます」
 司会者らしい人物が挨拶を始める。
「今日はトーナメントの組み合わせの抽選会のみとなりますが、店内のデュエルスペースを開放いたしますので、抽選会が終わり次第、決

闘者の方々は存分にお楽しみください」
 集まった数十名の決闘者たちが歓声をあげる。みな、デュエルがしたくてたまらないといった様子だった。
「また、カードパックの販売もいたします。後日の大会へ向け、デッキを強化なさってください」
 再びの歓声。
「カードパックだって城之内くん」
 再び人格を戻した遊戯が言う。
「おう。これでデッキがますます強くなるぜ!」
 ガッツポーズをする城之内。
 周りを見ればほとんどの決闘者たちが自身のデッキを確認している。
 今日は大会本番でないとはいえ、考えることは同じのようだ。
「僕も欲しいカードがあるんだよね。売ってるかなあのパック」
 遊戯がつぶやく様に言うと、心の中でもう一人の遊戯が答える。
『相棒』
 短く言うもう一人の遊戯。
「え? どうしたのもう一人の僕?」
 頭に浮かべていたカードリストを振り払って心の中へと意識を向ける。
『今回の大会はオレと相棒のどっちがデュエルするんだ?』
 期待するような、不安なような顔をするもう一人の遊戯。
「それって、城之内くんとかとあたったらって意味だよね? 僕はどっちでもいいんだけど……」
 遊戯は二人とも、城之内たちと闘いたく、また二人とも城之内たちと闘ってもらいたい。
 かなわぬ願い。二人が同一の体に存在する以上、解決できない問題。
「本選はマッチとかじゃないし……文句なしの一回勝負。勝負できるのは一回限り……」
 いつもなら、何回でも勝負できるのだ。
『オレはいいんだぜ、相棒。城之内くんたちとなら今回だけがチャンスじゃないしな』
 表の遊戯は裏の遊戯の表情を見て思う。
 彼は本当に素直じゃないと。
 そしてその顔を見て、表の遊戯は覚悟を決める。
「……もうひとりの僕」
 静かに言う。悩んでいても仕方ない。
「楽しもう?」
 その言葉に、裏の遊戯がハッとした表情になる。
『ああ』
 だが、すぐに表情は微笑みへと移り変わる。
「うん!」
 いつ、城之内と当たるかはわからない。
 その前に、自分たちが敗北する可能性だって0ではない。
 そんな可能性は考えるのに、城之内たち友人が敗北することは考えない。
 自分と闘いたいといってくれたことを誇りに思い、また深く感謝し、そして全力で応える。
 ただ、自分はくる運命に身を任せる。
 そう決めた。
(君が還る、そのときまで)
 少年たちの小さな闘いが幕をあげる。
 武藤遊戯。
 城之内克也。
 彼らに挑戦するために集う、数多くのデュエリスト。

 そして――――










* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: