Busters-EN BLOG

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遊☆戯☆王 『記憶は鎖のように』 4






 40の可能性は、幾十の選択肢を作り出す。
 辿る道に同じものはなく。また障害となる壁にも同じものはない。

 必勝などと言うものはない。だが必敗などと言う言葉もありはせず。

 例え思うように進めなくとも。例え越え難い苦痛にぶつかったとしても。

 応えてくれると信じれば。そうさせられると思いさえすれば。
 奇跡の光は輝く。誰しも届くことができる。

 届かないものに、人は希望は抱かない。

 未来を信じろ。己を信じろ。

 すべてを、信じ尽くせ。

「恐れても、恐れても、恐れても。変わらないのなら、信じるしかないじゃないか」








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 とある日、デュエルを申し込まれた清は挑戦を受け、まるでやる気のないプレイングをし、敗北した。

 清は、空っぽだった。
 昔、あれほど強かったデュエルへの激しい熱意も、消え去っている。

 完全に舐められたと思った男は激情し、清へと殴りかかる。
 清は逃げも避けも抵抗もしなかった。
 カードが散らばる。男によって踏みつけられる。

 清は、空っぽだった。
 本当に、空っぽだった。

「見つからないんだ……」
 何度繰り返してもわからなかった。
 所持していたいくつかのデッキでデュエルしてみた。
 何も思い出せなかった。

 清の頬に激痛が走る。痛みに顔を顰めつつも、胸にあるのは一つだけ。
 漠然としかつかめない、大きな大きな空虚感。

 どんなに頑張っても、何も思い出せない。
 あるいは、思い出したくなかったのだろうか。





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 童美野町、デュエルトーナメント当日。
「いくぜ! オレは『ブラック・マジシャン』を攻撃表示で召喚!」

 『ブラック・マジシャン』 闇 ★★★★★★★
  魔法使い族/
 魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。
 ATK/2500 DEF/2100

 裏の遊戯の場に黒衣の魔術師が現れる。
 魔術師は主へと振り替えり、微笑む。
 裏の遊戯は絶大な信頼を感じ、微笑み返す。
「『ブラック・マジシャン』と『ブラック・マジシャン・ガール』で攻撃!」

 『ブラック・マジシャン・ガール』 闇 ★★★★★★
  魔法使い族/効果
 自分と相手の墓地にある「ブラック・マジシャン」と「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数だけ、攻撃力が300ポイントアップする。
 ATK/2000 DEF/1700

 師弟とされる二人の魔術師が二つの杖を合わせて、莫大な黒いエネルギーを放出する。
 総攻撃力4500の黒魔導は遊戯と対峙するプレイヤーのライフを一瞬で0とした。
「これでオレの勝ちだぜ!」
 遊戯のガッツポーズ。それと共に、フィールドに現れていたソリッドビジョンが静かに消え去る。
「やったな遊戯!」
 城之内と本田が駆け寄る。
 3人は和気藹々とした様子で話し合う。
「Aブロック第一回戦、武藤遊戯VS月見里夕は、武藤遊戯の勝利です!!」
 司会者が高らかに宣言する。
「くっそぉっ、やっぱ決闘王になんて無茶すぎるっての!!」
 遊戯に敗北したデュエリスト、夕が身をかがめて悔しがる。確かに、彼に問わず多くのデュエリストにとってトーナメントで遊戯にあたると言うのは酷と言うものだった。
「でも、楽しいデュエルでした! 遊戯さんとデュエルできて、光栄です!」
 夕が遊戯に手を差し伸べる。
 握手の合図であるそれに、遊戯は快く応えた。
「ああ。オレも楽しかった。最高だったぜ」
 固く交わされる握手。
 夕はその行為に感激したように、手を離した後に彼の後ろにいた彼の連れらしき人たちへと向き直り、叫ぶ。
「うぉぉー!! 遊戯さんと闘えたぞー!! みたか、みたよな? 『ブラック・マジシャン』と『ブラック・マジシャン・ガール』だぜ!?」
 夕は高揚した様子。後ろにいた友人らしき者たちも同じような様子でいる。
「すごかったな、さすがに遊戯さんだ」
 対戦していた少年にに短髪の友人が声を掛ける。
「オレ、遊戯さんの『ブラック・マジシャン』初めて見た!」
 背の低い少年が嬉々として叫んだ。
「モンスターの展開力、魔法カードのコンボ、罠の発動タイミング。どれも一品だ」
 メガネを掛けた知的そうな少年が先ほどのデュエルを振り返る。
「ちょっと引きが良すぎる気もするけど……」
 という一人の少年の発言に、
「そ れ は 言 っ ち ゃ ダ メ だ」
 意味深に隣の少年が言った。











*



「デュエルトーナメントAブロック、決勝戦進出者決定です!」
 司会者が高らかに言う。
 開催からしばらく、遂に決勝戦の組み合わせが決定しようという頃だった。
「やっぱ、Aブロックは遊戯さんかぁ」
 一回戦で遊戯に敗北した参加者、月見里夕が感慨深く呟く。
 遊戯自身とはこの大会で対戦した以上の面識はないが、かの『決闘王』とデュエルできたことは、一介の決闘者としては胸に込み上げるものがある。
「……」
 そんな夕の横に、寡黙を体現するように佇む少年が一人。
「なぁ、神楽。お前次Bブロックの決勝戦だろ? あと一回勝てれば遊戯さんとデュエルできるぜ?」
 夕がまるで自分のことのように、興奮と期待を露にして言う。
「……まぁ。勝てれば、だけど」
 静かに答える少年。感情らしき感情は感じられないが、僅か、ほんの僅かだけ緊張が混じったような声。
「勝てるって! 一回戦からバンバン勝ち抜いてきたじゃんか!」
 少年の友人としての信頼を持って断言する。
 しかし、少年は自身なさ気に答えた。
「いや、だって。対戦者、城之内さん、だぜ?」
 あ、そうだったと、夕が思い出したように、トーナメントの対戦表に目を向ける。
 そこには、Aブロックを制覇した、トーナメント表の頂点まで赤いラインが伸び、その先にある遊戯と、先ほどエスパー呂場を打ち破り、Bブロック決勝へと勝ち進んだ城之内の名前があった。
「バトルシティでもベスト4に入った人だもんな……デッキは運任せのギャンブルデッキっぽいけど」
 確かに、城之内のデッキはいまだ変わらず、強運が物をいう一発勝負のカードが多い。
「でも、勝ち上がってきてる。ここぞって場面では、絶対に外さない」
 それこそが城之内という決闘者の最大の強みであり、またどんな不利な状況でも気合でひっくり返すという勝負強さが際立っていた。
「うーん、そうなると確かにわからないなぁ」
 夕が若干落ち込んだように俯く。
 城之内の決闘者としての強さは無視できるようなものではない。
「それになんだか、もっと別の『強さ』を感じるんだよなぁ」
 夕が知らずして、城之内の心を察する。
「……」
 城之内は確かに強敵だ。しかし、対戦者となった以上は全力で向かうだけ。
「行ってくるよ」
 少年――神楽清は、やはり静かにデュエルの舞台へと向かっていく。



「よう! 決勝戦の相手はお前か? ここまで来たからには負けられねぇが、お互い全力で勝負しようぜ!」
 城之内が熱い言葉と共に決闘盤を構える。
「はい。よろしく」
 清も、決闘盤を構えた。
 両者の準備完了を確認した司会者が、デュエルの開始を宣言する。
「それでは、Bブロック決勝戦、城之内克也VS神楽清のデュエルを開始いたします!」
 闘いの火蓋が切って落とされる。
「「デュエル!」」
 清と城之内の声が、同時に、ステージ全域へと響いた。


 清   LP4000  手札・5枚

 城之内 LP4000  手札・5枚


「オレの先行! ドロー!」

 ドローカード・人造人間-サイコ・ショッカー

(コイツか……強ぇカードだけど、いきなりは召喚できねぇ)
 城之内のデッキの中で特に信頼するカードの一枚であるサイコ・ショッカー。
 ある決闘者から受け継いだ『魂のカード』であり、友に闘ってきた切り札である。
「オレは『ランドスターの剣士』を攻撃表示で召喚!」
 妖精の戦士が、城之内のフィールドへ現れる。見た目は少し頼りないが、当然真の力を発揮するのはこれからである。
「さらに、リバースカードを2枚セットして、ターンエンドだ!」
 城之内の伏せたカードは『天使のサイコロ』と『悪魔のサイコロ』。
(毎度毎度お世話になってるカードだぜ……!)
 『天使のサイコロ』は『ランドスターの剣士』の攻撃力を上げ、『悪魔のサイコロ』は相手モンスターの攻撃力を下げる。
 城之内お得意の『運任せ』が早速出るかという物だが、馬鹿にできないのが城之内の強運である。まず間違いなく清のモンスターは返り討ちにあるだろう。
「僕のターン。ドロー」

 ドローカード・早すぎた埋葬

「……!!」
 清の表情に驚愕の色が現れる。
 城之内もそれを見逃しはしなかったものの、
(何だ? 良いカードでも引いたのか。だが、攻撃力の高いモンスターだとしても、サイコロで返り討ちだぜ)
 含み笑いを漏らす城之内。
「僕は、『プロミネンス・ドラゴン』を攻撃表示で召喚。さらにカードを一枚セットします」

『プロミネンス・ドラゴン』 炎 ★★★★
  炎族/効果
 自分フィールド上にこのカード以外の炎族モンスターが存在する場合、このカードを攻撃することはできない。
 自分のエンドフェイズ時、このカードは相手ライフに500ポイントダメージを与える。
 ATK/1500 DEF/1000

「バトル! 『プロミネンス・ドラゴン』で『ランドスターの剣士』に攻撃!」
 清の声とともに、体中が炎に包まれた竜が『ランドスターの剣士』へと突撃する。
「そうはさせねぇ! リバースカードオープン『悪魔のサイコロ』。そして、速攻魔法『天使のサイコロ』だ!」
 城之内の場の、伏せられた2枚のカードがオープンする。

 『天使のサイコロ』速攻魔法カード
 自分フィールド上のモンスターを選択する。
 その後、サイコロを一度振り、選択したモンスターの攻撃力を出た目の数だけ倍加する。

 『悪魔のサイコロ』罠カード
 相手フィールド上のモンスターを選択する。
 その後、サイコロを一度振り、選択したモンスターの攻撃力を出た目の数だけ割る。

「まずは『天使のサイコロ』だ!」
 カードから現れた白いキャラクターが、手に抱えた大きな青いサイコロを地面に向かって投げる。
 サイコロはコロコロと転がっていく。
(頼むぜぇ、『プロミネンス・ドラゴン』の攻撃力は1500。4以上が出れば…!)
「くっ……」
 清も、緊張した面持ちで転がるサイコロを見つめる。
 こちらに有利になる目は1か2。3では相打ちになるし、4以上は返り討ちだ。
 そして、サイコロがとまる。
「頼むっ」
 出た目は――4。
「うおっしゃぁ! これで『ランドスターの剣士』の攻撃力は2000! 続いて『悪魔のサイコロ』だ!」

 『ランドスターの剣士』攻撃力500→2000

 青いサイコロが消え、次に、赤いサイコロを持った黒いキャラクターが現われる。
 同じように振られたサイコロは、同じように転がり、そして――
 まったく願ってもいない、最悪の目を出した。
「うげぇっ、1かよ!?」
 城之内の運勢は『良い事の後には悪いことがある』の法則に逆らえないらしい。

 『プロミネンス・ドラゴン』攻撃力1500→1500

「くそっ、だが『ランドスターの剣士』の攻撃力が上なのは変わらねぇ、迎え撃て!」
 愛らしい姿から、若干逞しい体つきとなった『ランドスターの剣士』が、向かってきた敵モンスターをその剣でなぎ払う。
 清のモンスターは、簡単に破られた。
「あぁっ」

 清 LP4000→3500

「よっしゃ、『プロミネンス・ドラゴン』撃破!」
 城之内が固くガッツポーズをする。
 ライフポイントに大きな減少はないものの、城之内の場には攻撃力2000のモンスターが残ることとなった。
「……」
 だが。
「ん?」
 清の表情を見た城之内が、はて、と首を傾げる。
 何故かと言えば、
「僕の勝ちです」
 清が、笑っているからである。
「なっ……!?」
「僕は手札より、『早すぎた埋葬』を発動。ライフを800ポイント払います」

 清 LP3500→2700

「墓地より、『プロミネンス・ドラゴン』を蘇生。そしてさらに、速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動!」

 『地獄の暴走召喚』速攻魔法カード
 相手フィールド上に表側表示モンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体の特殊召喚に成功したときに発動することができる。
 その特殊召喚したモンスターと同名カードを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。
 相手は相手フィールド上のモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名カードを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

「このカードの効果により、デッキから『プロミネンス・ドラゴン』を全て攻撃表示で特殊召喚します。城之内さんも、『ランドスターの剣士』を特殊召喚できますけど、同じカード、ありますか?」
 清の場に、同じモンスターが3体並ぶ。城之内は倒したばかりのモンスターがいきなり3体も出揃ったことに驚き、若干動揺していた。
「え? あ、いや、ねぇけど……」
 問われた城之内が不意を突かれたように答える
 あいにく城之内は同名カードを複数入れることはない。今回は、それが痛いこととなった。
「そうですか。それじゃぁ、僕はターンエンドです。そして、エンドフェイズに『プロミネンス・ドラゴン』の効果発動!」
「なにぃ!?」
 城之内が驚くのも当然である。エンド宣言と同時に、3体のモンスターが攻撃態勢をとったからである。
「『プロミネンス・ドラゴン』はエンドフェイズに相手に500ポイントのダメージを与えます。よって、1500ポイントのダメージです!」
 炎の竜の口から炎弾が城之内目掛けて放たれる。
 場に『ランドスターの剣士』がいても、モンスター効果による攻撃では防げない。
「うおぉっ」

 城之内 LP4000→2500

「これで、僕のターンは終了です」
 清の冷静なエンド宣言。
 城之内は優勢だったつもりが、いきなりライフポイントを逆転されたことに焦る。
 更には、次のターンでモンスターを残しておけば、もう一度同じようにダメージを受けることとなる。
「くそっ、オレのターン! ドロー!」

 ドローカード・鉄の騎士 ギア・フリード

「オレは『鉄の騎士 ギア・フリード』を攻撃表示で召喚! 2体で『プロミネンス・ドラゴン』を功げ……」
「ちなみに、『プロミネンス・ドラゴン』はこのカード以外に炎族モンスターがいる場合、攻撃対象にできません」
「え?」
「そして、『プロミネンス・ドラゴン』は炎族です。この意味、わかりますよね?」
「えーと。つまり」
「はい。戦闘では破壊できません」
 城之内、絶句。
 それもそうだ。倒さなければいけないモンスターが戦闘では破壊できないのだ。
 ちらりと、自分の手札だというのに盗み見るようにして手札を確認する城之内。

 城之内・手札 人造人間-サイコ・ショッカー 魔導騎士ギルティア 稲妻の剣

(何にもねぇっ!!)
 相手が上級モンスターを召喚しても、サイコ・ショッカーや装備カードでモンスターを強化するなりできたのだが、戦闘によって破壊できないのではどうしようもない。最初のターンで『稲妻の剣』を装備しておくべきだったと後悔するが、それでも少し多くライフを削れたけで終わっていただろう。
「タ、ターンエンドだ」
 がっくりと肩を落とす城之内。
「僕のターン。ドロー。ターンエンド」
 そして、ただただ冷静に告げる清。
「うぐ……ってうおぉぉ!」

 城之内 LP2500→1000

「やっべぇ、次のターンで終わりっっ!?」
 明らかな焦りとともにデッキに指を触れさせる城之内。
 手札に打開する手段が何もない以上、このドローに全てがかかっているわけになるのだが――
「くそっ、オレのターン……」
 まだ始まって3ターン目である。3度目のドローに運命を託すという実に情けない展開になってしまったものの、諦めるつもりは毛頭なかった。
「ドロー!」
 恐る恐る、ドローしたカードを、ゆっくりと瞼を開きながら確認する。
(魔法カード……良かった、モンスターじゃなくて……ええと……)
 諦めるつもりはないものの、正直不安でしょうがないのが本音だった。
 が、男城之内。土壇場の運というものだけは天下一品である。
「……! やったぜ!!」
 城之内の歓喜の声が響く。
 この状況を打開できるかもしれないカードを、今まさに引いたのだった。
(かもしれない、は余計だっつーの)
「何を引いたんですか?」
 清が興味あり気に訊く。
 この状況を覆せるカードを引き当てたというのなら、興味が沸くというものである。
「へへん、行くぜ、これがラスト、当てれば勝ち、外せば負けの大勝負だ!」
 3ターン目がラストというのはやはり情けないが。
「うるせぇ!」
「何も言ってませんけど……」
 いけね、と城之内が肩を竦めて、そして仕切りなおしとばかりに深呼吸をしてから、引いたカードを発動する。
「魔法カード、『スート・オブ・ソード 10』!!」

 『スート・オブ・ソード 10』魔法カード
 コイントスを一回行い以下の効果を適用する。
 ●表:相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。
 ●裏:自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

「なっ!?」
 清が驚愕する。
 まさに一発逆転の大博打。城之内の得意とする、ギャンブル系カードだった。
 その効果は、成功すれば清のモンスターを一掃し、ダイレクトアタックで決着がつき、
 逆に失敗してしまえば、城之内のモンスターは全滅し清のターンで決着がつくというもの。
(そういやぁ)
 と、城之内は思う。
(今の状況だと、あのカードにそっくりだぜ)
 デッキの中に今も組み込まれている、遊戯から貰った大切な最初の『魂のカード』。
(最近はなんか引けなくてつかってやれないけどな……)
 そんなカードを思いつつ、
「運命のコイントスだ。行くぜー!」
 荒野に突き立つ十本の剣が描かれたカードから、一枚の金貨が飛び出す。
 表が出れば勝ち、裏が出れば負けの単純明快さ。
「表だ! 表っ、表ぇぇ!!」
 城之内が必死に叫ぶ。
 清は、静かにコインへと視線を注ぐ。
「表ぇぇぇっっ!!」
 そして、コインが運命を決めた。
 結果は――まるで、導かれたかのように――表、だった。
「うぉぉぉぉっしゃぁぁぁぁっ!!!!」
 城之内の絶叫が轟く。
「これでお前のモンスターは全滅だ!」
 フィールド上に、10本の剣が現われる。大小あるそれらのうち、大きい方の5本の剣が、清のフィールドへと降り注ぐ。
 清の場のモンスターは、突き刺さろうとする剣に抗うことはできず、次々と破壊されていった。
「そしてぇっ『ランドスターの剣士』と『ギア・フリード』のダイレクトアタックで決まりだぜ!」
 主の声に従い、2体のモンスターがそれぞれの剣を構える。
 そして、勝負を決めようと走り、だそうとして。
「へっ?」
 城之内の間抜けな声が零れた。

 城之内 LP1000→0

「……あれ?」
 城之内の、敗北の瞬間だった。
「罠カードを、発動させてもらいました」
 清の、やはりあくまでも冷静な声が響く。
「罠っ!?」
 城之内の幾度目かの驚きの声。
「『バックファイア』、炎属性がやられた時に効果を発揮する永続罠カードです」

 『バックファイア』永続罠カード
 自分フィールド上に存在する炎属性モンスターが破壊され墓地へ送られた時、相手ライフに500ポイントダメージを与える。

「破壊されたのは3体。つまり、1500ポイントのダメージで城之内さんの負けというわけです」
 清は、隠しきれない喜びの表情を見せている。
「そ、そんなぁ……」
 つまりは、城之内はすでに敗北が決定していたというわけである。
 モンスターを破壊すれば『バックファイア』の効果により、
 破壊できていなければ、それはそれで次のターンで終わる。
 出来レースだった、という結果なわけであった。
「デュエルトーナメントBブロック、決勝戦進出者決定です!」
 司会者の、無情な宣告が会場に響き渡った。



 続く


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