おばさんが作った死語ブログ。人生いろいろに語ります。

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マルチ商法 (下)



 安いボロアパート、そんな印象の建物の中に入り、先方の部屋にお邪魔すると夫婦揃ってのお出迎えだった。こんな平日の昼間に、熱心な商売だなぁ、とは思ったが、とりあえず、先方の話を聞いた。あいかわらず、退屈な話で、何が頭に残ったかというと「測量士の仕事じゃお金もたまらないし、もう辞めてこの仕事一本でやっていくことにしたんだ。」と自信満々である。
 さて、今度はこちらの番。といっても、おばさんは友人の商売のことはさっぱり説明がつかないので、「そうですか、ではこれから財産がどんどん増えていく、ということですね。それは素晴らしい。では、その財産をもうひとつ、その何百倍かにまたまた増やしてみるのはいかがですか?お金は多ければ多いにこしたことはないですからねぇ、詳しいことはこの友人が説明させていただきますが、うんうん、そうでしょう、どうせ勤めも辞めて、ご商売に力が入るんですから、このいい時期に、どうです?チャンスをつかんでみませんかぁ?」という語り口から、始まり、頃合を見て友人とバトンタッチした。友人はおばさんに追い風をもらったように、滑らかにしゃべりまくり、その夫婦を圧倒した。「・・・別にアタシが出る幕でもないけど。」その時おばさんは思っていた。
 帰る途中で友人に昼食をおごってもらった。ひどく感謝しており、おばさんも何かいいことをしたような気分だった。
 「ところで、アンタのその商売ってどんな商売なの?」と聞いても友人は「お金が儲かる商売なの。すごいんだよ。」というばかりで、商品もこれといって珍しいものでもなく、そこらのスーパーか百貨店でも売っているような印象を受けた。驚いたのはそれらがとんでもなく高額である事、くらいかな。
 この話も何か変だと思いますよね。
 へ?これは「マルチ商法」の典型的な例だって?実はおばさんはこの頃、マルチ商法とかねずみ講とかの知識は全くなく、ただ、友人の言われるままに従っただけなんです。それにそんな典型例をわざわざ自分の日記に書くほど、面白い話じゃないですよねぇ。
 へ?じゃ、何が変だって?
 ・・・そうです。この二人の友人は一言もこのおばさんを誘わなかった、ということなんです。だから、おばさんは被害者にも加害者にもならなかったのに、この世界の中を覗いてしまった、というわけです。あ~、すっきりした。いつか誰かにしゃべりたいと思っていたんだ。

 というわけで、マルチ商法は今も君臨し活動を続けています。この話はもう数十年前のこと。
 この友人たちの今はどうかと言えば、初めの話の友人は、その後離婚し経営していた居酒屋も閉めて、その後の消息はつかめません。次の話の友人は結局、押しの強さも話術もない自分に愛想が付き、今は普通の人です。随分前にばったり、出会ったとき、その後マルチ知識を豊富に習得したおばさんは、はっきり聞いてみました。
 「どう?あの商売で家が建つと思う?」と。友人もきっぱり、「無理だね。」と苦笑いしていました。
 さて、この友人とお邪魔したご夫婦は?というと、今もボロアパートに住み、商売を続けているそうです。

 「商売」というものは基本的には「相手をだまして」成り立つ素因がある。
 おばさんの母親が飲み屋をやっている頃、休業日なのに酔っ払いが玄関を叩くことがよくありました。二階から覗いた母は、「店を開けろ」とわめく常連客に、「今日はお休み。あんたなんかもう来なくてもいいよ。」といなしていました。幼いながらも母に心配して聞きました。「そんなこと言っていいの?」母は笑っていつも答えました。「こう言うと余計に来たくなるものなのよ。」
 常連さんは千鳥足で「こんな店二度と来てやるもんかぁ・・・」と道路の真ん中を歩いて行く。
 ・・・・不思議な大人のやりとり・・・・。直接、この話に関係するものでもないが、「商売」とはやはり、自分に利益を出すために多少の嘘や方便を使わざるを得ないところはあるだろう。しかし、大切なことは「お客様は神様」という精神。今風に言えば、「ユーザー第一」「消費者第一」とでも言うのか。

 何にせよ、売るほうも買ったほうも気持ちよく品物と金銭を交換したいものである。
                                   完



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