ラジェンダ エリコムリ            L'agenda d'erikomri

トウキョウ・スウィーツ1



打ち上げ花火の下で 渋谷区神宮前三丁目

季節はずれだけど、花火のときのはなし。
わたしたちは神宮前の事務所で、仕事も適当におわらせて、
花火のはじまりを待っていた。

スイカをグダグダにくだいて、ジンで奇妙なカクテルをつくったり、
テキトウに果物を切り刻んで赤ワインに入れて、サングリア。
準備らしい準備をしながら、それは、ただの言い訳。
だって、花火の日だしね、年に一回だよ。
仕事も、ちょっとさぼって、いいよね。明日から、がんばるよね?
年齢もバラバラなわたしたちは、くすくす笑いつつ、花火を待つ。

子供用のプールに水をはって、ビール冷やし用にしたんだけど、
ちょっと入れるのは早かったね。1時間もするとぬるくなってた。

事務所の屋上には、わたしたちしかいない。
ぬるくなったビールを手に、1キロほど離れた花火は始まる。
ちょっと下のほうが見えないのは残念。表参道のビルが邪魔をする。
下が、メインなときもあるのにね。

「あれってさ、上から見たらどうなの?」
「おんなじにきまってるじゃん、中心からバッとでてるんだから。」
「てゆうか、それって、岩井俊二のドラマの・・・。」

打ち上げ花火、上から見るか、下からみるか。
ドラマの出演者よりすいぶん歳をとった大人たちは、
つまらない疑問を、あたかも初めて出会った疑問のように、議論する。

あの花火の下には、彼がいる。
彼は愛する子供をつれて、いる。

わたしは、みんなと「おおー!すっごいキレイ!」と声をあげながら、そう思う。
花火大会の入場券を家族分買って、今日を待っていた彼と、1キロの距離にいる私と。

花火はちょっとした休憩をはさみ、あっけなく終わる。
普通の夜空がもどってくるけど。

同僚との会話を、心地好く聞く時間が続く。
わたしは、それを聞きながら、会議机で寝ているフリをする。


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