日々、考察中。

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ドバイ7!

ドバイ7!

 5月7日から8日は、切れ目がない。
 というわけで、これ以降は8日という事にした。時刻はまだ、7日の午後10時過ぎである。日本時間にすれば午前3時。すっかり8日ではないか。

 空港内免税店は確かに広かった。今日1日、まともな食事が朝食だけだった僕らは空腹感を感じており、2階にある食べ物コーナーへ向かった。ピザ屋さんが目に付いたが、マクドナルドに中東限定メニューがあったらそれにしよう、と言う事になって、"マックアラビック"を発見し、マクドナルドに行った。ナン風のパンに挟まれているのはチキンパテ2枚で、レタスなどの野菜とよくわからないソースがいっしょに挟んである。食べてみると、これがかなりいける。そそくさとマックアラビックを平らげて、1階へと降りていった。
 マセラティクーペとベンツとハレーダビッドソンが飾られている横には立て札があって、"500"などと書かれている。これは、ドバイ空港名物の夢の抽選会で、500ディルハム(約15000円)払って1000分の1の確率であたる車の抽選権利を得るのだ。1000分の1に15000円はちょっと苦しい。僕はしぶしぶ見送った。マセラティが15000円。しかも、最寄の空港まで無料で送ってくれると言う。ああ、おしい。
 財布に残ったディルハムの硬貨を使ってしまおうとして、食品を売っている免税店を訪れた。酒タバコチョコレート洗顔料キャビアはみがき、とにかく何でも来い状態のお店だ。僕は、アラビア文字の入ったはぶらしはみがきセットと、スコッチの名品グレン・フィディックの18年ものを買った。この時点で硬貨はほとんど消費した。
 買うものもなくなって、ディルハムを円にエクスチェンジすることにした。100ディルハムはトランジット用に香港ドルに替えるつもりだった。まず、100ディルハム以外のディルハムを円に交換し、それで残ったものと100ディルハムを香港ドルにした。ここで1ディルハム硬貨が4枚渡されて、僕のこれまでの硬貨撲滅運動は無になった。
 まだ時間があったので、本屋や小物屋をうろうろした。ボーディングまで約20分。僕らは移動を始めた。ボーディングはすでに始まっており。僕らが到着すると同時にビジネス入り口側もエコノミーに開放されスムーズに搭乗できた。64列目のK席は、またしても窓側で、またしてもの申告により、またしてもJ席に移動した。となりは、漢民族らしきおばさんで、どうやら香港人のようだった。色使いと雰囲気はルイ・ヴィトンそっくりだが、よく見ると全く柄が違うバッグを持ったおばさんは、通路を挟んで座っているおじさんと連れの様子だった。

 フライトは定刻で、僕らはベルトを閉めて離陸体制を取った。どうも香港、台湾、中国あたりの国の人は世界で最も自己中心的と言われている通りわがままで、スチュワーデスの言うことを無視して新聞などを広げている人が目立つ。頭が悪いやつらだ、と口に出したが、所詮やつらに日本語はわからない。さて、離陸と言うときに、隣のおばちゃんが歌を歌い始めた。この人も言う事を聞かずにヘッドフォンをしたままにしているバカ軍団の1人である。ディスプレイには映像が移っていないから、音楽を聴いているようで、それに合わせて歌っているらしい。
「にゃーにゃにゃにゃにゃーにゃにゃーにゃにゃにゃにゃー。」
と、永遠に続くかのような抑揚のない歌声は、おばちゃんを中心とした10人以上の人に聞こえているに違いない。不思議なのは連れのおじさんが何も言わないことで、彼はムスッとした表情で前方を直視していた。"このおじさんは飛行機が怖いんだな"と感じた僕は、"もしかしたらこのおばさんも怖いから気を紛らわそうとしているのかも"と思い、何か言うのは辞めておいた。
 間もなく離陸したCY732便は7時間後の香港を目指した。

 おばさんのにゃーにゃーソングは水平飛行寸前まで続き、シートベルトサインがついているにもかかわらずトイレには行列が出来、ホントにこいつらはバカ軍団だと思ったところにドリンクサービスがきた。僕は、「ビア。」と言って、差し出されたカールスバーグに喜んだ。映画は行きと同じで、日本語放送のミスティック・リバーは見てしまったから、英語板のコールド・マウンテンを見た。ニコール・キッドマンにうっとりしつつ、ビールを呑んだ。すぐに機内食となり、フィッシュ、オア、チキンをチキンにして、怪しい機内食カレーを食べた。機内食の容器が回収されると照明が落ち、就寝時間となった。僕も眠るように努力したが、エコノミー席のいすの角度は僕に臀部の鈍痛しかもたらさず、深い眠りは不可能だった。
 もぞもぞおばちゃんのにゃーにゃーソングで、人生最高の目覚めをした僕は、ディスプレイに映っているニコールの笑顔で少しだけ癒されて、リフレッシュメントを待った。
 パン中心で、果物とオレンジジュースの朝食代わりは、"そんなに食べられるものではないでしょ。"という量だった。にゃーにゃーおばさんは、一瞬にして全てを胃の中に収めていた。香港まで、あと1時間を切って、リフレッシュメント容器が回収されると、CX732便は水平飛行から外れた。
 おばさんのにゃーにゃーソングがみたび始まった。トラウマになりそうな響きであったが、スチュワーデスさんが僕の危機を救ってくれた。ヘッドフォン回収を始めたのだ。着陸までの数10分、僕は普通の空の旅をする事が出来た。

 香港到着はレベル5で、名古屋から到着した時とほとんどかわらなかった。今度はすんなりと出発ロビーであるレベル6に移動し、手にした香港ドルで何か買ってやろうと免税店を回った。しかし、今更香港などという字の入ったおみやげなどいらない。僕はドバイへいったのだ。一気に購買意欲をなくした僕は、ジュースを買って時間をつぶす事に専念した。唯一興味をひかれたのは本屋さんで、香港の競馬関係本を見つけたら買おうと思ったが、いくら探しても見つからなかった。香港ドルは僕の財布の中に残ったままとなった。
 香港時間で午後4時15分のフライトは、日本時間午後5時15分ということである。到着予定が日本時間で午後9時だったから、3時間45分もかかるのかと思っていたら、フライトが20分ぐらい遅れて4時半過ぎになった。それで到着時刻が午後9時になっていたから始めから3時間半弱のフライト時間だったのであろう。キャンセル待ちで取った席だからか、飛行機の席が初めてNと離れたが、特に問題もなく搭乗して、席につくなりそのまま眠ってしまった。
 飛行機が動き始めて目を覚ました僕は、隣がビジネスマンっぽい50代の日本人おじさんであることに気付いた。全く、運が悪いにも程がある。僕は、また眠りに入った。
 機内食が始まった。車を運転して家に帰ることを考えて、ドリンクサービスでコーラを頼んだ僕は、ここではオレンジジュースにした。隣のおやじは終始ビールである。「うなぎとチキン、どちらになさいますか?」という顔が大きめだが、にこにこしてかわいいスチュワーデスさんのやさしい響きの日本語を聞いていい気分になり、「ウナギをお願いします。」と答えた。隣のおやじは、「チキン。」と無愛想に言った。食べ終わる頃におやじは眠りに入り、いびきをかき始めた。僕は、このおやじの眠りを永遠のものにしてやろうか、と思ったが、かわいいスチュワーデスさんに怒られるのが嫌だから、ひじで小突いていびきだけ止めて、僕も眠った。
 機内食を食べて、眠って、と続いた3時間半は思ったよりすぐに過ぎて、飛行機の下に名古屋の街の灯りが見えてきた。いよいよこの旅最後の着陸である。1つ1つの灯りが大きくなっていって、少しの衝撃が地面から伝わると、そこは午後9時の名古屋空港だった。

 僕がこの後するべき事は、帰宅して、湯をたっぷり張ったお風呂に入る事だけだった。


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