月浮かぶそら、輝くひかり。 -静かな夜空の小さなトモシビ。

第一章─出会い


この学園に入学して1ヶ月経つと言うのに、特に誰かと馴れ合うことも、挨拶をすることもない僕は、今日もただ何事もなく日々を過ごせればそれでいい。そう思っていた。……しかし、現実そんなに甘くはないわけで。


カラカラカラ──


教室のドアを開け、いつものように自分の席を目指す。ただそれだけのことでさえ、今日に限ってさせてもらえないわけで。


──ドテッ


机まであと数メートル。もう数歩でたどり着くというのに。
何故、自分は転んだのだろうか。
いや、僕がドジなわけではない。僕が転んだのは、人為的なもので……


「ってぇな・・・」

「バカか、お前?学習能力ねぇな」

教室にいたクラスメイトたちは、僕が転んだのに気づいてみんなこちらを見ていた。いや、ほぼ毎日の恒例行事なのだが……。

僕の足を引っ掛けたのは、このクラスでいわば『不良』の部類に入る人間。

「いい加減毎日毎日人の足をかけるのはやめたらどうだ、孝太」

「毎日毎日引っかかるお前が悪い」

ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ、未だに床に座っている僕を見下ろす。

「朝から気持ちの悪い顔を見せるな。大体僕は毎日アホを相手にしているほど暇じゃあないんだよ」

「あぁ?喧嘩売ってんのか、てめぇ?」

「喧嘩を売ってきたのはそっちだろうが」

「調子乗ってんじゃねーぞっ!!」

右手を引き鎌を振るうような大きなモーションで殴りかかってくる孝太を、僕は左手で受け流す。

「動きに無駄が多すぎる。そんなんでよく喧嘩しかけてこられるな?」

「っるせぇ!さっきこけた奴がなにを偉そうに」

「油断してただけだ」

眼鏡の位置を修正しつつ、負け惜しみの言葉を受け流す。
僕達のやり取りを見て、先ほどから孝太の後ろでニヤニヤしていた英貴が割り込んでくる。

「孝太、止めときなよ。問題になっても困るし」

「チッ。次はぜってー殴ってやる」

孝太はまだ不満があるようだが潔く引き下がった。

「何度やっても同じだよ」


キーンコーン──


ちょうど僕らのやり取りが終わった頃、校舎内にチャイムの音が鳴り響いた。

「席につけーぃ!」

「全員ついてるっつの」
「あ?なんだ、喧嘩売ってんのかてめぇ?」
「あぁ?教師がそんな汚い言葉使って良いのかよ?」
「お前にはどんな言葉使おうが問題ねえよ」
「あんだとぉ!?


2分後──


「もういいや。始めるぞ~」

先生と孝太はいつもいつも口喧嘩をしている。これも毎日のこと。


キーンコーン──


朝の挨拶を延々と話す先生の話をチャイムの音がさえぎる。

「うっし解散!」

なんとも適当な占め方だが、もう全員慣れている。その一声で席についていた生徒たちが思い思いの行動に移った。

そして、今日はとてつもなく面倒な──いや、珍しい事が。
「ねぇ」

「ん……、竹内さん?」

いつもは誰とも話す事の無い内気(?)な女の子、竹内春香が話しかけてきた。

「珍しいね、どうかしたの?」

「何、読んでるの?」

「ああ、これ? 『時空の剣第二巻-グラムリウスの秘龍-』 だよ」

「一巻、持ってる?」

「ああ、あるけど?」

僕は机の中から一巻を取り出し、彼女に差し出す。

「借りても、いい?」

「ん?ああ、別にいいよ。もう読んだし」

「……ありがとう」
彼女は俯きながら小さく呟いた。
そして、大事そうに僕の貸した本を持って自分の席に戻っていった。

「うーん……今日はなんでこんなに珍事が続くんだろ……」


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: