月浮かぶそら、輝くひかり。 -静かな夜空の小さなトモシビ。

第四章-不器用な笑み。


キィ・・・
僕の後ろにあるドアが開いた。・・・誰だろう?
「あー、いたいたー」
里緒だ。彼女は、何しに来たのだろう。
「こんな所に居たんだ。陽介君」
「悪いか?」
「誰も悪いなんかいってませんよー」
彼女は舌を出しながら言った。
「涼しいね、今日は」
夏なのに、凄く心地のいい風が吹いていた。曇っているせいだろうか。
「いつも・・・。こんな感じだったら良いのに」
僕は空を見て呟いた。
「私は嫌だな。太陽が見えたほうが、空は綺麗だから」
「人それぞれだよ・・・」
二人とも、同じ体制で空を見上げていた。どれぐらい見上げていただろう。気付いた頃には首が痛かった。
「相変わらず無表情だね~、一回ぐらい笑ってみれば?」
「余計なお世話だよ・・・。僕は僕のままでいい」
「なにそれ」
あははと彼女は笑った。僕は校舎の壁にもたれかかった。
「なんで僕の所に来たの?」
「なんでって、話したかったから」
彼女は本能のままに動いているのだろうか?僕は一瞬そう思った。
「話す事なんて、無いよ」
「私はあるのー」
彼女は僕の横に来て同じように壁にもたれかかった。
「・・・って欲しいな」
「は?」
真横に居たけど、小声で彼女が言ったので聞き取れなかった。
「一度で良いから、笑って欲しいな」
今度は、聞こえるような声で彼女が言った。
「なんでそんなに僕にこだわるんだよ」
「初めて会った日。凄く優しくしてくれたから。陽介君、雨降ってたのに私に傘貸してくれた。『家。近いから』って言ったでしょ?でも、次の日に聞いたら、私と同じところだった。自分が濡れるってわかってるのに知らない人に傘貸すのって中々出来ないよ?」
物事をあまり考えてそうにないわりにこんな事まで考えていたのか。
「僕は、どうなっても良かったから」
「駄目だよ。自分の身体は大事にしなきゃ」
─キーンコーン
丁度のタイミングで予鈴が鳴った。
「さて、戻ろっか」
「ああ・・・」
「里緒」
「・・・?」
少しの間があった。間を置いた。
「また、後で」
僕はニッコリと笑った。初めてのことだったから、少しぎこちなかったかもしれない。でも、笑った。笑ってあげた。
「あ・・・」
彼女は少し驚いていた。数秒の間があった。
「うんっ!」
彼女は笑った。凄く、嬉しそうに。


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