月浮かぶそら、輝くひかり。 -静かな夜空の小さなトモシビ。

第五章-帰り道。


彼女の為に─。
そして、僕の為に─。
いつか僕が、普通に笑える日がくればいい。そのために、今日から練習するんだ。

帰り道。僕は一人で歩いていた。いつものことだから。
「おーい、陽介君!」
後ろから僕を呼ぶ大きな声がした。振り向いてみたら、50Mほど後ろから、笑顔で手を振りながら里緒が走ってきた。
「はぁ・・・はぁ・・・。早いね、帰るの」
「まぁ・・・。することなかったし」
「そっか。じゃあ待っててくれても良かったのに」
里緒は笑顔で言った。
「そんなこと言われても・・・『待ってて』なんて言わなかったし」
「言わなきゃ待っててくれないの?」
「いや・・・まぁ・・・。そういうわけじゃないけど・・・」
「じゃあ、明日から待っててね?」
彼女は横から僕の顔を覗き込んだ。少し緊張した。
「う・・・うん」
彼女は楽しそうにあははと笑った。
「ねぇ」
「何?」
「笑ってくれない?」
彼女のいきなりのお願いに少し戸惑った。
「・・・なんで?」
「なんでって・・・、見たいから」
彼女はニコニコしながら言った。
「みたい・・・?」
「うん。陽介君の笑顔が見たい」
彼女はまだニコニコしていた。
「でも・・・上手く笑えるかどうか分からないし・・・」
「上手くても、上手くなくても、笑ってくれたらそれでいいよ」
今の里緒はやけに機嫌が良かった。昼休みに笑ってあげたからだろうか?・・・彼女になんと言ってもあきらめてくれそうにないので仕方なく笑ってあげた。
やっぱり少し引きつっていた。そう簡単にはいかないようだ。
「あはは、もっと意識せずに普通に笑えばいいのに」
彼女は楽しそうに言った。
「意識せずにって・・・笑って欲しいって言われたら普通意識すると思うけど・・・」
「でもね、意識せずに笑えば、普通に笑えてるんだよ」
言っている意味が良く分からなかった。意識せずに笑えっていわれてもどうすればいいのか正直わからなかった。
「うーん・・・笑うなんて事を教えるのはむずかしいなぁ・・・。まぁ、毎日少しずつ笑っていけばいいんじゃないかな?」
「じゃあ、まぁ、頑張ってみるよ・・・」
「うん。あ・・・、もう家だ」
彼女は少し残念そうな顔をして言った。
「本当だ。・・・早いな」
「じゃあまた明日ね」
彼女は手を振りながら微笑んだ。
「うん。また明日」
僕も、微笑んでみた。
やっぱり少し引きつっていた。


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