えくしあのもう更新する気なしブログ

えくしあのもう更新する気なしブログ

さらば、母校よ。-光陰、矢の如し-



高校の制服を着た女子高生がいた。そう、彼女たちで最後になるのであろう。
そしてあの制服を見るのもこれで最後だろう。

新学校はすぐ近くに新校舎と共にできたらしいが、こちらの建物は後々崩されると思う。



数十年前。
ふたりの女の子がいた。
いつ頃からかは分からないが、ふたりは昔から友達だったらしい。
彼女らは共にこの高校を卒業する。

それからしばらしくて、それぞれに子が生まれた。
片方は1月生まれの予定だったが、2月に生まれの男の子。
片方は2月生まれの予定だったが、1月に生まれの女の子。

男の子と女の子は1歳になるくらいの頃、遊んだ。
それから間もなく、女の子は遠い北の国へ引っ越すことになる。

当然だが男の子はそんな昔のことは忘れたまま、十数年の月日が流れた。


ここからこの物語の主人公は男の子になる。
彼は中学3年になっていた。
まもなく高校入試を控えていたが、どこに行こうという意思もない。

普通科は嫌。
できるだけ家から近いほうがよい。
トイレはもちろんきれいなほうがよい。

などの理由から、あの高校を選択する。


入学式の日。
いきなり合格証を忘れるというネタをやらかし、遅刻しかけたため、後ろの席に座った。
座っていると母と同年代くらいの見知らぬ女性が母に話しかけてきた。
このとき彼は『知り合いか?』程度にしか思わず入学式は終わる。

それから彼の高校生活がはじまった。

クラスの女子の中にやたら髪が長い、茶髪の子がいた。
『いいのか?あれは?』自分の髪も先生にどうとか言われ、
地毛だと説明したら納得はしてくれたが、その女子はそれ以上だ…。
そう思いながら彼女が気になっていた。

彼は高校時代ではまじめな生活を送ると決めていた。
こうして、ごく平凡な高校生活が始まっていた。

6月くらいだったろうか。
夕食時、母から突如話を聞いた。
『同じクラスに○○さんっていない?』
その名前には聞き覚えがある。
確か…あの茶髪の子だ。

そう、彼女は15年前に遊んだあの女の子だった。


彼はアルバムを引っ張り出し、確認をした。
このアルバムを見るのは初めてではない。過去に何度も見たことがあるものだ。
そこにあったのは彼女の名前。
母の話が本当だったと実感した。

彼女はこのことを知っているのだろうか?
それから気にはなったが、深く考えることもなく、またこちらから話そうともしなかった。

その頃、彼はワープロ部に所属していた。
体育系の部活より、文科系の部活のほうが好みだったからであるが、ここがまた、活動している部員はほぼ全部女子。
一緒に入った男子が数名いたが、誰も来ようとはしない。
ハーレム天国に聞こえるかもしれないが、入り難いといったらなんの…。
次第に部活をサボることも増えていた頃だった。

同じ6月の話だった。
部員調整のため呼び出しがかかり、去るか残るかの選択を迫られた。
ほかの男子は全員去っていったが、彼は残ることを選び、その日から検定試験のため、猛特訓を始めた。
周りなんだろうと関係ない。

間に合わせで受けたようなものなので、一番低いレベルではあったが、無事に検定試験も合格というかたちで終わった。
それから夏休みに入り、あっという間に秋がはじまる。

次の検定試験のため、さらに練習を重ねる彼。
こうしてパソコンと向かい合い、ひたすら文字を打ち続けることが授業より楽しくなっていた。
クラスの人間とは意見が合わず、多くの人間とは関係を拒否するようになっていたからかもしれない。
要するに、彼は真面目すぎたのだ。

検定試験前、彼は顧問の先生からもっとも期待される存在になっていた。
同時に席替えがあり、席を替わることになった。

そして隣にいたのはあの彼女。
パソコンしか見ていなかったので今まで気づかなかったが、なんと同じ部員だったのだ。


席替えのあと、彼女の方から母親同士が友人関係にあることを話しかけてきた。
どうやらあちらも知っていたらしい。
同時に一言『負けないから』。
どうやらタイピング速度のことを言っているようだ。
面白いじゃないか、受けてたとう。
こうして彼女との距離は近くなった。
これが秋の出来事。

秋の2級検定も無事に終わり、冬がきた。
この冬は1級検定試験が待っている。

この頃、彼と彼女の登校時間は6時。
7時30分からは課外授業がはじまるので、その前に練習するためだ。
さすが冬の朝だけあって辺りは真っ暗。
時には学校がまだ開いていない日もあった。
練習後、ふたりで教室の掃除。
それから何事もなかったように課外の開始を待つ。
まさか、こんなことがあってたなんて誰も知らないだろうな。

1級の検定試験は彼女の誕生日に行われた。
先に終わった彼は教室で彼女を待ち、誕生日プレゼントを渡すなんて柄にないこともやった。

同じ時期だったろうか…。
彼女のほうも15年前の写真を持っていたようで、見せてもらった。

別に彼氏彼女の関係ではなかったが、結構彼らの噂はたっていた。
こうして高校生活最初の1年は終わった。



物語は2年生へと移り、登場人物が増える。

彼の中学時代の後輩Meが入学。
Meは当初、別の高校へ行くところだった。
しかし、願書提出前に彼の元へ相談にやってきたので、同じ高校を勧めたのだ。
そのままMeもワープロ部に入部。

Meはすぐに馴染み、彼女とも話すようになっていた。
4月の中ごろ、彼女、部員の女子、Meが彼の家に来ることになった。
16年前に彼と彼女が会ったのは他でもない彼の家。
彼女にとっては16年ぶりに来ることになるわけだ。

5月には同じメンバーで遊園地へ行った。

こうしてMeの登場により、彼らは今まで以上に距離が縮まった。
…だが、これも夏までの話。

Meのなかに、彼女への好意の感情が芽生えていた。


気づけば部活内では、基本的にこの4人で動くようになっていた。
彼は基本的に自分から動くことはないので、リーダー的存在はMe。

ある日、4人はこっくりさんをやった。
彼はまるで興味もなかったが、Meの強引な誘いで引き受けることに。

最初はどうでもいい事を聞いていたが、途中『彼の好きな人』を聞くことに。
その答えとして出てきたのは彼女の名前。

こっくりさんをやめ、周りから真相を尋ねられたが、彼は『そんなわけない』と答えた。

その後、Meは彼女に告白。
ふたりは付き合うようになった。
とはいえ、肩書きだけのような関係だったが。

それからMeは次第に変わっていった。
中学の後輩のときとはまるで違う態度をとるようになり、
彼を呼ぶときも苗字の呼び捨てだった。
彼は後輩とも、対等に話し合える関係を好む性格だったが、このMeの態度には怒りを覚え、ふたりの関係は悪化する。

同時に4人の中のもうひとりの女子の態度も変貌。
彼は孤立する。
これが2年の夏の話だった。


2度目の秋。
当時の彼は、教頭から『我が校のエース』と呼ばれるほどになっていた。
資格の取得という形で事実上、3年次の情報の授業は自由時間状態に。
もっとも、小さな高校だからできたことではあったが。

近々、簿記部が大会に参加するが、そのメンバーが足りない。
簿記部の女子部員Ryからこの話を聞き、彼は簿記部へ移籍。
Ryとは面識があり、よくパソコンの使い方などを教えていた。
こうしてしばらくはワープロを忘れ、簿記に打ち込むことになる。

簿記大会が終わっても、彼はワープロ兼簿記部員となる。
そして冬が訪れ、北海道へ修学旅行。
旅行後まもなく、Ryの家に招待され、手料理を振舞われたこともあった。

これを見た彼女はいつも怒っていた。
なぜかは知らないが、彼女がもっとも嫌いなこと…それは彼の活躍。
自分を置いていってほしくないという意思表示なのか、それともただの負けず嫌いか…。
どちらにせよ、こんなもので競う意味はない。
当時の彼のそんな考えから、彼女の態度が気にいらなかったことも事実。
だが、それでも彼の中ではいつも彼女のことが気になっていた。

久々にワープロ部へ戻ってみると、そこにMeの姿はない。
付き合うといっても肩書きだけのような関係だった彼女とMe。
そのMeが秋から、学校に来なくなっていた。
規定単位を取得できなかったや、別の学校へ行くなどの噂は聞いていたが…。
ふたりの関係がどうなったのか詳しくは知らないが、こうしてMeは姿を消した。
その後の消息も知らない。


彼女とMeがどうなったかはわからない。
彼と彼女の仲はいつの間にか改善。
ふたりとも子供だったわけだ。

こうして2年生が終わろうとしていた。
3年になれば、また進路を考える時期だ。
まだ就職はしたくない。
ある先生からはいわれたが、まさか大学なんぞ行くわけがない。
彼は専門学校へ進学することしか考えていなかった。

春休み、彼女のほうから専門学校の体験入学の誘いが来た。
そこには当時、興味があったコンピュータグラフィック関係の学科もある。
3月、彼女と他の高校に通う彼の友人を引きつれ、体験入学へ行ってみる。
普通に楽しかった。嫌なことがない。
これが毎日の授業になれば、どれだけ楽しいだろうか。
このとき、彼の中では9割方ここに進学する意思が決まっていた。

そして高校最後の年がはじまる。
それまでの彼は資格マニアに近いものだったが、3年になってからは資格取得はやめ、後輩の育成に力を注いだ。

6月。
彼女が簿記の試験を受けることになり、彼が教えることになった。
学校が休みの土曜日。
教室にはふたりだけの姿があった。
1年の冬、朝からワープロを練習していたときのように。

最後の年はいつも時の流れが早い。

9月。
進路決定の時期。
彼女は例の専門学校へと進学することになった。
学科こそ違うが、彼もその学校から願書を取り寄せ、記入する。
あとは課題の作文を書いて提出すれば終わり。

9月なかば。
放課後…。
ワープロ部の部室へ向かうには、教室のある2階から廊下を使えばいい。
彼は部室へ向かう途中だったが、この日は1階にある職員室の前を通った。

そして究極の選択が彼にふりかかる。


職員室前の廊下を歩いていると、彼ともっとも親しい先生に会った。
前に一度、大学へ進学を勧めた先生だ。
せっかくなので、提出する作文の件でアドバイスをもらおうと話しかけた。
それから約3時間ほどして、彼は深刻な表情で職員室から出てくる。
時間も時間だったのでこの日、部活に顔を出すことはなかった。

この3時間、彼は先生から進路に関する説教をいただいていた。

・今のお前が専門学校へ行っても、それは好きなことだけへの逃げだと。
・大学ならいろんな奴が集まる、そこで人間を磨いて来いと。
・そして、将来を軽く考えるな…と。

そう、彼はこの高校生活中に多くの人間を敵に回した。
そんな彼が専門学校へ行ったとしても、そこに集まるのはみな同じ夢をもつ人間たち。彼はそこで進歩はできないというのだ。
どうやら、どうしても大学への進学を薦めたいらしい。

彼は帰ってから考えた。
彼の中で、かつてこれほど悩んだことがあっただろうか。
こんな話を聞いた程度でそう簡単に考えを変えるわけにはいかない。
当時の彼としてはそれなりに考えて出した答えが専門学校だったからだ。
まだ行くつもりはなかったが、それからの数日間は今から間に合う情報系の大学についての調査の連続で、部活に行く暇などなかった。

調査の結果、推薦入試でなら行けそうな大学が多数挙がった。
その中でも、同じ高校のSy氏が合格したらしい隣の県の大学を選択する。
Sy氏から話を聞いてこの大学がコンピュータグラフィックに力を入れていると知ったからだ。

彼女にこの話をすると『そうしていつも人に流されるのね』と冷たい態度で答えられた。
これを聞き、一度は大学行きを完全に白紙にしたが、調べていくにつれて専門学校へ行くこと自体が怖くなっていた。

時は9月末。
普通の高校3年生なら、既に進路をどうするか決めていなければならない時期。
彼の高校は商業高校で進学校ではない。
成績はクラスの中なら1位の実力だったが、進学校と比較されれば下から数えたほうが早いに決まっている。
まさに井の中の蛙だ。
大学に行ってもついていけるかどうかがわからない…。

彼女とも、専門学校に行くときは一緒に行こうと話していた。
大学に行くと、会うことすらできなくなる。

不安の連続。
この物語の終わりが訪れようとしていたとき、彼は決断を迫られていた。


彼は大学受験を決断する。
周りがどう言おうが、あの先生の言葉が彼の中にずっと残っていた。

受験は10月末。
9月19日の夕方までは、専門学校に行くつもりだったのだが…。
奇しくも彼の受験日は、彼女が専門学校を受験する日でもあった。
また、同日は高校で最後の学園祭が催されている。

数日後、彼と彼女はそれぞれの学校に合格。
ここでふたりは違う道を歩むことになる。
当時はまだ不安だらけだったが、これで良かったのだ。

ここまできたら、いよいよ時の流れは早くなる。

卒業も近くなってきた頃、この高校では卒業生が川柳を残すことになっている。
過去の例では『黙れ小僧 お前にサンが 守れるか』なんてのもあった。

ここで彼が残した作品
『入学式 久しく逢った 女の子』
この意味を知っている人間は少ないだろう。

そして2月。
高校も週に1度行くだけになっていた頃、彼女から小包が届く。
コロコロしあわせがあなたにむかってころがるよ。
誕生日プレゼントらしい。
これは彼の宝物となっている。

そして3月1日。卒業式を迎える。
この3年間いろんなことをやったが、彼が写真を嫌う人間だったため、写真は卒業アルバムしか残っていない。
卒業式では数名の女子と撮影もしたが、彼女との写真は残っていない。
こうして彼らはそれぞれの道へ向かって卒業していった。


卒業後、彼はケータイを持つようになり、メールアドレスを彼女と一緒に考える。
『Time flies like an arrow -光陰矢の如し-』
月日が経つことの早いたとえ。
彼女のケータイのアドレス用に考えていた言葉らしい。

こうして彼は3月がくると、この物語とこの言葉を思い出す。


記:2007年3月。


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: