73.09.25仁義なき戦い 広島死闘編





おどれら一匹ずつぶち殺しちゃるけん

昭和25年広島。賭場に現れたボンクラ山中は早速トラブルを起こす。「なんなら。お前それは」「なんなら言うて、勝ったんや」「おんどりゃなめやがって」山中はボコボコにされる。「今度ツラ見せたら承知せんど」完全にぶちきれた山中は洗い場にあった包丁を持って賭場に乱入し、傷害事件を起こし、2年の懲役刑をくらう。刑務所でも反抗的な態度を取る山中。同じ刑務所には広能もいた。

懲罰房に入れられ念仏のようにつぶやく山中。「ぶち殺しちゃる。ぶち殺しちゃるど」そこへ広能が差し入れをもってやってくる。「おい。こんなに飯よそっちゃったっけえ、よく噛んで元気つけえや」「すんません」両手が使えないため犬のように飯にかぶりつく山中。そして昭和27年になり山中は仮釈放。そしてある飯屋に行き、腹一杯飯を食ったあと女主人の靖子に交渉を開始する。

「姉さん。わし、ここで働かしてくれんかのお」「さあ、板場は手が足りとるけん、よそで聞いてみんさい」「働いて返そう思うたけん、わしゼニがありゃせんのじゃ。代わりにこれを預かってくれんかのお」腕時計を靖子に差し出す山中。「なんね、きれいにすませちょってからに。ええからはよう出ていきんさい」「おい。わしは乞食じゃないで」「なんね。あんた、無銭飲食して因縁つけるん」

険悪な気配を察知してボンクラたちが集まってくる。「靖っちゃん。わしらにまかせんしゃい」「あんたらは出てこんといて」「この姉さんは、村岡組のオヤジの姪にあたる人じゃ。おお、なんなら。こがいなもん」山中の腕時計は踏み潰される。そこへ大友連合会のボンクラ大将大友勝利が現れる。「相手になるけえ、表に出い」勝利は竹刀で山中をどつきまわす。「やめんしゃい」と叫ぶ靖子。

ボロボロになりながら悪態をつく山中。「殺さんかい。おお。おどれらの顔はよう覚えちょるけえ。わしを生かしておいたら、おどれら一匹ずつぶち殺しちゃるけん。おお」「何を。このガキや」さらにリンチを加える勝利。そこへ勝利の父で大友連合会の会長の長次が。「ええい、くそじじいめ。引き上げじゃ」勝利はその場を逃げ、山中は九死に一生を得る。「あのバカが。またボンクラ集めようって」つぶやく長次。

靖子は山中の看病をする。「あんたも馬鹿ねえ。余計な口きくもんじゃけえ」そこへ村岡と村岡組の若頭の松永が。「おじさん」「大友が言うてきたんが、こいつか」「医者には見せたんですか」「内出血がひどいもんじゃけえ、2,3日熱が引かんじゃろって言われて。誰も身寄りがないって言うもんじぇけえ」「おなごの部屋にこがいなもん置いといて。世間の体裁ちゅうもんがあろうが。若いもん寄越すけえ、わしの所に移させなさい」

山中はしばらく村岡の家で静養する。村岡の舎弟の高梨が山中を呼ぶ。村岡の前で神妙に構える山中。「オヤジがのお、こんなの見受引取人になられた。ほいで聞くんじゃがの。これからカタギで通すか、それとものらをすくうか、こんなの腹の底言うてみいや」「わしゃ、マーケットでわしをこみおうたんをみんな殺っちゃろう思うとります。極道にさしてつかあさい」笑い飛ばす村岡。「極道になって言うんなら、そがいな勝手な喧嘩は許さんわ。高梨のところで一時座れ」「よろしくお願いします」

「おお。ほいでの。靖子の店で時計めがされたらしいが、代わりは持っちょるんか」「いいえ」「ほうか。ほうか。ほんじゃ、これ使え。ええ男になれよ。のお」村岡は自分のしていた腕時計を山中に渡す。山中にささやく松永。「ええもん、もろうたのお。それはスイス製で何十万もするもんで。おやっさんはおおいう腹の太いお方よ。のお」感激した山中は腕時計を握り締めて一礼する。

こうしてヤクザになった山中は高梨の配下のもとテキヤ稼業に精を出す。その山中のところに酔っ払った靖子が。「飲みすぎたんよ。ちょっと休ませて。水ちょうだい」「早く帰ったほうがええですよ。美代ちゃんも待っとるじゃろうし」「うちだって、たまには一人でいたい時もあるんよ。ねえ。ちょっとしたら帰るけん。ここにキスして」「……」「うちはあんたの命の恩人なんよ。いや」

黙って山中は靖子のおでこにキスするが、我慢できなくなって、靖子を抱きしめる。「なにすんの。いけん。いけん」こうして山中と靖子は男と女の関係になる。靖子の家に行き、靖子の娘の美代子をあやす山中。そこに松永と高梨が。「なんね。いきなり」松永は無言で山中にビンタをくらわす。「靖っちゃんにはあとで話すけえ」山中に説教する高梨。「おんどりゃ、分際ちゅうもんがわからんのかい。あの人は靖国神社に祭られとる人の未亡人じゃぞ。オヤジも日本刀もっておどれを探し回っとるんで」「はあ」「はあじゃないわい。この馬鹿が。オヤジからわしが話しつけとくけん、旅を打て。松永、駅まで連れてったれ」「へい」



オメコの汁で飯食うちょるんど

こうして山中は九州飯塚の竹原一家に身を寄せる事になった。一年たったある日、山中は竹原親分から呼び出しをくらう。「客人に土地の料理ばご馳走したいと言いよります」そして山中の席の座布団の下には拳銃が。隣の部屋から竹原組が和田建設の社長を始末したがっているという話が聞こえる。「客人。次の席にご案内しましょうか」山中は拳銃をふところにしまって頷く。

そして山中は和田建設の工事現場に連れて行かれる。「あのー、和田さんという人はおってですか」「わしじゃが」山中は一撃で和田を射殺する。和田の死体をこずく山中は気分を落ち着かせるために口笛を吹く。この事件は公には迷宮入りとして葬られたが、山中の名は暴力団の間で密かな評判となり、やがて山中は広島への帰参が許されて、正式に村岡組の一員となる。

昭和30年広島競輪場。その競輪場の警備は村岡組が受け持っていた。その競輪場のトイレに大友組のボンクラが爆弾を仕掛ける。そのボンクラを事務所に連れて行きこづき回す村岡組幹部の江田。そこへ勝利が。「どうしたんなら」「外道の奴らがわしを犯人にしやがって」「ほお。殴られたんか。どいつがこみおうたんか言うてみい。わしがこの場で全部ぶち殺しちゃるけえ」

勝利に食ってかかる江田。「勝利よ。わりゃ面倒を起こすんもたいがいにせえよ。これからは大友のもんは、誰一人場内に入れさせやせんど」「何もこきやがるんなら。このボンクソ。おどれら警備員じゃろうが。おどれらの手落ちで事件起しといて、その罪をわしらになすりつけるちゅうんか」どうしたらええんじゃ、と嘆く市会議員の南良坂。「わしんところの若いもんはレースで飯食うとりますけえのお。あいつらが飯食えんようになったら、あんたも飯食えんようにしちゃるで」

南良坂は村岡のところに行く。「公安委員としてあんたにお願いしたんじゃが、どうも間違いだったようじゃの」「勝利が何言いよるかしらんが、親父にも背を向けとるボンクラですけえ、相手にせんでください」「警備面の強化はすぐ手を打ちますけえ」「もはや暴力の時代じゃないわ。大友さんにもこの際理事になってもろうてのお」「そがいなことじゃったら、わし手を引きますけえ」

長次は勝利に説教する。「村岡とわしとは戦後のヤミ市時代からの義兄弟じゃ。このマーケットも村岡と一緒に始めたんだよな」「こげいなマーケット、何の役に立つんなら。見てみない。今にモノが自由に買えるようになるど。そうなりゃ誰も寄り付かんよ。それに比べて競輪場言うたらよ、年に10億円の売上じゃけんの。そのうちの何%が黙ってみんな村岡のふところにはいるんで」

「競輪はバクチじゃけん。バクチうちのテラじゃろうが。神農道の稼業人が手をつけては仁義が立たんと言いよるんど」「はっはっは。何がバクチうちや。おお。村岡の持っちょるこつは何を売っちょるの。淫売じゃないの。言うなら、あれらオメコの汁で飯食うちょるんど。のお、おやっさん。神農言うてもバクチうち言うても、うまいもん食べてマブいスケ抱くために生まれてきたんじゃないの。そりゃゼニがなきゃ出来やせんので。ゼニに身を張って何が悪いの」

「村岡に喧嘩売って勝てる思うとるんか」「やかましい。おどれら村岡言うたらちびりやがって。あいつらの風下に立ってよ、センズリかいて仁義に首くくれ言うんか。おお。広島にヤクザは二つもいりゃせんのじゃ」「ボケ。もう何も言わん。縁は切れたと思え」「わしが欲しいのは広島よ。好きにやるだけじゃ」長次より絶縁された勝利は、村岡組の許可も得ずに賭場を開く。早速イチャモンをつけに来る松永。

「バクチうちが茣蓙を開いて何が悪いの」「誰がバクチうちじゃ」「おおい、じっさん。ちっと顔貸してくれや」そこに広島の実力者時森が。「松永。勝利はわしのノレンを受け継ぐことになった。口を出さんとけ」「うちのオヤジさんは承知しとるんですか」「村岡がなんなら。おどれ一人羽振りようしよって。おお。バクチの垢はわしのほうが古いんじゃって、よう言うとけ」しかし時森は村岡より絶縁状を出され、これで広島で賭場が開けなくなったとオロオロする。勝利は笑い飛ばして絶縁状を破り捨てる。「こっちが絶縁しちゃったらええじゃないの。のお」さらに調子に乗った勝利は山伏の荒治療を受ける村岡たちに奇襲をかける。それは死亡者2名、重軽傷者8名を出す惨事となる。





何の肉こうてきたんや

そのころ呉では山守と絶縁した広能が細々と広能組を構えていた。そこに山守の女房の利香が。「あんたに折り入って頼みごとがあるんよ。お客さんを一人預かってほしいんよ。あんたも広島のこと聞いとるじゃろお。村岡さんに反目を打った時森さんは、うちの戦前からのつきあいでねえ。うちのところに逃げてきなさったんよ。でもうちは村岡さんともつきあいがあるし、ほいであんたに頼もう思うて」

しかし広能は断わる。「わしは山守さんに盃返しましたですし。それじゃ、仕事がありますけえ」広能の子分の島田は飯の用意をすると言う。「おやっさん、わしら晩飯の支度に肉こうてきますけえ」「ほうか。ゼニ持っとるんか」「ええ、まあ」騒ぎたてる犬。「おい。ここらの犬はしつけが悪いのお。わしら犬殺しと間違えちょるんかのお」「えへへ」島田は犬を追い掛け回す。そして焼肉が用意される。

「お前らも食わんか」「いいや、これはおやっさんにこうた肉ですけえ」「何を言いよるんなら。遠慮でんでやれや」吠え立てる犬。「犬の奴らも腹をすかしとるんかのお」肉を投げ捨てる広能。「なんや。食わんど」島田たちの様子がおかしいのに気づく広能。「お前ら、何の肉こうてきたんや」「すいません。わし指詰めますけえ」「糞タレ。この。ええわ。明日山守におうてくるわい」

そして広能は時森を匿うことに。嫌味を言う時森。「おお。客には客の扱いちゅうもんがあろうが。おお。なんなら、このボロ小屋」「わしらスクラップの番せにゃならんのです。文句があるなら一人でどこへでも移ってくださいや」そして広能のところに山中が。おびえる時森。「おお。誰か来たんか。おお」「わしらの言うことを聞いとったら、保証しますけえ、肝を焼かんほうがええですよ」

再会する広能と山中。「広能さん。しばらくです」「元気でやっとるんか。村岡さんの所で売り出しとるちゅう噂は聞いたがの」「おかげさんで」「のお。時森はわれが匿うちょるがのお」「ほうですか」「わしも山守に頼まれてやっちょるんで。黙って広島に帰らんかい」「広能さんや山守さんの顔は潰しませんよ。あいつが一人になるまで待っちょりますけえ」「ほうか。手ぶらじゃ帰れん言うんか」「わしも格好つけにゃならんのです」

「ほいじゃ、わしが時森説いて広島に送り戻すけえ、そってで立場つけたれや。時森の落ち着く先はわしが電話で教えちゃるけえ」「ようわかりました。なにぶんよろしく頼んます」そして広能と島田は時森を広島に送り返す。途中で止めるように騒ぐ時森。「女がおるんや。後で追いつくから先に行っとれや」広能は勝利たちが待っている隠れ家に車を進める。そこへ山守から電話が。

「お前、山中に時森やらせるつもりじゃろうが、おお」「オヤジさん。わしは呉に血の雨を降らせたくないだけですよ」しかしその電話内容は勝利に盗聴されていた。「おどれりゃ、ちょぼくれやがって。呉のヤクザは芸がこまいのお。この腐れ外道が」命からがら勝利にアジトから逃げ出した広能は時森を殺し、そのことを村岡や山守たちのいるキャバレーに行って報告する。

「時森はたった今とってきましたけえ。わしの立場で格好つけにゃならんですけえ」激怒する山守。「わしが丸く納めようしちょるのにお前一人がぶちこわしよるんど」なだめる村岡。「もおええ。死んだものは帰らんのじゃけえ。広能、よう言うてくれた。こっちの喧嘩はこっちで格好つけるけえ」「すぐ若いもん出しますけえ」そして島田は懲役12年の刑をくらう。

時森がいなくなって勝利がまったくの孤立状態であると見て取った村岡は勝利一派の解散に取り掛かる。勝利は関西に逃走するが、部下の一部は広島に残す。村岡は山中の労をねぎらうため料亭に呼ぶ。「こんなにはいろいろ苦労をかけたのお。東京でも遊びに行くか」「わしゃ広島が好きですけん」「靖子とは会うとるんか」「いや、いっぺんも」そこに靖子が現れる。「惚れあうとる二人で相談せえや。靖子はわしの娘代わりじゃ。大事にせえよ」

二人きりになる靖子と山中。靖子が話し掛ける。「ごめんね。居所も知らせんと。うちはあれからおじさんに勘当されたんよ。マーケットの店も取り上げられて。ここでお座敷商売」立ちあがった山中は帰ろうとする村岡に土下座をする。こうして山中と靖子はよりを取戻す。そして山中に勝利一味の暗殺命令が。勝利のアジトに乗り込む山中。「しばらくじゃったの。往生してくれや」あっという間に三人を射殺した山中は口笛を吹きながら現場を立ち去ろうとするが、張り込んでいた刑事に現行犯逮捕され、無期懲役の刑を受ける。



あれは死んだも同じ人間なんじゃ

さらに村岡組の広島での力は強くなっていくが、黙っている勝利ではなかった。列車に乗っていた広島ヤクザの長老景浦を射殺し、記者たちを呼んで犯行声明を発表する。「それで組長のあんたはどうするの」「わしにはまだやることが残っとるんじゃ」「まだ抗争を続ける気」「市の警察や議員は村岡のケツばかりふいちょる。それを成敗するのが国定忠治以来の任侠道よ」「所詮金目当てなんじゃないの」「広島のヤクザはゼニ目当てじゃないんじゃ」

山中は刑務所で高梨に会う。「伯父貴。どうしたんですか」「冴えん話よ。これが男作ってのお。ちょっと痛めつけたら訴えられてのお。ションベン刑じゃ。そりゃそうと村岡は会いに来たか」「いや」「ほうか。尽くすだけ尽くさせといて、無期にほうりこんでからに」「何でそげなこと言うんです」「こんなが哀れじゃけえ、言うちょるんど。靖っちゃんのことにしてもよお」「靖子がどうしたというんです」

「村岡は靖っちゃんを特攻隊で死んだ亭主の弟と一緒にさせようとケツたたいとるんじゃ。子供も一緒に婚家に帰してのお。式の日取りも決まったいいよったど」村岡は靖子を殴る。「子供のことを考えてみい。先のことを考え」「あの人と二人で考え言うたんはおじさんじゃ」「あん時はあん時じゃ。考えてみい。山中はいつ出られる男よ。あれは無期じゃぞ」「待ちます」「山中のことは忘れえや。あれは死んだも同じ人間なんじゃ。のお。のお。のお」

そして山中は警察病院から脱走する。そのことを聞いた村岡は婚家に戻していた靖子を広島に呼び返す。「あれの脱走の目的は靖子。誰かが中で言うとるんじゃ」脱走した山中と会う村岡。「馬鹿なことをしおって。わしが匿い通せるとでも思うんかい。無期じゃ言うてもよ、18年か20年で仮釈ちゅうこともあろうが」そして松永が靖子を連れてくる。「あんた」と泣き崩れる靖子。

山中は村岡に拳銃を差し出す。「オヤジさん。こいつでわしをぶち殺してください。オヤジさんがわしと靖子の仲を裂こうとしとると高梨の伯父貴から聞いて。わし、オヤジさん、ぶち殺したろう思うて」「納得したら、それでええじゃないの」松永と山中は二人きりになる。「靖っちゃんのことでいろいろ気を回したんか。現にああしているじゃないの。よしんば、靖っちゃんに縁談の話があったとしてもそれを喜ぶのが男ちゅうもんじゃろうが。おお」

「黙って20年も待たせるんか。この世界で留守のおなごのお守りをするんが一番難しいことなんぞ。それで村岡の若い衆と言えるんか。おお」「兄貴。ようわかりましたけん」「ちったあ、大人になれや。はよう自首せえ。24時間以内なら脱獄にはならんけえの」「わし勝利のやつぶち殺したいんです」そこへ松永に村岡組のチンピラが勝利に捕まったという報せが。松永が目を離した隙に山中は姿を消す。

勝利は村岡組のチンピラを小船に乗せて無人島に行く。「こらえてつかあさい。こらえてつかあさい」「われ、山中がどこ隠れちょるか唄わんかい」「ほんまに、知らんのですけえ」そしてチンピラは宙吊りにされる。「ええか。よう見とけ。こんな時に射撃覚えとかんといざという時役に立たんけえのお」拳銃をぶっぱなす勝利。「よう当たるのう。おお」勝利の腹心の中原はあまりの無残さに眉をしかめる。

勢いづいた勝利は村岡を狙撃する。原爆スラムで勝ち誇る勝利。「見てみい。村岡のやつ、手も足も出んようになっとる。勝負をかけるなら今で」「まだ動かんほうがええでしょう」中原は忠告するが勝利は全く聞く耳を持たない。「おお、明日競輪場で役員会が開かれるそうじゃ。そこにダイナマイトを仕掛い。競輪場も村岡も木っ端微塵じゃ」「おお。派手にやっちゃろうぞ」

そして外を歩く勝利を山中の銃口が狙う。太腿を狙撃される勝利。山中は逃走する。痙攣を起して絶叫する勝利。「ちゃんとした医者に見せてもらわにゃいけんです。村岡さんに頼んで手打ちにしてもろうたら」「おどりゃ」「若頭の松永とは懇意にしとるけえ、何とか顔の立つよう話をつけますけえ。お前らそれまで大人しうしとれよ」中原は松永のところに行く。しかし勝利の子分は暴走して、村岡組の経営するキャバレーに銃弾を打ち込む。

そのことを聞いた松永は、今日はオヤジさんは都合が悪くて会えない、と中原に告げる。「ほうか。わしゃ今度の事件でほんまに疲れてしもうた。こっちはいつまでも待っとるで」「ほいで勝利は今どこにいるの」「西じゃ」「車呼んであるけえ、待っとれや」そして中原は車の中で刺殺される。そして警察が勝利の隠れ家を取り囲む。「はなさんかい。この糞ポリ」そして勝利は逮捕され、抗争に終止符が打たれる。村岡組に対抗する組織はなくなったが、新たな敵として台頭してきたのが警察であった。



ありゃ男の中の男じゃ

警察は村岡に圧力をかける。「現に勝利撃ったんは山中じゃろうが。知らんとは言わせんぞ」「じゃが山中捕まえてみんにゃ、わからんのお」「村岡さん。山中には県警本部から指名手配のほかに射殺命令も出とるんよ。あんなが捕まらんと、あんたが全責任とって送検さるんじゃがのお」「あんた、ようわしのそげなことが言えるのお。ヤミ市の三国人騒ぎでわしに泣きついたのは誰なら」「時代は変わっとるんで。いつまでの警察なめとったら承知せんど」

そして呉に逃げた山中は広能と会う。「しばらくじゃったのお。どうしとるんかい」「いっぺん広能さんに挨拶せにゃならんと思うとったんです」東京に逃げることを勧める広能。「いや、そのことなら組が段取りつけてますけど、わしゃ広島を離れとうないんです」「ほうか。じゃが、靖っちゃんのことも考えてみいや」「わしゃ靖子だけ取るわけにはいかんのです。わしはオヤジさんに一生かかっても払いきれない借りがありますけえ」

そして村岡から山中に電話が。「高梨がの、今日仮釈で出てきたんよ」「伯父貴が」「靖子んことでわしが言うとるんと、高梨が言うとるんとどっちを取るんかよう腹を決めとけよ。ありゃのお、あちこちしゃべりまくる男じゃけえ」急いで広島に戻った山中は早速高梨を射殺して、松永のところに逃げ込む。「お前、何をしてきたんなら」「伯父貴をとってきた」「伯父貴いうたら、高梨のことか」

激昂する松永。「この馬鹿たれが。高梨の伯父貴の言うたことはみんなほんまのことで」呆然とする山中。「靖っちゃんを呼び戻したんも、こんなの脱獄したけえ、みんなわしが段取りつけたんよ。とりにいくなら、なんでわしのところにとりにこんのじゃ」訳のわからなくなった山中は雨の中をさまよい歩く。そして山中はパトロール中の警官に見つかり、空家の中に逃げ込む。そして警察は包囲網をしく。

靖子は村岡に泣いてすがる。「おじさん。何とかならんのかね」「落ち着け。来るべき時が来たんじゃ。わしらに何ができるかい」「おじさん。何で行ってやらんの。あの人がやったんはみんなおじさんがやらしたんじゃないかね」「馬鹿もん」靖子をぶん殴る村岡。靖子は松永達に食って掛かる。「あんたらもうちの人を見殺しにするんね。あんたらもはよう自首しなさい」泣き崩れる靖子。そして山中は拳銃を口にくわえて自殺する。

そして山中の告別式が行なわれる。出席する広能。山守たちが山中の噂話をする。「あの山中ちゅうんはシャンとしとったのお。親にも一家にも迷惑かけずに死んどったが、村岡さんもええ若い衆持ったのお」「撃ち合いもせんかったけえ、表彰状もんじゃと警察もいいよったで」「ありゃ男の中の男じゃ」上機嫌な村岡の様子を見て、複雑な心境になる広能。山中は広島ヤクザの典型として今も語り継がれるが、その墓を訪れる人は今は誰もいない。こうした若者の死を積み重ねながら、広島ヤクザの抗争は拡大の一途をとげるのであった。



© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: