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2022.08.02
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カテゴリ: 雑感

柳田国男さんの名著と言われているこの本、父親の蔵書として書棚に埋もれていたが、息子のわたしが有り余る時間を利用して読み始めた。最初は時代錯誤して難解な部分にぶち当たるが、当時の知識や情報収集環境の違いを想像しながら自分なりにバイアスをかけて読むことにしたら、だいぶ気は楽になった。

最初の章は色音論と言うタイトルで、いまの日本人の感覚のもとになったのが色と音だという。江戸時代後期に流行ったものが赤い椿を庭に植え、ウズラをかごで飼ったという組み合わせがこの色音論だそうだ。現代では、日本人はことさら色に敏感で、同じ夕暮れの雲の色が千遍万化する様を捉えてあかね、くれない、などと称して自画自賛するが、実は我々は当時色をはなはだ制限してあまり種類を増やさないようにしていたとの著者の弁である。これは混乱を防ぐことと、当時の染め物の技術が鉱物系、植物系と自然界のものに頼るしかなく、種類があまりにも視覚からはかけ離れていたからではないだろうか。我々が感じる夕暮れの雲の色の種類は、とても当時の染め物師が作れる数を凌駕していた。たとえば俳句で「赤い花」というのは想像するしかないのだが、このあたりの想像力は日本人には現代に自画自賛するような能力が備わっていたのだろう。また著者は言う。もし日本人が低緯度地方で自然の果実や植物の色に遭遇していたら色の数はおのずから増えて色の名前もまたしかりだったはずだともいう。その証拠に、色の数(名称)は外国の方がはるかに多いという。なるほど、例えばレモンは日本になかったが、外国ではLemonyellowとしてあるし、フェルメールで有名な青の顔料はとても当時の日本ではお目にかかれず、ただの青としてしか認識しないだろう。自然界の青を群青とか、紺碧とやったのは独自の日本人の感性だろう。果物のオレンジ色は日本では赤と黄色の中間としか認識されず、オレンジと言う果物から採られた色だとするのは後の話しである。

日本人は色を認識するのに最も多い機会は娘たちの晴れ着だったと言う。染め物師が技術の最先端を活かすのはやはり古今東西若い人たちの着物であった。ここに登場する色以外はまったく蚊帳の外だったのが当時の日本であった。若い女たちの着る晴れ着から柳田はまた鋭い解釈を続けていくのだ。当時の情報収集環境は、せいぜいが旅行か旅行者からの見聞きしかない時代、やはり彼ほどの思想家と言うか世俗評論家はいなかっただろう。

書物はつぎに服装のことを取り上げる。晴れ着は当時(江戸時代)ほとんどの庶民の若い女には無縁で、一番上等な着物を晴れ着としていた。すなわち、女の着物は晴れ着しかなく、水仕事や料理の際には襷を使って袖や裾を詰めて作業着としたとのことだ。晴れ着の中から一番古くて傷んだものを作業着におろすという決断があったらしい。しかしこれは女の分野であって、男の場合は大工や石工、鳶の職業は仕事着と言うのがれっきとしてあり、女性との差が甚だしかったようだ。警官や兵士はいわゆる筒袖付の洋服が用いられ、まず上着から下履きへと変わっていったという。洋服に袴、またはモンペや股引(タコ)といういで立ちから、上下とも洋装になったのはかなりの年月が必要だったらしい。もっとも変革が遅れたのは履物で、これは欧州の履物文化と異なる文化を持つ日本だからこそできたことで、欧州ではほとんど靴は脱がず、方や日本では靴はしょっちゅう脱着を繰り返す。住居と仕事場のあいだを往復するのに最適の履物はぞうり、下駄類であった。旧制高校の生徒の典型的服装はYシャツに長ズボン、ベルトには手ぬぐいをはさみ、履物は下駄であった。明治中期になるとロシア軍人の履くゴム底製の長靴を見て警察官に採用、兵士から一般人へと広がっていったらしい。およそ百年前(この本ができた時期から)はどんな小さな庭先でも椿とウズラのコンビが日本人の精神を慰めていたというのにである。この速さは驚異的と柳田国男は書くのである。今でいうパラダイムシフトを目の前で体験した柳田はさらに住宅へとその観察眼を移していくのだ。






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最終更新日  2022.08.02 17:33:31
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