05/05/21 天子にラブソングを


そう、まさにチームINFINITYの記念すべき初陣である。
先週は慣らしの一本だけだったけど、今日は気合入ってるぜぃ。よっしゃ行くぜ!

天気の方は快晴とは行かないまでも、薄日が射す春の陽気。
富士山も今日はクリアーに見えている。
ショップに着くとあたしはH多さんにこう言ったのだ。

「猪の頭で、飛ばない?」と...

単に、先日貰った川地さんからのMAILに
「猪の頭に慣れておくために、数本飛んでおくように。でないと、川地塾の講習どころではないから」
と書いてあったのがひっかかっていたのだ。
なぜなら、去年の八月から猪之頭で飛んでないのだ!!げげーん!!マジで?全然気付かなかったぁー!!
前山でのビビリっぷりでは右に出るものがいないあたし。
確かに、急に川地塾で飛べって言われても撃沈するかも・・・と、自ら猪之頭行きを希望した。

「ええぇ~猪の頭...?うーん、良いけど...」

と、悩む様子のH多さんを半ば強引に引っ張り、猪の頭に向かう。
よもや、この時の一言がこのあとのあたしの人生を大きく狂わせるとは・・・その時は夢にも思わなかったのだ。

LDに着くと、すでに何回目かのバスが上がった直後だった。
次のバスが下りてくるのを待ちながら、LDから飛び始めた機体を観察していると、何機か前山でソアリングしてはいるが、がつんとは上がってない。
粘りきれずLDする人も。うーむ。渋そぉ~。

でも、あんまり荒れてなさそーだしぃ。安定してて怖くなさそぉ...うふ。

と、内心、(´▽`) ホッ
相変わらずのナメた態度で臨む。

しかし、テイクオフに上がると、
ざっと、15~20機は居るだろうか...次から次へと飛び出したフライヤーが、
前山の前を上昇気流を求めて蚊柱のごとく飛んでいる。
当然、待ちのフライヤーもTOに居るのだ。20人くらい。

げえ~~~やっぱ、人多い~~~...(;´Д`)ウウッ…
やっぱ白糸にすればよかったかなぁ...あたしは早くも猪の頭にきた事を後悔し始めていた。
でも、なんてったってINFINITYだもの、なんとかなるさ...多分。

テイクオフは2~3m。
時折4mくらいの風が入って来ていた。

次から次へと飛び出すパイロットを見送りながら、
うう。緊張してきた。なんてったって去年の8月以来飛んでないんだよ?猪の頭。
しかも、あたし、猪の頭をクロスで出た事無いんだよねぇ。。。
あたしが支度していた時は丁度風が弱い時だったので、すかさずフロントで出ることに。

よ、よーし。行くぜい。よっこいせ~~~~

と、立ち上げるものの。完全にビビリ、最初の引きが弱くて立ち上がりきらず落し、
何にもおかしくないライザーが絡んでいる幻覚を見て落し。

3回目の正直。
今度はバッチリだぜ~っ!

と、思った瞬間。

ブレイクコード長めに戻したのを忘れて当たりきらず、グライダーに抜かれそうになりながらのテイクオフになってしまった。
う~~~かっちょわるぃ~~~~。

前山は戦場と化していた。

あたしは、サーマルへ入っては、小さくS字を書きかけては逃げ。
稜線の上へ近づいては逃げ。
戦々恐々とした前山をあっちへ逃げ。こっちへ逃げ。

おかげで取り立てて上がりもしないが、下がりもしない。

んがぁ~こんなとこで、どーやって回せっちゅうねん!!!

あ゛ーめんどくせえなぁーもぉぉぉ!!!と、あまりの人の多さに、半ばやけくそになって、
高度、落ちたきゃ落ちろい!と、沖に出てみたりする...が、全然下がらないので
しぶしぶまた山に張り付く...を繰り返していた。

我がチームINFINITYのH多さんはすでにこんな混んだ前山を抜けて
西富士へ下がっていったらしい。くそぉ。さすがだ。
何十分経過しただろうか。

次第に風も良くなってきたのか、一人二人と前山を抜けだしたり、LDしたりで
前山が空いて来ていた。

が、その頃。何故かあたしはシンクにはまっていた。
高度はテイクオフより低い、900~950m
疲れ果てたあたしはもぉこのまま降ろしちゃおうかなーなどと脳裏をかすめたその時。

ぐん!とものすごい勢いでキャノピーが上へ持ち上げられたと思った次の瞬間。
ピ・ピ・ピピピピピピピピピピピピピー!!!!

あたしが始めて聞く異常とも思えるその音に、思わずあたしはバリオのメーターを見た。
黒いメモリが、一度4まで行って、次にその下からまたメモリが上がって2を指した。

えーっと、えーと。
ま、 毎秒6m!!?

まんまと餌の付いた釣り針に食いついたタイヤキ君よろしく、
グライダーは有無を言わさないかのように上へ上へと持ち上げられる。
バリオはまだ鳴り止まない。

うああああああ、なんじゃこりゃぁ~~~~~!!
こ。こ。こゎーーーーー

・・・・???

って、あれ?変だな。あんまり怖くないな。

おいおい、怖くないわけ無いじゃないか!!
バリオをよく見ろよ?毎秒6mのサーマルの中に入っているんだぞ?

うーん、でもね、いつもならピッチングに入り、修正に忙しいはず・・・なんだろうけど、大きくはピッチングに入らないのだ。

これって、グライダーが変わったおかげ?

今日のあたしは為すがまま、不思議と冷静にバリオを見つめていた。

その強い強いサーマルの階段を登りきると、テイクオフの上空へ来ていた。
あっという間の出来事に、( ゜Д゜)ポカーン... 。
その後も強いサーマルが続き、怖気づきそうになりながらも、空いた前山上空でまわし続け、ますます上昇していく。

高度は1300に達した。

あわわ、た、高っけー!!

うわーん、どうしよぉ。確か、西富士には250m上がれば行っていいって言ってたよねぇ。。。
ちらりと西富士方向を見やれば、すでに西富士はもぬけのから。
とっくのとうに皆稜線を走っているのである。むむむ。

うーん、うーん。どうしようどうしよう。
高さはあるんだよね。しかも下がる気配がない。

でも、誰もいないからドコをどう飛べばあがるのか解らないよおぉ。

しかし、高くなるとなんだか近くに感じるのだ。後ろの山が。

なんだ、すぐそこかも。。。
と、次第にいけそうな気がして来るから不思議だ。
よし、少しでも下がるようだったらすぐ戻ろう。
と、弱気な作戦を練って、恐る恐る西富士方向を向いた。

気がつけばハングのランチャー台がすぐ目の前にあった。
バリオは相変わらず上昇音を奏で続けている。あたしは尾根をつたいながら少しづつ上っていく。

1400...1500...1600...

西富士が目の前になった。少し低くて、トップではなかったので
その裾で上げなおし、さらに高度は上がり、バリオの高度が1700に達した頃。

あたしは西富士の頂上を見下ろしていた。

これが証拠だ!
写真提供=H多さん

西富士で上げなおすあたしの姿
西富士ゲットの証拠だぁ~~~!!


うああーーーーーーーーーーーーーー!!!

南アルプスが見えるーーーーーーーーーーーーー!!!

雪が、雪がっ。山の上に雪が乗ってるーあわわわ!!

圧巻の富士山。稜線沿いに天子岳が見える。田貫湖が見える。甲府の市内が見える。
しかし景色はあたしの目のを抜け、脳中を通り抜けていく、頭の中は完全にパニック状態だ。

来てしまった。

来てしまった。

独りでこんなトコまで来てしまった。
えーん。どうしよう。このあとはどうすればいいの?

上がり続けるグライダー。止まない上昇音。

あたしは独り、西富士の上で途方にくれた。
何をどうすべきか、教えてくれるグライダーがいない。あたしに向けた無線も、入らない。
この世界でたった一人だけになったような心細さ。
しかしそれでいて、世界が自分だけの物になったような圧倒的な陶酔感。
天子が、全ての景色がものすごく遠くなっていく。
森の木々は平面になり、世界が精巧なジオラマの様相へと転じる。

地球が遠くなる...そんな錯覚に落ちてゆく。
あたしは今、ほんとうに世界を手にしたのかもしれない。

ついにバリオは、2000mを指した。

にせんめーたー????
えーっと、テイクオフが1000mだから...???

しかし、そんな単純な計算も、眼下の景色の中に飲まれ現実味を失っていく。
不思議と怖さはない。「2000」という数値だとか、「高い」という言葉だとか。
そんな表現では(この見開くことしかできなくなっているあたしの目から飛び込むこの世界では)全てがあやふやすぎている、

全ての象徴と拒否反応を起こすんだ。
景色が思考を飛び越えていく。
あたしは一体どこにいるんだろう。
もはや風の音だけがあたしを取り巻く全てだった。

しばらく西富士の上に居たあたしはその2000という数字を見ると、
ふらふらと引き寄せられるように稜線の上に出て天子岳を目指し、機体の向きを変えた。

行くことになるだろう。と。根拠の無い想いが体を動かしていた。

いわゆる、話に聞いていた「鉄塔」が見える。
確か、1500mで超えられるという話だったから、はるかに下ではあるが
さらに強い上昇があったので、あげられるうちに上げておこうと思い立ち、その上でさらに回す。

その時天子の方から、何機かのグライダーが猪之頭方向へと戻ってきていた。

何で戻ってくるの?あたしも戻った方がいいのかな?とたんに、弱気になるあたし。
すれ違った彼等を振り返りたい衝動に駆られながらも、
目は、ただ一点。天子を見ていた。

田貫湖が近づく頃、白糸で飛んでいる何機かのグライダーが見えた。

なんだか、無性にうれしくなってきた。
だって、いつもはあそこで飛んでいるんだ。あたし。
いつも見上げてる世界を、今、見下ろしてる。なんて快感。
皆がいるはずだ。早くたどり着きたい、あたしがここに居ることを誰かに知ってもらいたいんだ。

気は急くがグライダーの歩みが遅い。
風が強いんだ。と、アクセルを引き出し、何度か踏んでみた。
高すぎて対地速度がわからない。GPSも無いし。まーいいか。沈下してるわけじゃないし。と、そのまま飛び続けた。

いよいよ天子岳の裾を通過する。
ここまでくると、白糸で飛んでいるグライダーが良く見える!

果たしてどれほど遠くに来たのだろう・・・

ちらっと、後ろを振り向くと、
すぐ後ろに我がチームINFINITYのH多さんが来ていた事に気づいた。
おお!友よ~~~~!!心配して付いて来てくれたのねっ\(*T▽T*)/

知った顔を見つけ、思わず手を振る。なんとなーくほっとした。
良かった。これで万が一山沈しても、目撃者になってくれる(なんか違)

(でも実は、西富士からずっと後ろ(上)にいたらしい。
いかにあたしが前だけを見て飛んでいたのか良くわかるな...)

そして今、あたしは眼下に天子岳の微笑をみた。

来た!来たよ!来ちゃったよ!!

遂に、あたし、天子取ったぞぉーーーーーーーーーーーーーー!!

・・・のだけど、高すぎて全然実感が無い。il||li _| ̄|○ il||li
だって、もう尾根の一部にしか見えないのだ。怒られそうだけど...。
(そういえば、長者岳がどこにあるのかも気付かなかったぞ・・・)

もうどこら辺で達したのか、認識できなくなっていたが、最終的には、たしかに2200mを超えていた。

さて、取ったはいいけど....このあとどうしよう?

えーっと、このまま奥まで行くとナントカダムとかがあるって言ってたよーな気がするなぁ。。。
高さがあるので、多分、奥まで行っても良いんだろうケド・・・

天子の上空は荒れている。

どうしようか考えあぐねながら飛んでいると、右翼がばさっという音と共に半分ほど潰れ、機体がゆっくりと向きを変える。

のおおおお。こんな高いとこで~~~~。

上昇帯の中にいたので、さほど怖くは無かったが、あたしはいつものように無意識にグライダーの回復を待った。
しかし、つぶれた右翼端だけが完全に回復せず、ばしゃばしゃという音をさせている。

アレ?直らないなぁ・・・???

しょうがないので、右ブレイクをパタパタすると、ただちに機体は回復した。
途端にシンクにはまる。今度は下降音が鳴り続けた。
ブーッブーッブーッ....じわじわ落ちて、高度は2000mを切った。
猪之頭を向くとなんだかものすごく遠く感じる。うっ。。。( ̄x ̄;)
おかしいな、さっきは行ける気がしたけど...あたし...。
かえ...れるかなぁ...

そうこうしている間に、ますます落ちる。すでに1800m。
鉄塔が1500でしょ?そこまでに300落ちたら、上げなおせる自信...うーん、無い!!無いぞお!!

「行きは良い良い。帰りはナントカ」

そんな言葉が脳裏にちらつく。

上空のH多さんを見ると、H多さんは、まだ高度を落とさないまま天子の上にいた。

...よし!!H多さんはきっと猪之頭まで帰れるだろーから、あたしはこのまま白糸に降ろして
迎えに来てもらおーっと♪と、まさに他力本願パワー炸裂。
H多さん、あとはよろしくねーっとばかりにそそくさと機体を白糸へと向ける。

シンクで1500m落ちた。

ううっ。み、耳が痛い(泣)

急激に下がったからなぁ...(ノ_.、)シクシク

しかし、そこからがなかなか落ちない。
白糸はリッジコン。どうやらLDも風が強いみたいだ。
なんだかじれったくなって、翼端を折ってみた。。。

何度か翼端を折ってみたが、やっぱり翼端の戻りが遅い。見慣れたいつもの尾根まで下がると、ちょっと気合を入れる。
今までのパターンだと、LDに何かやらかすんだ、あたし。

ちょうどまぁやLD上でばったり☆
きゃーまぁやぁー!!あたし、猪之頭から来たんだじぇー!
と、言わんばかりに手を振る。

だがしかし、このままだと同時進入ではないか。
ええい、こんな時にっ。

まぁやと同時進入~

写真提供=むぎさん

なんとか、まぁやの後に続いて進入するが、最後の最後で川の方にあおられ。あわや川沈。
ぎりぎり回避し、すぐ川のそばに下りる...が。

へなへなへな....ずるずるざざーーーーーーーーー

腰抜けた・・・
写真提供=むぎさん

立てると思ったら腰が抜けていたらしい。そのまま崩れ落ち、しばらくぼーぜんとしていた。
上半身を起こすと、やっと口をついた

「い・・・行っちゃったよーーーーーーーーー!!」

小屋の前に居た集団に叫び。もどかしくハーネスを脱ぐと、よろよろと駆け出した。

S籐校長を見つけると、

怖かった。怖かったよぉ。あたしね、来ちゃったの、猪之頭から、独りで、白糸まで。
誰もいなくてね。高くてさ、2200mもあってね、
今まで前山抜けられないどころか1300そこそこが最高高度だったあたしがね。

何を喋っているのか自分でもよくわからない。
S籐校長を前に、緊張の糸が切れたのか、ぶわっと感情が涙となって溢れ出した。
自分でも呆れるほど、ぼろぼろと涙が玉のようにこぼれ落ちていく。
まさかもうパラで泣く事があるとは思わなかった。
どうしても嗚咽を止めることができない。

長くパラをやっているが、全くはじめての感動だった。
胸がわくわくする。まだこんな世界が残っていたんだ。
さっきまでの怖かったという感情が。次第に楽しかったという想いに変わっていく。
足からじわじわと興奮がつのってくる。

パラ。やっててよかった、諦めないで良かったよー。
INFINITY、買ってよかったよー。

うあああああああああああああああん。゜(゜´Д`゜)゜。

パラって、パラって楽しいねぇぇぇ~~~~~~~~!!!


結局その後、H多さんもシンクにはまって、白糸に降ろした。
話が違うやんけ。こらぁ!!どうやって猪之頭まで帰るねん!!(なんて身勝手な)

何はともあれ、H多さんと記念写真をぱちり☆
なんてったって、チームINFINITY最初のフライトが猪之頭~白糸フライトだじぇ!!

チームINFINITY。降り立つ!
写真提供=H多さん

そんなわけで、大体1時間半~1時間45分ほどのフライト。
(半分以上は前山磨き。)でした。
一本で、十分です。おなかいっぱいです。もう無理です。

しかも、いきなりの前山脱出→西富士→鉄塔→長者→天子の2200mと、ごぼう抜き。
ドラクエで言えばいきなりバラモスです。わかりませんか、そうですか。

INFINITYに変えて、精神的にも楽だったのもあるけれど。
多分、ラッキーだったのでしょう。だって、苦労らしい苦労してないんだから。
しいて言うなら、勇気を振り絞ったことかいな?
あたしにしては根性出したと思うのよ~。ほんと、抱きしめてよしよししてあげたいくらい。

次回、まぐれだと言われないように頑張らなくては・・・。

でもね、ほんとにすごいんだよ。2200mの世界って。
あんな世界があったなんて、あたしホントに知らなかった。
今でも夢を見ていたんじゃないかって、何度も疑ってしまう。
パラを始めてからというもの、色んな人の色んな話を聞いて、いつかあたしもと、漠然と抱いた不安と憧れが、
今日、現実となってあたしの前に降りてきたのだ・・・なんて幸運。なんて幸せ。

生きてて良かったーーーーーーーーーーーー

ああー書きながら、顔のにやけを抑えるのに必死。
また飛びたくなってきたよぉー!!うずうず!!







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