空、風、鳶とパラグライダー Hokkaido Japan paraglider

スカイ・ハイ(三)



 バリオメーター(昇降計)が気の抜けた声で鳴いている。高度は瞬く間に下がった。二千メートルあったのに千メートル近い。どこかで早く上げないととてもニセコへは届かない。ひと息に真狩市街を目指したが無理だ。大橋はそう判断すると北に位置する軍人山を目指した。五百六十二メートルの小さな山だ。うまくすればここでいくらか高度を稼げるだろう。南風に追われてスピードは一気に速まった。
 右手にはテイクオフした橇負山の頂上が見えている。赤い機体がちょうど斜面のあたりにある。その上空には数機のグライダーがリッジソアリングをしている。鳴りっ放しのバリオを見ると既に百メートル下げている。軍人山に上げがなければ近くに降りる外ない。畑や林の間には空き地らしき場所が見えている。けっこう条件はいい、と大橋は思った。ぎりぎりまであきらめないと言う冒険はしたくない。はじめてのクロスカントリーなのでやはり不安が先立っている。野焼きらしい煙が北へたなびいている。相変わらず南から風が入っているのだ。この調子ならたぶん上げがあるだろう。
 ふもとの上空三百メートル付近に来た時機体を西に向けた。もう斜面上昇風があってもおかしくないところだ。そのまま左旋回を掛けると機体がグンとつき上げる感覚があった。やった。思わず大橋はほくそ笑む。これほどのラッキーはそうそうない。すかさずブレークコードをそのまま固定した。機体は一回転した。少し急だったせいか不安定な揺れが起きた。左手を軽く緩めて右翼端をかすかに抑える。すぐに安定した回転を取り戻す。既に百メートルはゲインしていた。西に流された機体を東に持っていくとまたしても力強いサーマルが待ち構えている。即座にその上昇気流の柱を捉えたのは言うまでもない。今度は右に回しながらその中に納まっていた。さっきの物より格段に力強い。瞬く間に三百メートル上昇、バリオは甲高い声で上昇を知らせている。
シャトー・ド・キュガ・キュヴェ・フルール 2002(750ml) シャトー・ド・キュガ・キュヴェ・フルール 2002(750ml)
 十分な高度を獲得したので今度こそ一気にニセコを目指す。安定した大気、晴れ上がったおかげで思わぬサーマルのプレゼントも期待できる。大橋は緩やかに体重を移動して機体を西に向けた。
「大橋君、気持ちよさそうに上げてるね」
 突然無線が聞きなれた声を運んできた。このエリアで知らぬ者のないフライヤーの声だった。
「あっ、坂本さん。絶好のサーマルを見つけました」送信キーを押してすぐに返した。
「君の少し下なのだよ。ソリオイ寄りの」
「そうですか、…ちょっと見えないのですが」首を回したが真後ろは見えない。
「アア、いいよ。ところでこれからニセコだよね」
「はい、初めてなんですが」
「はじめて、それは意外だ。あれだけ飛んでるから、もう何回も行ったのかと思ったよ」
「坂本さんもこれから行くんですね」感度がとてもよい。
「まあ、そう思っているのだけどね」
「いやー、心強いなー」
「僕も君が少し先に飛んでダミーになってくれて助かるよ」
「それじゃよろしくお願いします」
「こちらこそ」
 二千メートル近い高度をとって大橋は余裕を持って飛行していた。後ろには軍人山へ向かう坂本の青い機体が見えた。イスラエル製の高性能機だ。大橋の機体はドイツ製の中級機と言うべき性能を持っている。それでも最高時速は五十二キロメートル出る。まだその最高速度を試したことはない。
シャトーフォンバデ 1998 シャトーフォンバデ 1998
 雲がいくつか浮かんでいる。一番近くのものがサーマルを吸い上げているかもしれない。進路を少し北に向けた。南風の影響でサーマルが北になびいている可能性があるのだ。大きく右にバンクしてすぐに大きな上昇気流をつかんだ。一気に三百メートルゲイン。目標達成が目の前にあった。
 初めてのクロスカントリーがこれほどうまくいくとは正直思わなかった。もちろん気象条件に恵まれたことが第一だったが、それなりに腕が上がったのかもしれない。大橋はパラグライダーを始めて三年目に大きな自信を持ったのだった。
ブルゴーニュ・シャルドネ・ビゴ[2004]ドメーヌ・ド・シャソルネィ ブルゴーニュ・シャルドネ・ビゴ[2004]ドメーヌ・ド・シャソルネィ


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