空、風、鳶とパラグライダー Hokkaido Japan paraglider

スカイ・ハイ(七)



 子供たちをめぐっては、比較的家庭環境の安定している地域でもいろいろな問題がおきる。地域や社会問題、あるいはどこかで世界情勢ともつながっているかもしれないからだ。特にティーンエイジャーはそれでなくともいろいろな問題を起こす。
 その年、春子は三年生を持っていた。進路の選択などで子供はかなり神経質になっている。就職する子供はいなかったが希望通りに高校を決められるものは限られている。前期二回の模擬試験で大体どの学校へ行けるかは決まるのだ。人数的には高校全入、大学全入とも言われるほどの変化があったが、戦後教育でこれほど変わらない入試制度も珍しい。特別目立った特徴もない生徒にとって試験でどれだけ点を取るかは相変わらず人生をかけた重大事だった。
 試験当日はクラスに関係なく受験番号に従って教室が割り当てられた。春子は自分のクラスの生徒が数人いるのは分かっていたが特に意識することも無く監督していた。問題がおきたのは三科目目の国語のときだった。
 春子のクラスの高木の周りがにわかに騒がしくなった。
「先生、ケイタイを使っています」一人の男子生徒が大きな声を出した。
 何のことかすぐには分からなかったが、近づく途中で携帯電話がらみのことだと直感した。韓国で大掛かりなカンニング事件があったというニュースを聞いたばかりだったのだ。
 ケイタイ画面にはそれらしきものは何も表示されていなかった。キャラクターの待ち受け画面だけだった。見られる直前に切り替えたに違いない。
「試験中のケイタイ使用は禁止のはずよ」春子はそういってそれを取り上げた。
へヴンヒル 4年 43° 750ml(4/5) へヴンヒル 4年 43° 750ml(4/5)
 高木は不服そうな顔をしたがそれ以上の抵抗はしなかった。試験会場がこれ以上混乱するのは一番避けなければならない。春子は何事も無かったかのように教卓に戻った。
 ほかの監督教師と連絡を取りながらどうにか模擬試験は終わった。調査の結果分かっているだけでも十五人がこのカンニング事件に関係していた。この中学出身の高校生が一枚かんでいて、この高校生が答えを送信していた。中学生がケイタイで撮影された試験問題をパソコンに転送し、その答えをこの高校生が回答してそれぞれの契約者に送っていたのだった。
 この高校生は一人から一万円を取っていた。最低でも十五万円の収入があったことになる。誰が主導してこうした不正を働いたのか真相はなかなか分からなかった。
個々の生徒の発言の断片をつなげると、初めて試験問題を撮影したのはかなり前だったようだ。それをパソコン好きの友人の兄へ送ったところ回答して送り返されたらしい。
「ビジネスとしてやりました。ニーズがあったからやっただけです」高校生は応えた。
「ニーズがあれば何をやってもいいということにはならない。そこはどうなんだ」教頭の石川は聞いた。
「もちろん犯罪行為は許されません」高校生は続ける。「しかし、僕は何も犯罪を犯していません。契約自由の原則に従って商行為をしたに過ぎません」
 高校生は悪びれるところ無くあくまで自分を正当化するのだった。自分の送った回答がどのように使われるかはあずかり知らないというのである。実際知らなかったかどうかは犯罪行為を実証する場合重要ではあったがそれ以前の問題、モラルの問題としてかたづけようとする学校側は困っていた。結局高校当局へ引き継いで解決を図るほか無かった。
問題は中学生なのである。
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 最終的にこのカンニング事件には二十三人が関与していた。クラスによってばらつきはあったがほぼ全クラスにわたっていた。春子のクラスでは七人が見つかったがその動機は予想に反していろいろであったのだ。試験の成績ではトップクラスのものが三人も入っていた。理由は自分の答えが本当にあっているかどうかの確認だったと言うのである。他の四人も一様ではなく二人は保険として活用したといい、付き合いでやったという者もいた。本当にケイタイからの答えを頼りにしていたのは一人もいなかった。
「どうする。まったく問題が無いということにはならない」学年会議で小山が言った。
「フェアではないという一点しかないのではないでしょうか」春子は言った。
「ケイタイをオフにしておくルールにも違反している」宮部が眉間にしわを寄せていった。
「親と連絡しあって順法意識を高めるしかないな」小山がつぶやく。
 結局ケイタイの教室での使用停止と関係した生徒の試験無効を結論としてこの事件は一応終結した。春子は何か割り切れないものを抱えていたがそれが何かはっきりしないまま受け入れた。
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