MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「メビウスの輪」15

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久しぶりに彼から電話がかかってきた。

私もかけなかったけど、彼からもかかってこなかったから、

少し不安になってきたところだったのだ。

「幸恵、元気?」

心なしか元気がない。

「元気だけど、信吾こそ元気なの?」

つい労わるような口調になってしまった。

カウンセラー口調かな。

「まあ元気だよ。」

信吾はめったに弱さを見せようとしない。

でも、今日はなんか言葉に勢いがないのだ。

「でも、疲れてるみたいだね。」

「少しね。嫌な奴にあったから、

精神的に疲れちゃったんだよ。」

「どんな人?」

「幸恵の兄弟さ。」

言い捨てるようにつぶやいた。

「私には兄弟なんて居ないわよ。」

私は一人っ子なのだ。

「お父さんの愛人の息子さ。」

そういえば、兄弟にあたるんだっけ。

「あんな人、兄弟だと思いたくないわ。」

「そうだろうけど、半分は血が繋がってるんだろう。」

「そんなこと分かるもんですか。

父があの女に騙されてるのかもしれないし。」

つい強い口調で言ってしまった。

許せないのだ。

「そうだよな。そんなことは女にしか分からない。

DNA鑑定でもしないと、男には確証がないってことか。」

「女にだって分からないわよ。複数同時ならね。」

「すごいこと言うな。幸恵はないだろ。」

「まだ誰とも経験ないもの。」

威張って言うことじゃないか。

「俺にはいつ許してくれるんだ?」

急にそんなこと、押し殺したような声で言わないでよ。

「結婚を決めたら・・・」

消え入りそうになってしまった。

「もうお互い結婚するつもりだろ。」

「でも、具体的になってないじゃない。」

私は逃げてるのかしら。

「分かったよ。この話題は堂々巡りだからな。」

信吾が諦めたように言ってくれてホッとした。

「そういえば、その愛人の息子がどうしたの?」

重苦しい雰囲気を変えるために、話題を振ってしまった。

「啓一か。嫌味な奴だぜ。

なぜだか俺達の仲を知ってるんだ。

それで牽制してきたってわけだよ。」

「どういう意味?」

「『次期社長は僕がなる。君は幸恵と結婚しても、

社長にはなれないよ』って、お高くとまってるんだ。」

「そんなこと父が言ったのかしら?」

「社長の意向だと言ってたけど、どこまで本当なのか。

でも、確かに営業力は悔しいけどトップクラスだから、

実力・コネ共に社長候補かもな。」

「信吾だって、営業なら負けてないんでしょう。

コネだって、私と結婚すれば婿養子になれるんだし。」

「それだけで社長になるのもな。」

「社長になるために結婚すると言われても寂しいけど、

ならないのなら、この会社に入ってもらう必要はなかったかな・・・」

急に信吾に申しわけなく思えてきた。

彼なら、もっといい会社に入れただろうに。

「幸恵のせいじゃないよ。

俺が決めたことだからな。」

「ありがとう。でも、もし社長になれなかったらごめんね。」

「社長云々より、奴に負けることの方が悔しいな。

馬鹿にされたままでは終わりたくない。

まずは営業成績だけでも抜かさないとな。」

「そうよ。信吾だったら、きっと出来るわ。

でも、無理しないでね。」

「大丈夫だよ。幸恵がついててくれるんだろ。」

「うん。このごろ電話しなくてごめんね。」

「それはお互いさまだよ。新人の頃は、

仕事覚えるのに精一杯で余裕がないからな。」

「信吾は今、余裕あるの?」

「奴と張り合うためには必死にならないと。」

「そうだよね。ますます忙しくなるのか。」

「寂しかったら、電話かければいいじゃないか。」

「だって、留守番電話が多いから、

かえって寂しくなるんだもの。」

「仕事中だからな。幸恵だってそうだろ?」

「私は非常勤だから、週3日だけだよ。

スクールカウンセラーは非常勤がほとんどだから、

週3日なんて多いほうだけど、その分時給が低いの。

卒業生というだけで、優遇されてるのか、

こき使われれてるのか、よく分からない。」

「幸恵も仕事の愚痴言うようになったら、一人前だな。」

社会人の先輩らしく、鷹揚に笑った。

やはり、信吾は頼もしいな。

一つ年下とは思えない。

彼が大卒で、私が院卒だから、

1年私の方が就職遅かったのだ。

臨床心理士の資格取る為にね。

まあ、仕事だけでなく、

精神年齢からかもしれないけど。

本当は甘えたくて仕方ない。

「信吾、逢ってくれないかな。」

「いいけど、今日はまだ仕事終わってないんだ。」

「今日じゃなくていいよ。

信吾の都合いい日に合わせるから。」

「そうだな。やっぱり週末の方がゆっくり出来るな。」

「仕事帰りだと、時間ないものね。」

「休日出勤や接待ゴルフもあるけど、

日曜なら空いてるかな。」

「良かった。じゃあ、日曜日ね。」

「幸恵はいいのか?」

「私は暇だもの。仕事の勉強とかはあっても、

いつでも出来るから。」

「久しぶりに遠出しようか。どこに行きたい?」

「海に行きたいな。今は入れないけど、

波の音が聞きたい気がする。」

「そんなこと言って、足だけ入る癖に」

と笑ってる信吾が目に見えるようだ。

以前行ったとき、思わず靴を脱いで入ってしまったのだ。

「前に海に行ったのはいつだっけ?」

「お互い学生の頃だから、2年くらい前か?」

「もうそんなになるの。懐かしいな。」

「また、千倉の海でいいのか?」

「今は花咲いてないよね。」

「まだだろうな。温室だったら咲いてるかもしれないけど。」

以前行ったときは、お花畑で、花摘みもしたのだ。

「やっぱり千倉がいいな。」

「いいよ。レンタカー借りてくよ。」

「まだ買わないの?」

「結婚資金貯めるほうが先だろ?」

彼は経済観念がしっかりしてるのだ。

私のような甘ちゃんじゃない。

「私も貯めなくちゃね。」

「非常勤じゃたかが知れてるだろ。」

「馬鹿にしないでよ。無駄使いしないもの。」

本当に彼と付き合いだしてからは、

ブランド物とか買わなくなった。

そんなの虚しいと分かったから。

彼がバイトして買ってくれる

ささやかなプレゼントが嬉しかったのだ。

「お嬢さんも成長してきたな。」

「だって、信吾のお嫁さんになるのが夢だから。」

「嬉しいこと言ってくれるよな。

仕方ない、それまで我慢するか。」

そういうことまで笑い飛ばしてくれる信吾が好き。

ありのままの私を受け入れて、許してくれる。

以前付き合った男性達は、ここでさよならになってしまうのだ。

私はやはり性的虐待に遭ってたのだろうか。

記憶が定かではないが、

このセックスに対する恐怖心はどこから来てるのだろう。

私こそ、カウンセリングにかかる必要があるのだよね。

彼が強要しないのに甘えて、

いざと言う時まで拒んだらどうしよう。

それまでに治しておかないと。

信吾もうすうす分かっているから、

無理は言わないのだ。

言葉少なになっていたのだろう。

「大丈夫か?」

信吾の声で我に帰った。

「ごめんね。ボーっとしてたの。」

「幸恵は夢の世界に入り込んでしまうからな。」

笑って言ってるけど、

労わってくれてるんだよね。

信吾の愛情に応える為にも、

なんとかセックス恐怖症を克服しないと。

男性恐怖症は信吾のお陰で少し良くなった。

まだ、他の男性は苦手だけど、

以前よりは大丈夫。

触れられるのはダメだけど。

信吾ともキスまでは出来たんだよね。

それ以上はまだ怖い。

それに、中途半端は信吾も辛いよね。

私も残酷かな・・・。

中学生じゃあるまいしとは思うのだけど。

待ってくれてる信吾だけは信じられる。

もう少し待っててね。

続き


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