「歌」
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「みなもに名を書きしもの」は、最後の方にあります。
また、前奏をつけ、キーを下げて録音しなおしてみました。
聴いてみてください。
希望は捨ててはいけないと思っているので、
この曲も最後のエンディングには、転調で明るくしました。
一抹の光が見えれば、嬉しいです。
詩も、逆説ということもあるかもしれません。
先日日記で、梶井基次郎の「櫻の樹の下には」を引用しましたが、
私って、結構こういう暗いというか、
病的なものに惹かれるところがあるのかもしれません。
ちょっとのぞいて見たい方は日記をクリックしてください。
「おもかげ」の曲も聴けます。 日記
明るく見られるのですが、ちょっと?根暗なのかもしれませんね。
でも、誰にでも、そういう影の部分はあると思います。
見たくはないのだけどね。
「みなもに名を書きし者」作詩 回覧板さん
わたしのこころのなかには
いろいろな
花が咲いていて
その花咲き乱れる花々の奥に
ふたつの悲しい死体が横たわっているのを
あなたはご存知だろうか
このことは
いつかあなたに
話さねばならないと思っていました
若い男女の死体が
おおきな湖のほとりに
こっそりと、置かれてあるのです
このふたりは
同時に死んだわけでは
ないのです
と言うのは、
男は湖のほとりに
指をかざして、死んでいましたし
おんなは
それからすこし奥のほうの
花々のなかから、見つかったのです
最初に、この花々の群れのなかで
死のうと言ったのは
おんなの方からでした
おおきな瞳を、タバコの煙で
煙たそうにしながら
ふてくされて
男に毒液を手渡したのだそうです
正直に言うと
男はまだこの世に未練がありました
「もう一度だけ愛し合いたい」
喉に出掛かったことばを
ふたりは一気に
飲み込んだのです。
けれども
死んでしまったのは
おんなだけだったのです
生き残ったおとこは
惨めにおんなを抱き寄せて
泣いて暮らしました
不気味な獣の遠吠えが
闇夜の倦怠を剥離したとしても
しばらく
みなもを眺めて
いたのでした
あなたが
わたしのことで
ずいぶんと首を傾げたのは
わたしのこころのなかに
こういう男が座っていたからです
この男は
みなもに
いくどもいくども
死んだおんなの名を書いていました
だれもが
死んだおんなに
「いのち」が宿っていたことを知らなかったのです
死んだおんなでさえも
知らなかったのです
やがて銀竜草が枯れ果てて
秋が湖にささやく頃に
残された男は
ゆっくりと起き上がって
何を思ったのか
ふたたび、いっきに毒物を
飲み干したのでした
そして、
そのまま、突っ伏したかとおもうと
二度と起き上がって来る事は
ありませんでした。
わたしのこころのなかには
いろいろな花が咲いていて
その咲き乱れる花々の奥に
もう
忘れ形見のような
湖がひっそりとそよいでおります
わたしは長い間
この男は
律儀でやさしすぎる人間だったから
おんなとの約束を
守ったものと思っていました
そうでなければ
一人で死ぬよりも、逃げ出したことでしょう
そうでなければ
ひとりで死ぬよりも、逃げ出したことでしょう
けれども
あれからずいぶんと年月が経ち
ふたたび
この湖のほとりに
たたずんでみると
わたしにも合点のいく
分り始めたことが
出てきたのです
わたしの
こころのなかには
いろいろな花が咲いていて
その花咲き乱れる花々のなかから
とても、めだたなくて小さな花が
すすりなく声が聞こえてくるのです
母におきざりにされた子供のように
私を呼んでは離さない
ちいさなちいさな花が
泣きじゃくるのです
泥だらけの顔をして
震えながら
私の腕をつかんで、
呼ぶのです
「わたしのお父様になって!」と