柔らかい水 封神演義番外編28




赤の記憶が。
想い出の総てを支配する炎が。
僕を飲み込む。

廃墟の風景。



柔らかい水







体は汗で濡れていた。夜着が張り付き、ひどく不愉快な気分だった。

(何度繰り返せばいい)

答はない。
目の前に突きつけられる、その事実だけが痛い。
これは。
途切れることのない罪悪感だ。憎悪だ。復讐心だ。
熱を持った肌は、既に冷え切っていた。
身に纏う白い布を握りしめる。
(……寒い)
もう、眠れそうになかった。



外の風は寝具にくるまれていた躰に厳しい。
飛ばされないよう上着を掴む手は悴んできている。
(何をしているのだか)

「望ちゃん?」
ふうわりとした声。
この音色が自分の名を紡ぐのが好きだ。
「普賢」
名を返し、何とか同僚の顔を見る。彼は何時も通りの優しげな表情をしていた。
「相変わらず不眠症?」
「もどき」
「こんなとこにいたら風邪ひくよ?」
「人のこと言えるのか?」
「言えないかな」

彼は楽しそうに笑う。
自分は…失敗した。普段の軽口が出てこない。脳の動きが鈍くなっている。
表情を造る回路はどこへ行った?

「無理することないのに」
誰が、何を。
お互い解りきっている符丁。小さな親切余計なお世話?
「それこそ人のこと言えるのか?」
「僕無理してないし」
「嘘つけ」
「あ、バレた?」
「わかりやすいんだ、おぬしのは」
「でも望ちゃんほど優しくないし」
「…その逆接はどこにかかるのだ」
「さぁ?」

火を消すには。
水をかけてやれば良い。
土に埋め、もう一つの世界に帰してやれば良い。
燃えるというなら燃やしてしまえ。
その上に、新しいものを創れば良いのだ。

「浮上したみたいだね」
「今は、な」
天輪を掲げた彼は、苦笑したようだ。
「強情だなぁ」
「おぬしには言われたくない」
「そう?」
「そう」

触れるほど近くに彼の存在がある。
包まれる空気。
二人でいれば、この高い空の上も寒くなかった。



繰り返す赤い夢が、己の色彩を染めてしまったとしても。
彼だけは。
その水の色を消しはしないだろうと。
どこかで確信を持って言えた。

例え、ただの夢であったとしても。










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