夏候惇の自室のふすまを、誰かがこんこんと小さく叩いた。

 『誰だ…』

 『元譲…居るか…?わしだ、曹操孟徳だ』

 『も、孟徳っ!?』

 あわててふすまを開ける。

 そこには、いつもの変わらない曹操(5歳)が自分を見上げていた。

 『元譲…なぜ外へ出んのだ?身体に悪いぞ』

 『孟徳…俺が嫌いになったのではなかったのか?』

 『そっ、それは言葉のあやというものだ!そもそもお主が悪いのだ!司馬懿なんぞに肩車するから!!!!』

 ぷぅ、と頬を膨らませて涙目になり、そっぽを向く曹操。

 どうやらいつもの嫉妬らしい。

 『…どうせわしなど…どうでもいいのであろう!?』

 『あー、すまん孟徳。俺が悪かった。』

 不器用に曹操の頭を撫でる。

 『…わかればよい』

 どうやら機嫌は直ったらしい。

 孟徳は単純なところがある。そこがまた面白い。

 『どうだ、孟徳。昼寝でもせんか』

 『うむ!わしとて、そろそろ眠くなってきたところでな』

 やはりまだまだ子供だな。すぐ眠くなる。

 自分の枕を曹操に貸してやる。たかが昼寝に、俺は枕なぞ使わん。壁にもたれかかって、あぐらをかいて寝るほうが楽だ。

 だが、貸した枕は曹操にはちょっと硬かったようだ。

 『元譲~…この枕ではちと硬いぞ…首が痛い』

 『ううむ…そうか…』

 どうしたものかな…と考えていると、曹操はなにかひらめいたらしく、こちらに近づいてきた。

 『? どうした?』

 『昼寝をするのなら、ここが一番良い!』

 『…そういうことか…考えたな孟徳』

 曹操はなんの遠慮もなく夏候惇の膝の上に乗っかってきた。

 その時、曹操に足の小指を踏まれてちょっと痛かった。が、ここは我慢した。

 夏候惇はあぐらの姿勢だったので、曹操にとってはゆりかごのようなものだった。

 『ふふふ、どうだ!こんどこそ司馬懿には負けんぞ!!!』 

 『変なところで意地をはるな…馬鹿かお前は』

 『なにをぅ!?そもそもお主が』

 『あ゛~…わかったわかった俺が悪かった。さっきも言っただろうが。…わかったらさっさと寝ろ』

 『むぅ…うむ、それもそうだな。では寝る。』

 そんな会話をした後、すぐに曹操は寝たのが感覚でわかった。

 『さて…俺も寝るとするか… 昼寝とは、ひさびさだな…』



 その4時間後に起きた2人はもう外が暗くなり始めていることにすぐ気づき、

 夕食におくれてはならんと猛ダッシュで駆けていったそうな。




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