外資系経理マンのページ

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小説(15)


「あぶないっすね」
高山はそういうと、灰皿をとって洗い場の脇にある吸い殻入れにそれを捨てにいき、かえりに雑巾をとってきて、机のうえにちらばった、たばこの灰をきれいにふきとった。
「誰なんでしょうね」
松田には、それが安藤とすぐにわかった。吸い殻はセブンスターという安藤お気に入りのたばこだったし、フィルター部分を噛む癖が安藤にあり、まさに噛んだあとのあるフィルターのやまだったからだ。
安藤はいったいなにをしていたのか?
サンドイッチをほおばり、パックのコーヒー牛乳をひとのみしたとき、社員がはいってきた。この感じだと6時と同時、松田とそんなに違わない時間に出てきたのであろう。しかし、そのなかに赤城と安藤の姿はなかった。安川もいない。
3人が姿をみせたのは7時近くになってであった。
「みなさん、おくれてすみませんでした」
安藤がホワイトボードを背にしゃべりはじめた。前回、はじめてみたいきいきとした姿をみたが、いま、松田の前にいる安藤は、ストレスをためにためた仕事中の安藤ともちがうし、先週の安藤とも違う。
「結論からいうと、江頭はやめる。それ以外は明解な回答は得られませんでした」
「それにしては、ながかったっすね。話のながれを説明してくださいよ」
開発の神野が、立ち上がった。
「深田がさあ、のらりくらりで話の行く末が見えないんだよ。ま、どうにか江頭のクビはとったってかんじでさあ」
 安藤にかわって、安川がしゃべった。
「でも、やめるというけど、どういう理由でやめると言ったんですか?そこんとこがわかんないと、クビとりました。シャンシャンとは、俺的にはいかないなあ いつづけなのか、ロンドンはなんだったのか、あしたから江頭はアンテラと縁がきれるのか、ぜんぜん見えないよ」
 それは神野にかぎらず、全社員が煮え湯を飲まされているといっていいなか、きわめて素朴な質問だった。だれもが、程度の差こそあれ、嫌悪は抱いていても、プラスの感情はいだいていなかったからだ。だから、江頭がやめるといわれても、結局、江頭が深田のそばにいるかぎり、深田はかわらないという気持ちにならざるをえなかった。
「それでさあ、ここで、はかりたいんだけどさ」
安川は、安藤が方向がさだまらなくなると、軌道修正をはかるべく話のながれをかけてきた。
「おれもさあ、深田の野郎の姿勢がきにいれねえんだ。はっきりいって先週みんなときめた1 江頭と縁を切る 2 個人的な支出は精算する。このふたつだけど、きょうの深田の話はこたえにやなってない。おれたちをなめきってるとしかいえねえ。俺ははらたってしかたねえ。やはりアメリカ本社に告発のファックスを流そうじゃないか?」
安川のこのひとこで,流れはできてしまった。というか安川のシナリオ通りに話はすすむことになる。


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