外資系経理マンのページ

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5  松林美佳



あの女を、探さないといけない。

しかし、わずか10分といえども、この広い新宿。彼女が、新宿のどこに向かおうとしていたか、時間がたてばたつほど選択の幅は広がりをもってくる。柴ひとりでは、到底、探し出すのは難しい。

彼女が買った20枚に当たりが含まれている事も考えられる。夢のお告げが本物だったとしたら、20枚の中に当選のくじが含まれていることだってあるはずだ。逆をいえば、柴が持つ980枚のくじで、1億を手にできる100%の保証はない。

それに最初に会話をかわした女でもある。やはり、探しだしたい。

しかし、どうやって探せばいいというのか。途方に暮れた。

柴は、朝をまだ食べていないことに気付き、京王線のコンコース近くにあるスタンド式のカレー屋に入った。

探すににしても、まず、胃になにかを入れないと、いい考えも湧いてこない。

370円の朝食セットをレジでオーダーし、ほどなくして案内された場所で、外をゆく人をながめながら、スプーンに盛ったカレーを口に運んだそのときだった。

 あっ、あの女だ。

「柴じゃないか?おまえこんなところで何をしてるんだ?」

 気が付くと、営業の栗田が、店員に案内されて横のスペースにいるではないか。なんとも、まが悪いとはこのこと。しかし、いまは、そんなことかまってられない。

「ちょっとな、きょう先をいそぐから悪いな」

まだ、スプーンひとさじほど食べただけで、ほとんど胃袋には、残骸物さえも残っていない状況で、柴は出ていかざるをえなかった。

あの女、このタイミングを逸すれば、会えるかどううかわかったものではない。半分あきらめていた分、ラッキーだった。

栗田が後ろのほうでなにやら話しているのはわかったが、柴は無視した。

外にでてN証券の前のエスカレーターを使い、地上にその女は出ようとしていた。走って、駅のコンコースを横切ろうとしたが、高尾山あたりでもいくのか、幼稚園児の団体が、行く手をさえぎった。

エスカレータに乗った彼女の存在が、視界からきえかかろうとする。柴は、園児の間をくぐりぬけて、エスカレータにたどりついたが、彼女はすでに一階に辿り着いたらしく下から覗き込んでも見えない。

走ってかけのぼったが、どこにも姿はみえなかった。

翌日、柴は会社にでた。休む理由が浮かばないからだ。それに、現実的な問題として、宝くじの件が、冷静になって考えると、どこまで信用していいのか、わからないからだ。確かに100万円は、スクラッチで当たった。しかし、それはたまたま偶然かもしれない。夢でお告げがあったといっても、100%鵜呑みにしていいのか、疑問にも思えたからだ。ましてや、地球が終わる話など。

会社はきのう彼が休んでも、普通にまわっている。100万円はあたったが、18万円は2億円の宝くじを買ったものの、82万円が手元にある。

ま、これでうち止めにしてもいいかもな。そう柴自身、思いかけていた時だった。

「だいじょうぶか?」

だれも自分のことは気にかけてくれないんだ、とパソコンを立ち上げメールを見ようとしているとき、声をかけてきたのは総務部長の平田だった。あいかわらずの見事なまでに禿げあがった頭をなでている。

「なにか?」
「きょうから経理課に配属になる松林美佳さんだ」

柴は、息をのんだ。あの女だ。


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