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国境前夜


ハルピン以後は、この大慶ふくめて、まだ、8月の上旬というのに、セーターなしではホームに降り立っても、震えるだけで、降り立っても、すぐに客車に戻った。そう、はく息が白かったのを覚えている。

ただ、駅名は失念したが、小さな駅に臨時に停車したときのこと、窓からその駅の様子をみていると、鉄の柵のむこう側に、人陰が何人か見えた。身長は大きな人、そしておそらく子供であろうか、低い人が10人ほど、そして後ろにも人がいるようには見えたが、暗くてわからない。なぜか、暗いんだけど、鋭い視線が、自分というよりもその列車にそそがれていた。

いまもって、その一団がなんだったのか、やけに記憶の片隅からときに、思い出させてくれる。

国境越えの前夜。大興安嶺を、おそらくハルピンでみた蒸気機関車が、ときに、煙りを吐き出しながら、ぐんぐんと行った感じでのぼっていく。このあたりは、終戦まぎわ、ソ連との間で戦闘があったあたりではないかと思う。外は漆黒の闇。その窓ガラスにときに、蒸気機関車から吐き出された煙りが、部屋のあかりに照らされて、一瞬、ガラスにふれたかと思うと、また漆黒の闇にもどっていく。

食堂車にいく。この夕食が最後の中華料理になる。あすには、ロシアの食堂車になるからだ。同室のHさんとビールで乾杯する。そんな食事の最中も、遠く、機関車の動輪がまわる音が
、ぐぐぐぐと床から響いてくるようだ。

東京のネオン輝く町並みが、このいま列車でのぼっているこの闇夜が、同じ地球上に並列していることが、信じられない気持ちであった。

たとえば、ニューヨーク、シカゴなどであれば、まだ、わかる。テレビをまわせば、ホテルによっては日本の番組だってリアルタイムにみることができる。外国語の世界とはいえ、自分の日常とかぶる面も多い。

しかし、この闇の大興安嶺は、いま、自分が進んでいるのが、地球ではなく、他の惑星ではないか、と思わせる重みを私に感じさせた。私のカバンには日本の週刊誌も何冊か入ったままであったが、そこ書かれているゴシップは、まったく別世界の話ではないかと思いたくもなる。

部屋につく前、車掌に頼んで、紅茶をいれてもらった。透明のガラスに底の部分ととってが、金属製になっている。外を見ながら暖かい紅茶を飲むと、心底あったまる気がした。

あすは、国境の町、満州里。早朝の着になる。早めにベットに潜り込んだ


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