外資系経理マンのページ

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たそがれのカツドウヤ  3



「それくらい食べれるよなあ。はははは」

太っ腹な豪快な笑い方をする男だ。

出勤初日。午前中ほんの3時間ほどすぎただけであった。でも、それが一日にも一週間にもかんじた、といっても大げさでないくらい、それだけ、緊張の連続だった。そのせいか、あさ、アパートで食べたトーストがまだ、胃の中で存在感を誇示してるようであった。


でも、コスギ自身は、並を頼んだ。胃袋のキャパなのか、財布の容量の問題か、などそのときは考える余裕もなかった。

「きみ、シベリア鉄道のったって言ってたなあ」

いきなり、なにを言い出すのかとおもった。コスギは、面接で話をしたシベリア鉄道の話がいたく印象にのこったらしかった。

結局、採用面接というのは、運とか、タイミング。採用されるときは、あらかじめレールか、シナリオがしいてあったかのように、とんとん拍子にいくものだ。採用のポイントは「シベリア鉄道」だったわけだ。


「おれも一度、のってみたいんだなあ。」


コスギは、ロマンチストらしい。学生時代から、あこがれていて、一度、のろうと思いながら、いまに至った。

オーダーしたウナギはほどなくして、オーダーした特上大盛りが運ばれてきた。目の前におかれた。お重は、ごはんが山盛り。

その上に両端が5センチほどはみでたうなぎがじゅるじゅるたれが、音をたてている。それに、山椒をパラパラッとまんべんなくかける。

さすがに、お腹が食欲をおもいだしたかのように、箸がうごきだした。三人とも欠食児童のように、食べはじめた。老舗の出店らしく、味は格別なものであった。

オフィスにかえろうと、地上にでたところで、うしろから声をかけられた。

「おはようございます。」

編集のホリタだった。ビデ倫という、映倫のビデオ版のいわば自主検閲機関の検査に出向いた帰りだった。

「問題はなかったよな」

「もちろんですよ。シバさんもいましたからね。」

ビデ倫は、各映画会社のOBがメンバーだから、おとされることはない。

4月とはいえ、夏のような日ざしがわれわれを照りつけた。まだ、一日の半分もおわっていない。


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