【想い出の幼稚園】
あれは夏だったか 冬だったか
春だったか 秋だったか
彼女は僕に愛を告白した
「愛」なんて言葉が僕の辞書に載る前のお話
きっと彼女にごきげんな出来事があって
思わずそんなことを口にしてしまったのだろうと
にぎやかなブランコに揺られながら僕は思った
きっとこの告白には何の意味もなくて
これからも僕は彼女のボーイフレンドであり続けるだろうと
象のすべり台の傾斜に足を投げ出しながら思った
僕は待った
告白の種あかしが彼女の口から出てくる時を
待って 待って 待って 待って 待って 待って 待った
あれは夏だったか 冬だったか
春だったか 秋だったか
彼女は僕のほっぺを一発たたいて
さよならを告げて去って行った
まだまだ大人と言えるには程遠かった頃の想い出
あれは現実だったか 夢だったか
「愛」なんて言葉が僕の辞書に載る前のお話
【ひとつがふたつに】
ひとつがふたつに
ふたつがよっつに
よっつがやっつにならなくて
世間が混乱を始めている
先生も自信がなかったから
答案にはゆがんだ丸が並んだ
ただひとつ言えたことは
いちたすいちは
かならずしもににはならないってこと
ひとつがふたつに
ふたつがひとつに
心はまるで雲のように
どこまでもきまぐれな形をきどっていて
笑ったような泣き顔
泣いてるような微笑み
さよならはかならずしも
哀しみを意味するものではなくて
ひとつがふたつに
ふたつがよっつに
よっつがここのつになって
誰かが微笑んだりしている
【忘れ物のメモ】
「大切なことを忘れている」
伝言板の呼びかけに
ポケットをたたいて
落し物はないかと確かめる
僕のポケットには何も入っていない
何かを入れた記憶のないカラッポなポケット
「とても素敵な詩ですね」と
誉められたいつかの詩は
忘れ物を並べただけの
ただそれだけのメモ
僕の忘れ物は詩のように並んでいる
詩のように並んでいるいくつもの忘れ物
「笑顔をもう一度思い出してください」と
書いて送ったいつかのハガキを
僕はすっかり忘れてしまっている
思い出してくれた笑顔に出会って初めて
ハガキのことを思い出す
「叶えた夢を持って会いに行きます」
どこか覚えのある美しいこのメッセージも
きっと誰かに預けたままになっている
「大切なことを忘れている」
忘れ物のメモにそんなタイトルをつけてみる
「とても素敵な詩ですね」
誉められて初めて
僕が詩を書く人だったことを思い出す
【陽気な群れたち】
テレビの中の言葉が複雑な計算式になって
ステレオな耳の中でメロディーを奏でる
シュビドゥビ シャバダバ
シュビドゥビ ドゥビドゥバ
レポーターが画面からマイクを向けるものだから
僕は得意な歌を一曲披露する
となりの国に迷い込んでいたという鳥が帰ってきて
情報を自慢するのだけれども言葉が通じない
シュビドゥビ シャバダバ
シュビドゥビ ドゥビドゥバ
王女がある青年の詩に夢中になっているというニュースは
宮殿の近所では有名なのだそうだ
動物会議をつに自らの力で開いた動物たちに
沢山の花輪と祝福の歌が届けられた
シュビドゥビ シャバダバ
シュビドゥビ ドゥビドゥバ
氷枕の脇で初めて聴いた子守唄のように
動物たちの笑い声はどこまでも心地いいのだった
早起きなテレビ 夜更かしなラジオ
いつも眠りの足りない彼女たちのあどけない寝顔が口ずさむ
シュビドビ シャバダバ
シュビドゥビ ドゥビドゥバ
僕は大きなバナナの木に登って「ヤッホー」と
今年二番目の早起きを自慢する
【ライバル】
日焼け止めクリームの横の
小麦色に焼けたトースト
小麦色に焼けたトーストの横の
セピア色の日記帳
セピア色の日記帳の横の
体重計に乗っかったブリキの貯金箱
体重計に乗っかったブリキの貯金箱の横の
錆びついても美しいラヴソングの45回転
錆びついても美しいラヴソングの45回転の横の
難しく考えてばかりいる
実は優しさいっぱいのポエムのようなクロスワードパズル
いつまでも変わらないままでいたいと願う少年
ライバルたちは着実にてごわくなっているよ
【そよ風の中の吟遊小説家】
世の中には様々な職業がある
僕は吟遊小説家にでもなってみたい
トマト畑のヘルシーな香りの中で
ロマンチックな物語を紡ぎ出すのさ
クラシカルな洋風の馬車に乗って
主人公は彼女を迎えにやって来る
そよ風は幸福を運んでやって来る
愛は君を退屈させない・・・
自分の才能もかえりみず人はなにかしらの趣味を持つものだ
僕は吟遊小説家にでもなってみたい
デスク畑で頬杖ついて
ミュージカルチックな物語を紡ぎ出すのさ
タイプライターのリズミカルなメロディーに歌詞を付けて
乙女たちが踊りながら高らかに夢を唄う
そよ風はオフィスに和やかな空気をもたらせてゆく
仕事は流れるようにはかどってゆく・・・
一人か二人声援をくれる誰かがいるなら
僕は吟遊小説家にでもなってみたい
レンゲ畑に寝そべって
エンターテイメントチックな物語を紡ぎ出すのさ
トウモロコシのハーモニカを吹きながら
自称プロゴルファーは自然の中で風のささやきに耳を傾ける
そよ風は僕らをやわらかな発想へと導いてくれる
気ままな吟遊小説家はきっと誰の心にも存在している・・・
【そよ風の中の吟遊小説家 再び】
ポエムはポエム課の職員にでも任せておくとして
僕は吟遊小説家にでもなってみたい
オニオングラタンスープの香りの中で
センチメンタルチックな物語を紡ぎ出すのさ
水平線に架かる虹を描きながら
乙女はフルーツガーデンの招待状を待っている
コウノトリは巣の上から鼻歌を鳴らし始め
ロックンロール牧師は
新たな女性を口説く為の恋文をしたため始めている
気ままな吟遊小説家はきっと
誰の心にも存在している・・・

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