★過ぎてゆく





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        ― Passing away, saith the World ―

        Passing away, saith the World, passing away:
        Chances, beauty and youth, sapp'd day by day:
        Thy life never continueth in one stay.
        Is the eye waxen dim, is the dark hair changing to grey
        That hath won neither laurel nor bay?
        I shall clothe myself in Spring and bud in May:
        Thou, root-stricken, shalt not rebuild thy decay
        On my bosom for aye.
        Then I answer'd: Yea.

        by Christina Rossetti


        ― 過ぎてゆく ―

        過ぎてゆくのだ(こう、世界がいった)過ぎてゆくのだ。
        幸運も、 うる しさも、若さも、日ごとに衰えてゆくものなのだ。
        おまえの 生命 いのち も、決してひとつのところにとどまってはいないのだ。
        栄光のしるしである月桂樹を見たことも かむ ったこともないままに、
        おまえの目は 朦朧 もうろう とかすんできたではないか、黒髪も白くなったではないか?
        おれのほうは、春になれば新しい衣装をつけ、五月になれば芽ぐむのだ。
        だが、おまえは、根のところが傷んでるので、おれの胸ふところにおりなが
         ら、
        とこしえに、おまえの衰えからたちなおることができないのだ。
        ―そこで、わたしは答えた。「はい、そうです」

        過ぎてゆくのだ(こう、わたしの魂がいった)過ぎてゆくのだ。
        恐れやのぞみの重荷をおって、労働や愉楽の重荷をおって、過ぎてゆくのだ。
        過去が証人となって語ってくれる言葉に傾聴するがよいのだ。
        おまえの金貨には錆がつき、おまえの美しい着物には虫がつくのだ。
        おまえの蕾は害虫がむしばみ、あまえの葉は腐れ衰えるのだ。
        だが、ある日、その真夜中に、その鶏鳴のときに、その朝明けに、
        注意してごらん、「花婿」がやって来るのだ。遅れずにやって来るのだ。
        目をさまして祈るべきなのだ。
        ―そこで、私は答えた。「はい、そうします。」

        過ぎてゆくのだ(こう、私の神がおっしゃった)過ぎてゆくのだ。
        ひさしく停滞してみたものの、冬は、けっきょく去ってゆくのだ。
        新しいぶどうはぶどうの木にみのり、新しいいちじくは若い小枝にみのる。
        山ばとは、天国の五月には、友なる山ばとを呼ぶ。
        かりにわたしの来るのが遅れようとも、わたしを待て、わたしを信ぜよ。め ざめて祈れ。
        起きよ。立ちて去れ。夜は過ぎ、みよ、陽のひかりかがやきてあり。
        わが恋びと、わが妹、わが妻よ。なんじらに、わが声を聞かすべし。
        ―そこで、わたしは答えた。「はい、そうします。」


        斉藤正二 訳
        世界女流名詩集・深沢須磨子編/角川書店


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