はじめての日々

はじめての日々

最後まで手放さないもの


「還暦戦場記者」というテレビの特集に記憶があったし、リポートする小川さんの姿も、
どこかのチャンネルで見たことがあるような気がする。
とにかく、報じられることだけを見ても、なんでよりによってこんな人を狙ったのだろう、と
思わずにいられない。

ニュースで見る橋田さんの奥さんの姿も、気丈なだけに却って見るほうがつらくなる。
「本望だと思います」と言っている姿に、本望とは、本人の望みの略かと思ってしまった。
どんなに頭でわかっていても、残された家族はつらいに違いない。

最後に手にしたビデオカメラ、が、映し出された。
黒こげだった。
「可愛そうに」と奥さんは言った。
最後まで手放さなかったカメラ。

私が死ぬとき、最後まで握り締めているものはナンだろう、とふと思った。
智の手、と一瞬思うけれど、きっと智の方で遠慮こうむる、と言うに違いない。
では、本当になんだろう。カメラだろうか、ペンだろうか。
こんなとき、「伴侶の手」とか言えたらいいのだろうけれど結婚2年目。
まだまだそんな言葉をいえる重さはない・・・

そこで、携帯電話かもしれない、と考えた。
俗に言われる携帯中毒と違う、とだけは主張したい。

この携帯電話には、夫からの「帰ります」メッセージや、職場の人からの仕事の連絡、
仲のいい警察官から「今張り込み中」という言葉が入ってる。
もちろん生まれて間もない智の写真も入っているし、胎教を兼ねて着メロにしていた「カノン」も、
暇つぶしの友達だったテトリスも収められている。
そして、「六本木」を「6ホン木」と打つのが精一杯の母親からの言葉も。

仕事も私事も、
数多くの思い出や私の人間関係が凝縮されているのが、この携帯電話だ。

随分ボロボロになってしまっているけれど、これからも中身だけはとっておかないと。


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