はぴぶら☆しあわせ探し♪日記

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小説「都会の男、田舎の女」


けれど、それさえすめば、あたしの気分もウキウキ。
ヤマカンが当たって、テストのデキもよしよしだ。

「これなら都会の大学にいけるんじゃないの??」
なんて希望も沸いてくる。

「ねぇ、君。うちの大学を受けたんだろう?」

キャンパスを出てすぐ、声をかけられた。
それはドラマの中にしかいないような都会の男の人。
髪に金色メッシュが入り、おしゃれなモード系を着こなしている。

「気が早いかと思うかも知れないけど、君、サークルとか決めてる?」
あたしはぽかんと彼に見惚れていた。

「オレ、この学校の二年なんだけど、よかったらメシでも食べながら、お話しない? おごるからさ」  


    *


素敵なイタリア料理の店。

「ホントおとなしいね。君、地方から受験しに出てきたんだろう?」

男の人は言った。

「……地方からって……どうして、解るんですか?」

彼は、若鶏の香味風ソテーに添えられたポテトをフォークで突っついて、笑う。

「うん、君の格好が、そんな感じだったからさ。…でも、その靴は、おしゃれだよ」

あたしは真っ赤になった。
田舎者丸出しだったんだ。靴を褒めたのだって、あたしを頭の天辺からずっと見下していって、最後に残った場所が、そこしかなかったのに違いない。
あたしは、うつむいてポテトを頬張った。

ポテト。
おいしいけど、嫌な味だ。
お母さんとお父さんの顔を思い出した。
両親の育てるこのジャガイモ。無骨な皮に包まれた、じゃがいも。

あたしは農家の両親が恥ずかしい。
いつも土まみれで、顔も腕も日焼けして、真っ黒になって働くことは格好悪い。

ああはなりたくない! 絶対なりたくない!
田舎がイヤだからあたしは都会にきたのに。

「君は、ここで一人暮らしするんだろ?」

「えっ、はいっ!」ぼんやりしてしまっていたあたしは、慌てて頷く。
「合格していれば、ですけど。……あの、大学の授業って、たいへんなんですか?」

「おいおい君は、大学に入って勉強する気かい?」
彼は白けたように両手を広げる。
「一人で暮らすんなら、たくさん遊ばなきゃ。都会には楽しいこといっぱいあるぜ。まぁ、お金もいるけどテキトーに親を騙せばいい。教科書代ちょうだいってさ。一生懸命バイトなんて、格好悪いじゃん」

そして。

ぐしゃり。

彼はフォークの背でポテトを潰した。
気分が悪い。
なぜか両親の顔が歪んで重なった。

「……あの、ポテト、お嫌いなんですか?」

「えっ、ジャガイモ?」

「……はい」

「ああ、野暮ったくて嫌いだね」

彼は、ポテトを灰皿に落とした。
くしゃくしゃに潰された惨めな姿が煙草の灰に紛れる。
あたしは見つめる…ただ、それを見つめていた。

「それより。これからどこいく?ドライブどう?」

「……帰ります」

震える声しか出なかった。
彼は驚いて、もうひとつのポテトを床にとりこぼす。

「あれ、どうしたの?……帰るって、どこに?」

ぽかんとする男を睨んで、あたしは勘定をテーブルに叩きつけた。

「……田舎に決まってるでしょ。
 食べ物を粗末にするな、この、あほんだらっ!」


                *

泣きたい気持ちで人ごみを早足に歩く。

「あたしもあほんだらだ…」

コンクリートに覆われた地面は、かたくなに履きなれない靴を弾き返す。

「こんな靴、田舎の土で真っ黒にしてしまいたい!」

今のあたしには故郷の大地だけが恋しかった。



     ~END~


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