はぴぶら☆しあわせ探し♪日記

小説「ノストラダムスの七夕」

「ノストラダムスの七夕」

〈大人の会話〉

「……ねぇ、あなた」

「あ、うん？」

「子どもって、びっくりするくらい成長するものなのね。
一年、見ないうちに夕彦(あきひこ）、ずいぶん見違えたわ。
顔もずいぶん男らしくなってるし」

「七織（しおり）もだよ。
ずいぶん女の子らしくなったし、夕彦とも違う顔になってきたな」

「あら、夕彦と七織は双子だといっても二卵生双生児なのよ。
性別も性格ももちろん顔だって全然違うのに、今まで区別できなかったなんて、
親としての愛情不足の証明だわ」

「俺が区別できなかったのは、お前が二人にペアを着せてた後姿だ」

「ペアのどこがいけないのよ」

「子どもは親の人形じゃない。お前はそれがわかってない。
ピアノだ、お受験だって、束縛するのも、かわいそうだろう」

「あの子たちの将来を思ってたの」

「どうだか」

「太陽のカケラだか、中性子だかなんだか知らないけど、地下に潜って
一週間も二週間も帰ってこなかった人になんて言われたくない」

「俺が働かないで誰が生活費を稼ぐ？　
それに、あいつらの生き残るための仕事でもあるだろう。
二十一世紀は資源だって底をつく。新エネルギーが必要なんだ」

「ばっかみたい」

「なんだと！？」

「天文学者が救世主気取り？　
そんな未来のことより、今、この時、そばにいてあげるべきだったのよ。
ノストラダムスの予言で、世界が滅ぶかもしれないのに！」

「１９９９年七の月か？『恐怖の大魔王』は、彼の予言じゃない。
写本の過程で書き足されたもんだというのが最近の定説だ。
……科学的じゃない、そんなこと信じてるのか？」

「なによ！　いつもそうやって人をバカにして！
大体、あの時だって――！」

〈子どもの会話〉

「七織。パパたち、またケンカはじめちゃったよ。
……久し振りに会ったのに」

「いいのよ、夕彦」

「よくないよ」

「いいったらいいの。
パパとリコンしてから、ママ、死んだみたいだったのよ。
あれくらい元気なほうがいいんだってば」

「あーもう。二人とも仲直りしないのかな。
もう、きらいになっちゃったのかな」

「わかんないわよ。
大人ってスナオじゃないし、ものすごぉーくフクザツなのよ。
だから、しょーがないの」

「しょうがないって、七織！」

「……それより、ねぇ、夕彦。今日はなんの日か、おぼえてる？」

「えっ？　ボクたちの誕生日？」

「それもそうだけど……きょう、七夕でしょ」

「ああ、うん」

「短冊におねがいすれば、かなうっていう日なのよ。
ササ用意したよ。さぁ、おり紙切って、短冊つくりましょう」

「でも――」

「ほら、ぼさっとしてない。
男の子はみんなやることがトロいんだから」

「あ、えっと、うん」

〈大人の会話〉

「もう俺達は他人なんだ。他人が他人の過去に文句をいうのは反則だ。
喧嘩はやめよう」

「他人……。そうね。もう、他人なのよね。
……ごめんなさい」

「……ああ……うん……」

「…………」

「…………」

「ねぇ、あなた」

「なんだ？」

「夕彦のこと、仕事の犠牲にして、独りぼっちにしてない？」

「最近はなんとか七時には帰宅してる。
朝夕の飯も一緒に食べてるよ」

「ふーん」

「なぁ、あいつはすごいんだ。
塾なんていかなくても一番だし、将来は学者になるんだとさ」

「さすが、夕彦ね」

「まあな。……で、七織は？」

「お稽古ごとは、あの娘の好きにさせてる。
……七織、最近はサッカークラブなんかやってるの。
男の子なんかより、ずっとうまくて、この前も試合に出たの」

「……驚いた」

「すごいでしょ、七織」

「いや、驚いたのはお前だよ。
鬼のような教育ママが、ずいぶん変わったもんだな」

「そういうあなたこそ、家庭を顧みない仕事人間だったのに、まるで別人よ」

「そりゃあ、変わるさ」

「うん」

「子どもはかわいいし、何よりも大切だもんな」

「今はお互い身近にいる大切なもの、たった一つだから、なおさら」

〈子どもの会話〉

「ねぇ、七織」

「なによ、夕彦」

「七夕なんてカガクテキじゃないよ。
だって二つの星のあいだは十五・五光年もあるんだよ。
光のはやさでとんでも十五年以上かかるのに、一年に一回は会えないよ」

「超エンキョリレンアイか。
夕彦。小学生のくせにむずかしいこと知ってるね」

「大きくなったら、パパみたいな学者さんになるんだ」

「うん。夕彦ならなれる」

「うん。七織は？」

「あたしはＪリーグの選手！」

「女がなれるわけないじゃん！」

「未来は別なの。
……さて、短冊は、よしっと。
ほら夕彦、願うわよ。
……ちゃんと祈りおわった？」

「うん」

「おわったなら、シーザのサンポにいきましょう！」

「犬のサンポ？
もう、ボクとパパはかえる時間だよ。あと五分しかない！」

「男の子でしょ。あと五分もあるって考えなさい」

「でも」

「サッカーじゃあ、さいごの一秒まであきめずに走りまわるものよ！」

「あ、待って。パパたち怒るよ、ねぇ、七織！」

〈大人の会話〉

「産まれてくるのが男の子か女の子か、私たちモメたわよね」

「ああ」

「でも結果は男女の双子が産まれた」

「うん」

「七夕だったから、名前に『織姫と彦星』の文字を組み合わせて、七織と夕彦」

「俺は責任を感じてるよ。
考えてみれば、織姫星と彦星はばらばらになる運命の星だもんな。
もう少し考えてやればよかった
――まったく、浅はかなことだらけだ」

「浅はかなことの中に入ってるのは……
結婚したこと、それとも離婚したこと、それとも出会ったこと？」

「おいおい、よしてくれ。
どんな答えを出せばいいんだよ」

「……そうよね。
バカな質問して、ごめんなさい……」

「……いや」

「…………」

「…………」

「…………」

「――ああ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと」

「――ええ。今度会うのは、また一年後ね。
夕彦に会えなくなるなんて、寂しいわ」

「そうだな。俺ももっと七織と話しておくんだったよ。
……あれ、夕彦がいないぞ」

「シーザの散歩かしら。
さっきまで七夕の短冊書いてたのに」

「ほぉ、短冊か。
あいつら、どんな願いを書いたんだろう。
夕彦は、学者になりたい、かな」

「あたしにも見せて。
七織は、Ｊリーグに入りたい、って書いてある？」

『……………………………』

〈子どもの会話〉

「ねぇ、夕彦。
パパとママのキョリ、どれくらいはなれてるんだろうね」

「すくなくともヒコボシとオリヒメほどは、はなれてないとボクは思う」

「はなれてないかな、そうなのかなぁ。
今度、夕彦やパパに会えるのは一年後なんてさみしいなぁ」

「……でも、パパとママが決めたことだもの、しょうがないよ……」

「……あはは。
夕彦とも、パパとも、もう会えないかもね！
　ノストラダムスの予言じゃ、今月、世界はほろぶんだって！
……なんか、バイバイしにくくなっちゃうね……」

「……七織、泣かないでよ。
……大丈夫。また会えるよ。
七夕様におねがいしたもの」

「夕彦のうそつき。
七夕なんてカガクテキじゃないって、言ってたくせに、バカ」

「うん、まあ。
ボクと七織の二人だけのねがいじゃあ、とおい星にはとどかないかも」

「ほら、やっぱり！！」

「……だからボク、パパとママの分も短冊も残してきたんだ」

「…………？」

「家ぞく四人が、みんなでひとつのねがいごとをたのんだら
……星だってねがいをかなえてくれるって、七織はそう思わない？」

〈短冊に書かれた願いごと〉

もう一度、家ぞく四人でいっしょにくらせますように。

　　　　　　　　　　　しおり　あきひこ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜ＥＮＤ＞

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