はぴぶら☆しあわせ探し♪日記

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小説「拳銃指南」


その男の入った金物屋は、いかにもうさん臭い店だった。
カウンターに居座る店主が低い声で言う。


「セールスはお断りだ。それとも迷子になったか?
大通りは、ここを出て右だよ」

「……いえ、あの……『都会の夏は殺人的な暑さです。
ヒートアイランド現象っていうんでしょうか』」


男が泣きそうな顔で告げると、金物屋の店主の顔付きが一変した。


「あんた、どこで、その合い言葉を?」


気の弱そうな男は答えた。


「ほ、本当に拳銃を売ってくれるんですか?」



        *


「お客さん。見たとこ、サラリーマン?
カタギの人間がなんで銃なんか必要なのさ?
銃器は所持するだけで法に触れることになるんだぜ」

店主は、ジャックナイフの先っぽのような鋭い瞳で男を見つめ返す。

「殺人、傷害、脅迫、強盗?
あんたは何の罪を犯すつもりなんだ?」


「……私は……できれば……できれば私は殺人なんかしたくありません。
……そう努力はするつもりです……。
一般の方に迷惑をかけるのも、申し訳ないと思ってます。
でも、この状況を乗り切るためには、銃が必要なんです。
どうか、どうかお願いです、なんでもいいんです!
私に銃を譲って下さい」


男は深く頭を下げる。
承諾せねば、明日の朝までこのまま下げていそうな勢いだった。


「あんた、その口調じゃあ、銃の知識はないだろう」

「は、はい」

「まず、銃を教えてやる。拳銃指南ってやつさ。
よく考えて選べよ」


店主は苦笑いを浮かべて、ショーケースに包まれた銃器を、右から順に紹介し始めた。


「まず『手砲』の異名を持つ『デザートイーグル』なんかどうだ?
これは殺傷能力が高い上に、命中試験でも優秀だ。
殺人向きの銃だよ。首を締めるより、確実に人を殺せるよ」

客の男は、息苦しそうにネクタイを緩めると、首を横に振った。



「もし銀行強盗が目的なら、この『ウージー』ってサブマシンガンがお勧めだ。
一分間に千発近い弾丸の発射が可能っていう優れ物だ。
一人で大勢と交戦できるぜ。
これがあれば、警察もタジタジだぜ」

客の男は、タジタジと身を縮めながら首を横に振る。



「じゃあ、『S&W』。かの『ダティハリー』の銃だ。
見るからに美しくも凶悪な格好だろ?
脅迫に適した銃だ。
これを突きつけられりゃあ、誰でも震えちまうぜ」

客の男は、ぶるぶると震えながら、やはり首を横に振った。


「……最後に一応紹介しておくのは『トカレフ』だ。
これは粗悪銃の代名詞で、お勧めはできない。
あえてこの銃のメリットを言えば値段が安いことかな。
大量に出回ってる分、証拠もつきにくいしな。
まぁ、シケた強盗をするんなら、これでいいのかもしれん」

「ああ、トカレフ! その銃ですっ!」

客の男はついに立ち上がった。

「その銃を売って下さい!」


「えっ、これでいいの?」

店主はちょっと拍子抜けした。
「あ、うん、トカレフだって良銃さ。銃は使い方次第だからな。
命中率は低くくても、五メートル以内なら射程範囲に捉えることもできる」

「は、はい」

「ほら、怯えてないで、手に取って確かめてみな。
……くぅ、なってねぇな。
…まず安全装置を外す。肩の力を抜いて、右手に軽く構えな。
撃つ時は引き金を軽く引くだけでいい。
素人は力みすぎて自分の足を打ち抜くからな。
次は弾丸の込め方だ―」





店主は親切丁寧に指導した。
全ての指南が終わった時、客の男は何度も頭を下げた。

「……あのぉ、なんとお礼を言っていいのやら。
ご指導していただき、本当にありがとうございました」

「なぁに、いいさ。客だしな。
じゃあ、ちょっと待ちな、今、包んでやっからな」

すると客の男は、とんでもないといった具合に、首を横に振った。

「いえ、包まなくてもいいんです。
……すぐに使いますから」

「……すぐ……?」

客の男は指南どおり、肩の力を抜いて安全装置を外す。
トカレフを店主に頭に突き付けた。

「やい、金をだせ!」               





                   (END)


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