unbelievable
vol.3~病室放送~
就職して半年が過ぎ、
やっと仕事のことがわかるようになった頃の話。
『ナースコール』って知っていますよね。
よくテレビドラマなどでもコールしている場面を見かけますよね。
患者さんがコールボタンを押すと、ナースステーションのブザーが鳴り、
どの病室からのコールかがわかり、
マイクを使って病室の患者さんと話が出来るようになっているのです。
患者さんからのコールだけでなく、ナースステーションからも
「これから回診が始まります」
「検温の時間なので体温を測っておいてください」
「○○さん、外来へ行って下さい」
など、患者さんに連絡するときにも使っています。
このようにナースコールは看護の仕事の能率アップに
とても助かるものなのです。
ある日、糖尿病の治療のために内科病棟に入院していたKさんが、
椎間板ヘルニアの手術のために私の勤務する病棟に移ってきました。
Kさんは手術に対し強く不安を感じていました。
「腰の手術を失敗したら歩けなくなるんじゃないか」
「全身麻酔は怖い」
「術後の絶対安静はどれくらいなのか」
「何日で歩けるようになるのか」
・・・・等いろいろと看護婦を捕まえては聞いてくる。
その度に看護婦は親切にわかりやすく
手術のことや、術後のことを説明するが、
主治医にも会う度に同じ事を聞くほどの不安がりよう。
そんな手術も迫ったある日、
内科で同室だったTさんが
Kさん宛の伝言を看護婦にお願いしたのです。
「手術怖いだろうけど頑張って!早く良くなってくださいね」
内科の看護婦からそれを受け継いだのは
Kさんの担当の私でした。
普通に検温の時にでもその伝言を伝えればいいのですが、
私は、ふと考えたのです。
Tさんは、自分の病気のことも不安でいっぱいだろうに、
そんなときでも友達のKさんのことを気づかい励ます。。。
そう言う心を、他の患者さんたちにも知って欲しいような気がして、
「Kさん。
内科で同室だったTさんから、
『手術がんばって』というメッセージが届いていますよ」
と、病室放送してしまったのです。
放送した後、しまった!と思ったけど もう後の祭り。
しかし、その後病室へ行ったときの患者さんの反応が意外とよく、
絶対安静中で動けない患者さんや、
他の病棟へ移った患者へのメッセージが
看護婦の所へ次々へ寄せられてきたのです。
婦長がこの日から3日間不在だったため主任に
病気になると弱気になりがちだから、積極的に病気と向かい合って
その中にも楽しみを見つけられるような
心のゆとりがあった方が回復も早いのでは?
と、話したところ・・・・
「芽ネギさんがやったことはあまり好ましくないことですが、
Kさんに聞くと、
あの放送をしてもらってから病棟の患者さんたちが
励ましに来てくれたりして、手術する勇気が出てきたようです。
芽ネギさんが考えていることはとても大切なことだと思います。
昼食の時間などゆとりのあるとき
少しのメッセージくらいだったら放送してもいいでしょう」
と、許可を頂き、術後の人へのメッセージや
退院していく人からのメッセージなどが流されるようになりました。
そのうち・・・
「お見舞いにもらったお饅頭やお菓子が
たくさんあるからみんなに分けますよ。」
「退院したらみんなで温泉に行きましょう」
「今日の○○さん(看護婦)はいつもよりきれいです。みなさん要チェック」
などと楽しい伝言まで出てきてしまったのです・・・・
しかし帰ってきた婦長に、
本来緊急事態や業務用の病室放送を遊び気分で使うのは不謹慎と
注意を受け、放送伝言は中止となりました。
婦長は主任に
放送を始めたのは誰か訪ねたらしいのですが、
「彼女は間違ったことは考えていません。
間違ったのは放送を許可した私です。」
ずっと私の名前を出さなかったみたいです。
婦長さんその放送を最初に流したのは
・・・・・実は私です
完