おれ・・・男性。私立探偵。

ジェニファー・・・女性。パトロール警官。

エディ・・・男性。質屋店長。

ジョン・・・男性。辻説教師。

ハドソン・・・男性。剣劇俳優。

ベイツ・・・女性。モーテル女将。

ウェルズ・・・男性。市警警部。

パトリシア・・・女性。ハドソンの妻。





●安ホテル・早朝
   狭いベッドの上に寝転ぶ男女。
   <おれ>とジェニファー。
   素っ裸の上に申し訳程度のシーツ。
   倦怠感に浸りながら天井を眺めて。
   枕元のラジオが雑音混りに喋る。
   ハイテンションな男性司会者の声。
司会者「何も考えず両手を組んでみて。さあ、
 どちらの手の親指が下になっているかな。
 左の親指が下の人は左脳型人間・・・」
ジェニファー「いつも見るのね」
   顔の上で両手を組んでいる<おれ>。
   左手首の痣を無意識に確認して。
おれ「見なきゃ判らんって訳じゃない。物心
 ついた頃からの癖なんだ。三つ子の雀が何
 とやら、だ」
ジェニファー「・・・なんか違う気がする」
おれ「違うもんか。ペンも箸も拳銃もみんな
 右で持つ。間違う筈がない」
   ガバっとジェニファーに覆い被さって。
   女の豊かな乳房を左手で鷲掴む。
おれ「お前のオッパイは左が心もちデカイ。
 間違う筈がない」
ジェニファー「そっち、右よ。向かい合わせ
 だもん」
   乳を掴んだ左手首の痣にタイトル。

●同・承前
   ベッドに腰掛け服を着るジェニファー。
   たちまち凛々しい女性警官の姿に。
   浴室から顔を出す<おれ>。
おれ「それに便利だぞ。もし首なし死体でも
 見つかってみろ。ガイシャは左手首に小豆
 大の痣が有り・・・なんてこったあの敏腕
 探偵じゃないかジーザス! これからこの
 街はどうなっちまうんだ・・・」
ジェニファー「早く泡を落としなさいよ」
おれ「なんだ、もう行っちゃうのか」
ジェニファー「午後から三連勤なの。その前
 にお腹に何か入れさせて」
おれ「あれだけ入れてやったのにまだ物足り
 ないのかい」
ジェニファー「・・・射撃練習場の的が老朽
 化しちゃって市警が予算に困ってるらしい
 んだけど」
おれ「おお、くわばらくわばら。もしもの時
 はキミが身元確認してくれよ」
   <おれ>に向かって飛ぶ針金ハンガー。

●質屋・午前
   カウンター内の優男・エディ。
   一枚の紙幣を表にしたり裏にしたり。
おれ「シェイディ・エディ、いくら見たって
 ベンおじさんはウィンクしないぜ」
エディ「その手は食わんよ。旦那の手品にゃ
 もう懲り懲りだからな」
おれ「気前のいい客が現れたのさ、この通り」
   懐から丸めた紙幣の束。
エディ「分かった分かった。懐があったかい
 からっておっ広げるのは程々に」
おれ「ご忠告どうも。ほら交換だ」
   エディ、カウンターの質札を回収。
   代わりに置かれた拳銃。
   コルトディテクティブSP。
おれ「許可証も返してくれるんだろうな」
   拳銃を上着の内ポケットへ。
エディ「ご心配なく。それよりもどうだい、
 そんなに景気がいいなら、素敵な質流れ品
 でも見て行かないか」
おれ「商機を逃さん男だよ、お前さんは」

●交差点・午後
   禿頭の神父・ジョン。
   寂れた道端で熱狂的な辻説教。
   足下に托鉢用の喜捨箱。
ジョン「子供たちはエリシャを囃し立てた。
 『登れハゲ、登れ』と。エリシャは主の名
 を以て彼らを呪った。すると熊が・・・」
   折った紙幣を投入口に挿す<おれ>。
おれ「羊の群れと羊飼いを海から引き上げた
 御方はどこにおられるのか」
   ジロリと<おれ>を睨むジョン。
ジョン「民は互いにその隣人を虐げ、若者は
 老人に、卑しき者は尊き者に高ぶる」
おれ「三階の五号室か、えらく生ぐさい所に
 おわすんだな」
   対岸のアパートメントを見て。
おれ「いざとなったら、銀のラッパで報せて
 くれよ」
   赤信号を無視して横断する<おれ>。

●アパートメント・階段~廊下・午後
   白昼なお仄暗い階段を上る<おれ>。
   右手にディテクティブSPを抜いて。
   三階の廊下を慎重に進む。
   五号室の扉の前で半身になって。
   試しに回したノブ、抵抗なし。
   姿勢を低くして一気に飛び込む。

●同・五号室・午後
   殺風景な廊下とは真逆の華美な室内。
   東洋風の悪趣味なインテリアに彩られ。
   一見、人の気配は無く。
   部屋の奥へ歩を進める<おれ>。
   えせ中華風のソファを回り込んで躓く。
   足下に横たわった逞しい紳士。
おれ「何てこった、顔を踏んじまった。悪気
 は無いから怒らないでくれ・・・」
   その時、後頭部に景徳鎮の一撃。

●同・承前
   床の上で目を醒ます<おれ>。
   目の前に仲良く並んで横臥する紳士。
   右目を撃ち抜かれたハドソン氏。
   頬に<おれ>の靴痕がくっきり。
   紅く弾けた眼窩に蜜蜂が止まる。
おれ「火遊びは割に合わないね、ミスター・
 グラディエーター」
   暫く息を潜めて気配を窺う。
   右手で床を探るも花瓶の欠片だけ。
   思いきって上半身を起こす<おれ>。
   拳銃は左手側の床の上に。
   覚束ない手つきで空の弾倉を確認。
   溜息をついて内ポケットに。
   ハドソンの亡骸を仔細に調べる。
   顔面の他にも胴に複数の弾痕。
おれ「お灸にしちゃ、やり過ぎだ」
   その時、窓の外の街路から歌声。
   意外にも美しいジョンの聖歌。
   そして重なるように近づくサイレン。
おれ「ずいぶんと有難い警告だこと」
   後頭部の瘤を顰め面で撫でながら。

●同・承前
   次々と加わるサイレン。
   部屋の壁や天井を調べる<おれ>。
おれ「防火も防音も言うことなし。見てくれ
 は前世紀の遺物だが流石は最高級の売春宿、
 安心安全大いに結構」
   マッチを擦ろうとするも上手く行かず。
   震える手で何とか煙草に火を。
   部屋の端に天井に届きそうな熊の剝製。
   背伸びして熊の口に煙草を咥えさせる。
おれ「禁煙しようと思ってたんだ。遠慮なく
 やってくれ」
   追加で五本まとめて突っ込む。
   煙の束、天井の感知器に吸い込まれて。

●同・廊下・午後
   火災報知器の音とスプリンクラーの雨。
   それまで閑散としていた廊下。
   次の瞬間、爆発的に全てのドアが開く。
   半裸の男女が無声喜劇のように溢れて。
   押し合いへし合い逃げる中に<おれ>。

●交差点・午後
   警官と避難者と野次馬で鮨詰めの街路。
   追加で消防車も駆けつける。
   信号機によじ登って続けられる説教。
ジョン「今や娼婦となり果てた我が貞淑なる
 街よ!」
   引きずり降ろそうとする警官たち。
   その中に警官姿の<おれ>。
おれ「いつの間に御立派な・・・」
   必死に抗うジョンの頭の上。
   風になびく天使のような金髪。
   強面と余りにミスマッチではある。
おれ「演出の一環か。坊さんも大変だ」
   そっと現場を離れる<おれ>。
   よく見ると変装は帽子と上着だけ。
   反対側の歩道では。
   一箇所に集められた半裸の男たち。
   警官たちから遠慮ない罵声が飛ぶ。
警官「ガキや女房に顔向けできるんか!」
警官「そのだらしない腹を何とかしろ!」
   肉の海から一人の男が這い出す。
半裸男「助けてくれ、俺の制服が・・・」
   青痣に囲まれた目が<おれ>を捉えて。
半裸男「あ、あの野郎だッ!」

●下水道・午後
   マンホールのスリットから落ちる光。
   鈍く響く地上の捜索音。
   足下を気にしながら進む<おれ>。
   大胆に横切る鼠に毒づきながら。
おれ「ワニの餌にでもなりやがれ」
   <おれ>を見て物言いたげな鼠。

●モーテル・客室・夕
   浴室から素っ裸の<おれ>登場。
   痛みに堪えながら髪をタオルで拭く。
   素肌に新しいシャツを羽織って。
   手が震えて上手くボタンがはまらない。
おれ「畜生、脳味噌が断線してるみたいだ」

●同・フロント・午後(回想)
   宿泊カードに向かい合う<おれ>。
   右手のペンが震えて書けない。
   カウンター内には仏頂面の老嬢。
おれ「えーと、ミセス・ベイツ?」
ベイツ「ミス」
おれ「失敬、ミス・ベイツ。申し訳ないけど
 代筆をお願いできないかな」
ベイツ「お上に𠮟られるんだけど」
おれ「このペンがダンスパートナーをお気に
 召さないようでして」
   ベイツ、手の震えをじろりと一瞥。
ベイツ「アルコール切れかい」
おれ「いや、そういうわけじゃ・・・」
ベイツ「お宅には聖書とまさかりが必要だね」
   カウンターの下をまさぐるベイツ。
おれ「おっと、急に滑りが良くなった」
   左手で支えながら強引に書く<おれ>。

●同・客室・夕
   ベッドの背凭れに寄りかかる<おれ>。
   リモコンでテレビをザッピング。
   カートゥーン、西部劇、料理番組。
   ソープオペラ、動物番組、アメフト。
おれ「銀幕の恋人がごみ溜めでくたばったと
 いうのに世間は薄情だな」
   漸くニュース番組に突き当たる。
   現場前で取材を受けるウェルズ警部。
おれ「一張羅でめかし込んじゃって。カメラ
 位置も気にしすぎ。シナトラ気取りかよ。
 自意識がプンプン臭うぜ・・・」
   言ってから自分の体を嗅ぐ<おれ>。

●チャイナタウン・飯店・夜
   活気と香気に満ちた店内。
   テーブル席で海鮮炒飯を食うウェルズ。
   背中合わせの席から脇腹に銃口が。
おれ「美味そうな海老だ。治ったんですか、
 甲殻類アレルギーは」
ウェルズ「不良探偵、何の真似だ」
   左脇を通して銃を突きつける<おれ>。
   顔は卓上の五目そばに向けたまま。
おれ「ひとの台詞を盗らないでくださいよ。
 とんでもない厄介事に巻き込んだくせに」
ウェルズ「本当にいかれたのか、責任能力を
 争うつもりか」
   ウェルズの視線の先、大鏡に映る二人。
おれ「おれの手は真っ白だ、なんて言っても
 誰も信じちゃくれないでしょうな」
ウェルズ「現在進行形の行為だけで、五年は
 ぶち込んでやれるんだぞ」
おれ「上に内緒でグレー事案を外部委託する
 行為は何年食らう罪なんですかね」
ウェルズ「・・・・・・」
おれ「妙だなとは思ったんですよ。芸能人の
 性癖を暴く依頼をわざわざ警部どのが仲介
 するなんて。しかも目玉が飛び出るような
 報酬ときた」
ウェルズ「・・・・・・」
おれ「コート、エディの店から無事受け出せ
 たんですね」
ウェルズ「・・・・・・」
おれ「警部どの、本当の依頼者は誰です」
ウェルズ「・・・・・・」
おれ「麺が伸びちまう。食い終わるまでに心
 を決めておいてください」
   銃を突きつけたまま左手に箸。
   熱々の麺を啜り始める<おれ>。
ウェルズ「・・・器用だな」
おれ「必要に迫られたら大概のことには適応
 できるんですよ、生物ってやつは」

●同・承前
   左手に箸を挟んでご馳走さまポーズ。
おれ「さて、そろそろ答案用紙の回収だ」
ウェルズ「このまま逃げ回るつもりか」
おれ「それはお宅の答え次第じゃないかな」
ウェルズ「何度聞かれても同じだ。シンプル
 な浮気調査、それ以上でも以下でもない」
おれ「では仕方ない。未亡人の傷を抉るのは
 趣味じゃないが」
ウェルズ「弔問かね。彼女は自宅におらんよ。
 私の部下に護られて静かに喪に服してる。
 そっとしておくんだな」
おれ「静かに、ねえ・・・」
   立ち上がる<おれ>に、ウェルズ反応。
おれ「おっとそのまま。おれが店を出るまで
 尻は重力に任せて頂きましょう」
   拳銃を隠しながら席を回り込む。
おれ「善良な市民の夕食を台無しにするのは
 心苦しいのでね」
ウェルズ「悪党め・・・」
おれ「そうそう、お借りした制服は分署気付
 で送りました。少々どぶ臭いのはご勘弁を。
 洗ってる余裕が無かったんで」
   通りがかった団体客に紛れて出口へ。
   鏡の横を通り過ぎる時、無意識に目が。
   己の鏡像に一瞬ギョっとする<おれ>。

●公衆電話・夜
   受話器に耳を傾ける<おれ>。
   傍らには積まれたコイン。
おれ「シェイディ・エディ、報道は見たかい。
 ああ、無論おれじゃない。もう店じまいは
 したのか。じゃあ申し訳ないが、もう一度
 シャッターを上げてくれないか。やっぱり
 素敵な質流れ品が欲しくなったんだ」
   コインをリズミカルに投入。

●質店・夜
   カウンターに向かって固まる<おれ>。
   カウンター内で迷惑顔のエディ。
   昼間の優男ぶりから変わり果てた姿。
   だらしない服装の百貫でぶ。
エディ「いつまで睨めっこしてるつもりだよ。
 二ポンドステーキとグレイヴィーソースを
 待たせてるんだが」
おれ「・・・その、なんだ、ちょっと見ない
 間にえらく貫禄が出てきたな」
エディ「旦那がとぼけてる間にも脂は刻々と
 酸化していくんだ。とっとと用件を」
おれ「あ、ああ。そうだったな・・・」
   気おされるように懐を探る<おれ>。
   カウンターに数枚の紙幣。

●ハドソン邸・居間・深夜
   昏い室内に廊下の灯が射し込む。
   ドアの隙間から忍び入る女の影。
パトリシア「・・・誰かいるの」
   か細い指が電気のスイッチを探る。
   たちまち照らし出される瀟洒な部屋。
おれ「なんだ、やっぱりご在宅じゃないか。
 あのアナグマ親父め」
   カウチにふんぞり返っている<おれ>。
   女の唇からヒィッと声が漏れる。
おれ「ミセス・ハドソン、こんな時間に申し
 訳ございません。どうしても哀悼の意を表
 したくて。それがどうも妙でしてね、一度
 お邪魔した筈のこのお邸にどうしても辿り
 着けないんですよ。いやね、道はちゃんと
 覚えていたんです。レノックス通りを南へ
 九ブロック、ガイガー広場の交差点で左に
 折れてその先のY字路を右へ・・・」
パトリシア「あなた、交替の・・・」
おれ「ところが行き着く先はなぜか崖。何度
 戻って出直してもね。そこでふっと閃いた
 んです。全て逆の道を選んでみようって。
 これが正解でした、こんな非常識な時間の
 訪問にはなりましたが」
   一方的に滔々と語り続ける<おれ>。
   じわじわ後退りするパトリシア。
   黒いナイトウェアの中で震える肢体。
パトリシア「彼はどこ、あなた誰よ」
おれ「これは悲しいな。所詮、過去の男って
 わけですか。記憶に留める価値すら無いと」
   座ったままで拳銃を向ける<おれ>。
   パトリシア、釘づけにされたように。
おれ「そう言えばこのカウチでした。随分と
 誘惑してくれましたよね。ジョセフィン・
 ベイカーばりのダンス、今でも目に浮かぶ
 ようです」
   恍惚としてカウチを撫でる<おれ>。
おれ「そうそう、最新版のお相手ならそこで
 お休みですよ。熟睡しすぎて夜伽の役には
 立たんでしょうが」
   パトリシアの視線、部屋の一隅へ誘導。
   暖炉の前で簀巻きにされている男。
パトリシア「何てこと。その人は刑事さんよ。
 私を警護して・・・」
おれ「今さら貞淑ぶるのはやめろ!」
   一喝に竦み上がるパトリシア。
おれ「亭主をどうしようがアンタの勝手だ。
 玉座だろうが電気椅子だろうが好きな方に
 座ったらいい。だがな、おれをコケにした
 ツケはきっちり払ってもらうぜ」
   カウチを立って女に詰め寄る<おれ>。
パトリシア「あなたなんか知らないわ・・・」
おれ「おれも知らん、そんな可憐な淑女は」
パトリシア「狂ってる・・・」
おれ「ああ、そうかもな。誰かさんのせいで
 ずっと変なんだ、頭も体も・・・」
   後頭部をさする<おれ>。
   その時、背後のフランス窓が割れる。
   庭から銃を構えた刑事が踏み込む。
交替刑事「銃を捨てろ!」
おれ「お安い御用だ!」
   ディテクティブSPを投げつける。
   刑事が怯んだ隙に屈み込む<おれ>。
   ずり上がったズボンの右裾。
   足首に留められたコルトデリンジャー。
おれ「頼んだぜ、骨董品」
   右手で抜こうとして空振り。
   もう一度試みる前に左肩に衝撃。
   刑事の拳銃から硝煙が上がっている。
   <おれ>、被弾して意気阻喪。
   女を突き飛ばして部屋から遁走。
交替刑事「止まれ!」
   足を縺れさせながらも廊下を突っ切る。

●同・玄関・深夜
   荘重な扉からまろび出る<おれ>。
   石段でたたらを踏みながら銃を抜く。
交替刑事「止まれ!」
   背後の警告を無視して庭へ。
ジェニファー「止まりなさい!」
   唐突に点灯する庭園照明。
   同時に芝生のスプリンクラーが作動。
   <おれ>の正面に制服のジェニファー。
   ウィーバースタンスで拳銃を構えて。
おれ「ハニー! おれだよ!」
ジェニファー「銃を捨てて、手は頭の後ろ!」
おれ「落ち着けって。まだご機嫌斜めか」
   ジェニファー、上へ一発威嚇射撃。
おれ「くそっ、どいつもこいつも!」
   デリンジャーを放り出して膝をつく。
ジェニファー「手を後頭部に!」
おれ「無茶言うな。肩をやられて上がるか」
   だらんと下がった<おれ>の左腕。
   少しずつ距離を詰めるジェニファー。
   スプリンクラーの虹が戦女神を彩る。
おれ「ああ、綺麗だ・・・」
ジェニファー「許可なく口をきかないで!」
おれ「忘れたのか。今朝もこの手でお前を」
   <おれ>の視線、己の左手に。
   血に塗れた手首に痣は見当たらない。
おれ「何のペテンだよ・・・」
   思わず右手を下ろして確認。
   右手首に、見慣れた小豆大の痣。
交替刑事「誰が下ろしていいと言った!」
   響き渡る大音量の銃声。
   自分の胴体に目を落とす<おれ>。
   胸の真ん中に開いた巨大な風穴。
   巻き添えで吹っ飛んだ両手首。
   ジェニファー、口を押さえて呆然。
   背後で刑事を押しのけたパトリシア。
   煙を上げた散弾銃を構えて仁王立ち。
パトリシア「主人を返して・・・」
   急速に溶暗する<おれ>の視界。

●安ホテル・早朝
   汗まみれで跳ね起きる<おれ>。
   五体無事な体を確認して唾を飲む。
   痣もちゃんと左手首に。
   背後から抱きつく裸のジェニファー。
ジェニファー「どうしたの坊や。怖い夢でも
 見たのかな」
おれ「あべこべは・・・もう懲り懲りだ」

●同・承前
   シーツに包まって眠るジェニファー。
   快楽の余韻に肌を上気させながら。
   <おれ>、後ろから彼女を抱きすくめる。
   左手で量感のある乳房を優しく包んで。
   夢の中で微かに喘ぐジェニファー。
おれ「ああよかった、やっぱりこっちの方が
 デカイ・・・」

●同・承前
   浴室でシャワーを浴びる<おれ>。
おれ「今日から三連勤だっけ?」
ジェニファー「そうだよ。よく知ってるね」
   水音の合間にジェニファーの声。
おれ「次の休み、また会えないか」
ジェニファー「いいけど。でも、やりまくる
 だけじゃイヤだからね」
おれ「分かってるさ。ちゃんとデートプラン
 を立てとくよ」
ジェニファー「ほんとお?」
おれ「よっぽど信用ないんだな」
ジェニファー「さあね。・・・あなたは私を
 信じてる?」
おれ「当たり前だろ。おれという存在を証明
 してくれるのはキミだけなんだから」
   シャワーで落ちた泡の下から痣。
   <おれ>、愛しげにそれを撫でる。

●同・承前
   ベッドの上で服を着るジェニファー。
   最後に白いストッキングを留めて。
   清潔で艶めかしいナースの制服。
   引き寄せたバッグの口を開く。
   中に覗くギラギラした手術道具。
   愛しげに微笑むジェニファー。
   シャワーの音が、止まる。





                   了


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